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「量子」と「時間」と「世界」の謎解き

量子力学もこれまで回を重ねてきましたが、今回はさらに核心的なテーマになります。タイトルの通り量子はついに数千キロを超えるという空間的概念だけでなく“時間”というものの常識を覆してきました。

早速本題に移る前に今回用いられる実験回路のマッハ・ツェンダー干渉計(Mach-Zehnder Inferometer *1)について説明します。この装置は図1に示されるようなもので複雑なものではなく、ハーフミラー/ミラー/光源/検出器という簡単な回路で自作キットも販売されています。図1左を見ると分かりますが、光源から発射された光がハーフミラーに当たって半分ずつ2方向に分岐し、また合流していずれかの検出器に到達するしくみです。

本来このマッハ・ツェンダー干渉計(MZI)は物質の成分分析等に開発されたものなのですが、「光が2方向に分岐して合流する」という仕組みを聞いてもうピンときた方もいると思いますが、「二重スリット実験」と非常に構造が似ており量子力学実験でもよく用いられています。

通常の光(レーザー光)をこの回路に照射するとどうなるかというと、図2Aのようになります。普通に設置すると光は最終的に半分ずつ2つの検出器に検出されます。しかし、ミラーの位置を微調整して2つのルートの光の位相差がずれるようにすると、図のように全く光が届かない場所や、逆に強め合う場所が出てきます。


これを実際にレーザー光で実験した研究があり(*2)、それを図3に示します。この図のように検出器には干渉縞が現れます。これはレーザーが光であり波の性質を持つから2つのルートを通った波が干渉して縞模様ができることは容易に理解できます。

この研究者も次に“光子(量子)を1個だけこの回路に照射したらどうなるか?”という疑問を持ちました。そして実際にレーザー光を弱めて光子1個ずつ照射した結果は図4のようになりました。

図4上に示す通り、検出器はやはり干渉縞を記録しました。そして、その干渉縞の間隔は通常のレーザー光と光子1個ずつの照射の場合とで、ほぼ一致していました。この実験結果が意味することは“光子が1個でも2つのコースに分岐して各々進み、合流地点でまた互いに干渉して縞模様を形成する”ということです。光は1個、2個と数えられる“粒子性”を持ちながら、干渉して増幅したり減衰する“波動性”も同時に保持しているということを表します。この辺は二重スリット実験の基本的な部分で過去に解説していますのでそちらを読んでみてください(*3)。

1個の光子が2つの異なる経路を同時に通過して互いに干渉する、という現象は二重スリット実験(*3)とこのマッハ・ツェンダー干渉計(MZI)で同じ現象と言えます。このMZI回路で「1個ずつ光子を照射し、回路には1個の光子しか存在しない」条件でミラーを微調整して2つの経路の光子で干渉を起こさせると、図5Aのように片方の検出器では全く光子を検出しなくなります。これは「1個の光子の片方が、自分自身の別の半分と合流するときに干渉して打ち消し合う」からです。これを証明するために図5Bのように片方のルートを遮断すると、その途端に検出器1が光子を検出し始めます。これは合流地点に片方からの光子が到達できないことで干渉が起こらずに光子が検出器1に届くようになるからです。

このような“1個の量子が空間的に2つに離れてもペアの関係”であることは“量子もつれ/エンタングルメント(*4)”と呼ばれ、理論的には数千キロ離れていても関係が成立することが知られています(*5)。

しかし、先ほどは「1個の光子が同時に2つのルートを通過する」ことが示されましたが、「2つのルートを分離したらどうなるか?」という実験結果を図6に示します。図6Aのようにルートの合流地点にハーフミラー(BS/ビームスプリッター)ではなく普通のミラーを挿入し、途中までのルートは変えずに合流地点を分離させたらどうなるでしょうか?。仮説としては「1個の光子が半分ずつになって各ルートを通り、両方の検出器で検出できるのでは?」という予想も成り立ちます。

実際にはどうなったかというと、図6Aに既に書かれている通り、赤のルートを通過した場合はそちらの検出器のみ光子が検出され、青ルートの検出器には反応がありません。逆に青ルートを通過した場合は青ルートの検出器のみ検出され、赤ルートの検出器は無反応でした。つまり、「この場合1個の光子はどちらか片方のルートに100%か0%の値しかとらない」という結果になります(*6, *7)。残念ながら図6Bのように「1個の光子が分離した各々のルートに50%ずつ検出されるのでは?」という予想は見事に裏切られました。

この現象は「量子が通過するルートを特定しようとすると性質が変化する」という不思議な現象として知られています。それは「二重スリットのどちらを通過したか観測しようとすると性質が変わる(*3)」、「量子がスリットを通過した先が重ならなければ粒子、通過した先が重なる場合は波の性質になる(*8)」という現象と同じ量子力学的現象です。

どういうメカニズムか分からないが、量子は到達地点に合わせてその性質を変えている」ということが言えます。しかしこれは今だにどの科学者も明確な説明はできていません。


そこで、ここからが今回の本題ですが、量子力学の先駆者であるジョン=ホイーラー博士(1911-2008, *9)は次のような思考実験を提唱します;「量子が分岐点を通過した後で、その先の状態を変化させたらどうなるのだろうか?」。このMZI回路で説明すると「最初に光子がハーフミラーを通過したときに、①到達地点が合流する場合→光子は2つのルートに分かれて進む(図7A)、②到達地点が合流しない場合→光子は分離せずにどちらか片方のルートに進む(図7B)」という条件分岐が当てはまります。

このとき例えば「光子がハーフミラーを通過した後で、合流するはずだったルートを合流しないように切り替えた場合、2つのルートに分かれて進んでいた光子はどうなるのか?(図7C)」という「量子を騙せるか?量子との知恵比べ」といったテーマの実験です。

当時は光子に先回りして構造を変化させる技術はありませんでしたが、2007年にフランスの研究施設からこれを実現した研究が発表されました(*10)。この回路図(図8)の中央部分の四角形がマッハ・ツェンダー回路になります。光子がハーフミラー(BS)を通過して分岐してから合流するまで約160ns(ナノ秒)かかり、合流部を連結させるかどうかのON/OFFの切り替えが120nsかかります。つまり光子がハーフミラーを通過した後で、合流部の状態を変更することが可能な回路です。

この装置を使うと光子は到達地点に応じて「波として2つのルートを分岐して進む」か「粒子としてどちらか一方のルートに進む」か決定した後に「到達地点が変わってしまう」ということになります。気になる結果は図9のようになりました。

これを見ると回路が交わるとき(本来は光子が波の性質を示す)は図9Aのように“ほぼ正確に波の性質が再現された”(回路が交わってないときに入射された光子も含まれているのに)。また逆に回路が交わらないとき(本来は光子が粒子の性質を示す)は図9Bのように“ほぼ正確に粒子の性質が再現された”(回路が交わっているときに入射された光子もふくまれているはずなのに)。

結論としては、「光子が入射したときどのような状態であろうと、回路が交わって干渉可能な場合は“波動性”を示し、回路が交わらず干渉できない場合は“粒子性”を示した」と言えます。

さて、また我々の想定を覆す実験結果が出てしまいました。
疑問:「光子はどの時点で波になるか粒子になるか決定されるのか?」
仮定1:「分岐点(ハーフミラー)より手前で決定」と仮定した場合、その時の到達地点に合わせて波か粒子か決定したとすると、その後に「変更された到達地点に合わせて」また途中で変わったことになります(2つに分かれた片方はどうなるのか?その逆は?瞬間移動?)。
仮定2:「分岐点を通過した後」だとすると通過時点で「2つのルートを進むか、どちらか1方へ進むか」いずれかに決定しなければならないのに、辻褄が合わない。
仮定3:「到着地点が変更されたとき、時間を遡って分岐点で性質を変える」。これはもうビックリ理論ですね。やはり革新的発想なので期待を込めて信じる人もいれば頑なに否定する人もいるようです。
仮説4:「この現象も含め宇宙そのものが虚像・ホログラフィである」。これも今までの全てを根底から覆す理論ですが、真剣に研究されており研究論文も出ています(*13, *14)。

これを読んだ皆さんはどう考えますか?結局どの仮説も現代物理の概念では説明することができません。もちろん、「上のどの仮説でもない」ということも十分にあり得ます。

昔の人々は「大地を中心に天空が回転している」と信じて疑いませんでしたが、実は「大地自体が回転し、太陽の周りを公転している」ことが分かりました。またかつて人々は皆「時間も空間も絶対である」と思い込んでいました。そこでアインシュタインは一般相対性理論(*11)を提唱し、実際は「時間も空間も歪んだり変形したりする」ものであることを証明しました。そして量子力学になると「1つの量子が同時に2つになり、たとえ数千キロ離れてもシンクロする」という不可解なことも疑う余地のない事実として証明されています。ここに来て量子力学はさらなる別の課題を我々に突きつけているのかもしれません。

我々は「時間」というものの概念についても既存のものを壊して新たな概念を創造しなければならないかもしれません。誰しも「何かが起こり、それによる影響はその後の世界、未来に現れる」「過去に原因があってその後に結果が生じる」と思っています。逆はあり得ません。「未来のことで過去が変わる」ということは我々の常識では考えられません。

但し、「時間は過去から未来へ流れる」、「出来事は過去から順番に起こる」という当たり前と思えることも実は「我々がそう思い込んでいるだけ」なのかもしれません。先に挙げた例の様に「誰もが信じて疑わなかったこと」は何度も覆されてきています。「時間とは常に一定なのか?」「時間とは常に過去から未来へ一方通行なのか?」「時間とは一本道なのか?他の時空が存在するのか?」「そもそも“時間”というものが存在するのか?」「“時間がある”という我々の意識の中に存在しているだけなのか?」「実は我々は見ているのは虚像ではないのか?」「時間も空間も我々の意識の中の幻影ではないか?」など常識的に信じ難いこともありますが、実際にこのような理論が近年多々見られます。

これらは決して遠い国の幻想ではなく、常に我々が生活している世界で起こっている現象です。量子力学も常に我々が触れている物質の世界です。時間や意識も形而上学という非物質的世界の学問でしたが、「量子と意識のつながり(*12)」によってこれらも密接な関係を保つことが証明されています。ミクロの量子の世界や時間の世界、こういったものに考えを巡らせることは、瞑想と全く同じ効果があります。さまざまな瞑想法でも極めていくといずれは超自我/全体意識/宇宙/神秘性という領域へと昇華していきます。「自分が意識するもののみが存在する」という法則を使いこなすならこの世界を理解し「意識で現実を変える」こともできるかもしれませんね。

(著者:野宮琢磨)

野宮琢磨  医師・医学博士
臨床医として20年以上様々な疾患と患者に接し、身体的問題と同時に精神的問題にも取り組む。基礎研究と臨床研究で数々の英文研究論文を執筆。業績は海外でも評価され、自身が学術論文を執筆するだけではなく、海外の医学学術雑誌から研究論文の査読の依頼も引き受けている。エビデンス偏重主義にならないよう、未開拓の研究分野にも注目。医療の未来を探り続けている。

引用文献/参考文献
*1. マッハ・ツェンダー干渉計 
https://ja.wikipedia.org/wiki/マッハ・ツェンダー干渉計
*2. Dimitrova TL, Weis A. A double demonstration experiment for the dual nature of light. Proc. of SPIE Vol. 6604, 66040O, 2007, doi:10.1117/12.726898
*3. 「観る」ことで「現実が変わる」?:二重スリット実験 
https://note.com/newlifemagazine/n/nf11ac38b370a
*4. 量子もつれ−Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/量子もつれ
*5. “遠隔ヒーリング”は科学的に証明できるか?
https://note.com/newlifemagazine/n/n349ffafbd715
*6. Dimitrova TL, Weis A. Lecture demonstrations of interference and quantum erasing with single photons. Physica Scripta T135: 014003, 2009
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/0031-8949/2009/T135/014003
*7. 小芦 雅斗. 微かな光の不思議な世界. 東京大学 Todai OCW 学術俯瞰講義 2012
*8. 量子の最新研究と因果律の崩壊?
https://note.com/newlifemagazine/n/nf66f91110a61
*9. ジョン・ホイーラー
https://ja.wikipedia.org/wiki/ジョン・ホイーラー
*10. Jacques V, et al. Experimental Realization of Wheeler’s Delayed-Choice Gedanken Experiment. Science 315, 966-968 (2007); DOI: 10.1126/science.1136303
*11. 相対性理論ーWikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/相対性理論
*12. 「意識」が物質を変えることを証明:二重スリット世界規模実験
https://note.com/newlifemagazine/n/n19342d9a4f56
*13. ホログラフィック原理-Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/ホログラフィック原理
*14. Afshordi N et al. From Planck Data to Planck Era: Observational Tests of Holographic Cosmology. Phys. Rev. Lett. 118, 041301.
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.118.041301

画像引用
*a. Mach Zehnder Interferometer 
https://www.indiamart.com/proddetail/mach-zehnder-interferometer-9705574733.html
*https://rare-gallery.com/4582346-women-profile-face-artwork-fantasy-art-abstract-time-space-clocks-paint-splatter-digital-art.html

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