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「Z世代はググらない」が炎上したことから見る、パーソナライズド・コミュニケーションの可能性

2022-08-12
個人化・多様化が進む今、企業はユーザー個人と向き合いコミュニケーションすることを、以前よりも求められています。この記事では、改めてパーソナライズド・コミュニケーションとは何か、そして何故ユーザーはそれを求めるのか。海外のレポート・論文を参照しながら、その本質に迫ります。

はじめまして、NEWPEACE 22年新卒入社の桐野です。2022年8月現在、”Z世代はググらない”というキーワードが、SNS上で話題を呼んでいます。こちらに関して、NewsPicksは以下のように説明しています。

一部要約
"TikTok"といえばダンス動画などを撮影し、投稿する、若い世代のエンタメ系SNSというイメージがあるが、近頃Z世代の間では「情報収集ツール」になっている。何かをぱっと調べたい時には、本でもなく、Google検索でもなく、TikTokで調べる若者が増えている。

出典:NewsPicks

またこうした内容に対して、以下のような意見がTwitter上で観察できます。

ここから、Z世代間であっても、ユーザーは数多に存在する選択肢から、一人一人異なる用途でツールを選び、情報を消費していることがわかります。
このように、個人化・多様化が進む現代社会では、サービスを提供する側も、今まで以上にユーザー個人に向き合い、コミュニケーションを図る必要があるのです。そこでこの記事では、これからのコミュニケーションスタンダードとなるであろう、パーソナライズド・コミュニケーションとは何か、またユーザーは何故それを求めるのか、その本質に迫ります。

パーソナライズド・コミュニケーションとは

顧客管理分野における世界最大のSaaS企業Salesforceは、パーソナライゼーション(≒パーソナライズド・コミュニーション)のことを以下のように定義しています。

企業が個人について学習した情報に基づいて、個人に対して体験やコミュニケーションを仕立てる行為

出典:Salesforce

パーソナライズド・コミュニケーションの例として、今から10年ほど前の2011年Coca-Cola社がオーストラリアで、その後アメリカ、イギリスと全世界で行い大変話題となった "Share a Coke" キャンペーンをご紹介します。本キャンペーンは至ってシンプルですが、下の画像のようにCoca-Colaのラベルに人の名前を刻印するというもの。炭酸飲料水としての機能や品質が改良されたわけではありません。

Share a Coke’ キャンペーンビジュアル (出典:Coca-Cola UK)

さらに、この時期の市況はリーマンショックに伴い不景気。しかし、この状況に反して、2015年のIPA Social Worksのケーススタディレポートでは、以下のように多大なポジティブ・インパクトがあったと報告しています。

(抜粋)
・夏季8週間の間だけで、125万人以上のティーンがCoca-Colaを購入
・Twitterで89,000件、Instagramで496,000件に昇るハッシュタグ「#ShareaCoke」の利用
・ ボリューム(前年比11%増)、収益(前年比11%増)、シェア(前年比1.6%増)、ベロシティ (前年同期比 +10%)のセールスインパクト

出典:IPA Social Works

どこでも手に取ることができるが、どこか遠い”企業”と感じてたCoca-Colaを、近い”友人”のような存在へとプロダクトポジションを再設計したキャンペーン。膨大なリサーチを経てユーザーインサイトを探し出し、個人に向き合いサービスを展開した、代表的なパーソナライズド・コミュニケーションの成功事例だと言えます。

ユーザーがパーソナライズド・コミュニケーションを求める理由

パーソナライズド・コミュニケーションと検索してみると、Forbesの記事など、日英問わず、具体的にどうやるかといった、"HOW(どうやって)"の話が多く、"WHY(なぜ必要か)"の話はなかなかヒットしません。以上より、ユーザーは何故企業からそうしたコミュニケーション受け取りたいのかに関して、海外のレポート・論文を参照しながら考察したいと思います。

1 . ユーザーの持つコントロール欲求へのアクセス

Texas大学が237人を対象とした、ユーザーのメディア消費における心理に関する調査を参照すると、ユーザーの持つコントロール欲求がパーソナライズド・コミュニケーションを求める一つの理由だと考えられます。私も、コミュニケーションを取る側である前に、多様なサービスの消費者であるわけですが、実際はコミュニケーションの受け手がコントロールできる要素は限られており、コミュニケーションを取る側の意図やアルゴリズムに多くは委ねられています。

テックカンパニーの行き過ぎたユーザーコントロールに関して言及したNetflixの作品
SNS上でも話題になった (出典:Netflix)

しかし本論文は、ユーザーは自分の好みや興味に合わせてカスタマイズされた情報を認識する時、自らがコントロールし、情報を享受する感覚を持つと示唆しています。パーソナライズされた情報は、人間の持つ”コントロール”という深い欲求にアクセスすることができるため、それ故にポジティブに感じる→求めるというのです。

また、このコントロール感は、サービスや消費体験の快適さに関連していることを指摘しており、自分事として情報を受け取ることのできる設計により増幅されると考えられることから、コミュニケーションをする側は、ユーザーが可変可能な余白のある形を意図的に設計し、実施することも重要であると考えられます。コミュニケーションをする側が、ユーザーをpassiveなものではなく、activeに捉える・させることの重要性は、メディアコミュニケーション分野の重鎮であるElihu Katzが唱えた、Uses and gratifications theoryの中でも語られています。

2. ユーザーを取り巻く、情報の過負荷環境からのエスケープ

また同論文は、情報の過負荷という視座からも、パーソナライズド・コミュニケーションがユーザーに求められる理由を述べています。冒頭でも述べたとおり、インターネットが普及して以降の我々の社会は、様々な選択肢にありふれています。例えば自動車業界。Harvard大学のAsia Centreの報告によれば、1925-1935年の日本にて、自動車メーカーFordとGeneral motorsのマーケットシェアは95%だったそうですが、今では、道路を一目見渡しても、ベンツ、トヨタ、スズキ、日産、テスラ、フォードetc…。そんなことはありえませんよね。ここからも、我々は歴史史上最も多様な選択肢を持ち、過剰な負荷がかかった情報環境の中で生活をしていることがわかります。

2020年、イギリスではFordが自動車マーケットのシェア第1位。しかし、そのシェアは9.28%
(出典:Electronic Specifier)

情報の過負荷がユーザーの意思決定に及ぼす影響について、五邑大学が行った研究によれば、情報の過負荷は消費者の意思決定プロセスを阻害し、ダメージを与える可能性があると指摘をしています。逆説的に捉えると、これはパーソナライゼーションが求められる所以の一つと考えられます。パーソナライズするということは、色のない無数にも存在する情報にまた一つ同質の情報を付加するのではなく、色のある情報を加えることによって、ユーザーの知覚世界に制限をかけることに他なりません。そうすることによって、多くのユーザーの意思決定プロセスは簡略化されます。

2017年に発表されたRedEyeのレポートによると、企業がA/Bテスト戦略とウェブサイトのパーソナライゼーションの両方を適用した場合、そのうちの84%の企業でコンバージョン率が改善されたとのことです。情報過多をカットすることでのユーザーの意思決定を手助けできる、そしてユーザーはその恩恵を感じているからこそ、パーソナライズド・コミュニケーションを求めているのだと考えられます。

webサイトのパーソナライズだけでも、77%コンバージョン率が改善される (出典:RedEye)

パーソナライズド・コミュニケーションはブランド・ロイヤリティも高める

また、ユーザーの欲求を満たすパーソナライズド・コミュニケーションを実施できれば、ブランド・ロイヤリティを高めることも可能です。Twilio Segmentが2022年に行ったレポートは、パーソナライズド・コミュニケーションはROI(投資利益率)が高いことを総評として強調しており、もしブランドがパーソナライズ不十分なコミュニケーションを消費者に対し取った際には、2021年より20%上昇の、62%の消費者がブランド・ロイヤリティを失うと報告しています。

出典:Twilio Segment

また、McKinsy&Companyが2021年に発表したレポートの中でも、コロナの影響で75%にも及ぶ消費者の購買行動が変容した結果、71%の消費者がパーソナライズされたブランド体験を期待していると述べ、もしそれが見つからなかった場合、76%の消費者がロイヤルティを落とすと報告しています。ここから、改めて社会風潮的にも、ブランドの生存戦略的にも、パーソナライズド・コミュニケーションを取ることがより一層重要になっていくと考えられます。

出典:McKinsy&Company

終わりに

今回の記事では、「Z世代はググらない」を巡る議論から見える社会風潮を踏まえて、パーソナライズド・コミュニケーションとは何か、またユーザーは何故それを求めるのか、その本質に迫りました。

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