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手術を受けるかどうか

いよいよ大高先生の診察を受けます。先生の前に座ると、まず、名刺を渡してくれます。「大高です。よろしくな」

先生は「16度の斜視やね。手術は可能やな」と言いました。それから、私がバインダーに書いた質問に答えてくれました。

「両眼視ができるようになるかは本当にわからんのよ。傷跡の赤みは、目の結膜を切るんやけど、ほとんどの人は綺麗に治るけど、ケロイド体質なんやったら残るかもしれん。もちろん、それでも残らん人もおるけどな。しわが残るのは鼻側やな」

「先生だったら薦めますか? 手術」

「おれはね、基本的にプリント(斜視のことについて説明されているプリント)に書いてあるように、積極的には薦めんよ。正直に言えば。でも、そこを乗り越えて手術したいですっ! と決心した人に対しては、全力で最高の手術にあたる」とおっしゃいました。

プリントには、

「先生、手術で完全にまっすぐになりますか?」「やってみないとわからないですね」「そんないいかげんな手術なんて受けられません(怒)!」という会話は、斜視の診察でよくあるパターンなのですが、眼科医としても個人差がある以上、平均値のデータに基づいて術後の保証ができるものではないので、これが正直な回答になってしまうのです。この患者さんのおっしゃる通り、斜視手術は「個々の人」に対しては、元来いいかげんなものと思われてしまうのかもしれません。
細かいところを述べると、「手術が成功しても、術後、プラスマイナス10度以内の誤差は残っても仕方がない」と考えるのが斜視手術の現状です。10度以内の誤差は、自分が本来持っている、眼を同じ向きにしようとする力で修正してください、というわけです。ですが、実際には斜視の患者さんはこの修正する力も弱いことが多く、10度以内の誤差におさまっても、納得のいく見え方や見た目にならないという不満を持ってしまうこともあります。
術前よりも見た目ははるかによくなることには違いないのですが、手術を受けるからには完璧に揃えたい!と思う気持ちが出てくるのが人情なのかもしれません。ですので、神経質な性格の患者さんには斜視手術はお勧めしません。

とあります。All aboutのこちらの記事でも読めます。

わたしは、すぐには答えを出せませんでした。やっと、やっと、ここまでたどり着いたのに、大高先生の前で「手術、お願いします!」と言うことができなかった。
声をふりしぼって、「もう少し、考えます」というのが精いっぱいでした。

がっくりしているわたしの背中を、大高先生はポンポンとたたき、「大丈夫。ゆっくり考えたらええ」と。そして、右手を差し出し、握手。
ぽろっと涙がこぼれました。

診察が終わりました。

(つづく)

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