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チュニジア あらゆる人が声を掛けてくる気さくな国

 「オレの家に寄っていけ」。

チュニジア各地を旅行してわずか数日、行く先々で声を掛けられることにすっかり慣れてしまった。イスラムの国なのに、髪や肌を隠す女性は少数派で、誰もがオープン。首都チュニスの美術館の屋上では、14歳という女の子さえ1人で近づいてきて、カバンの中からサンドイッチを取り出して一緒に食べようと誘ってきた。

 マクタルという小さな町では2回も声を掛けられ、それぞれの自宅に招待された。最初の1人は女性。家族構成がよく分からないが、招かれた家の中にはやけにまじめな夫婦と、もう1人の女性、そして子どもが3人。話した内容は全く覚えていないが、枯れ果てた山を背景に写真を撮らせてもらおうと家の外に並んでもらったら、夫婦の旦那は直立不動し、奥方の手をしっかり握りしめた。

 その後、またフラフラと歩いていたら、陽に焼けた植木等のような男が声を掛けてきた。「オレの家に寄っていけ」。黒いジャケット、ちょっとよれたグレーのズボン、ホコリで汚れた黒の革靴。身だしなみの努力は伝わってくる。

 家に入ると、彼の姉という女性と、従兄弟という若い男がいた。熱いチャイとザクロの実を和えた常温のクスクスでもてなされた。羊などを煮込んだソースをかけて食べる熱いクスクスしか知らなかったので、常温というか冷えたというか熱くないクスクスを出されたときは少々ショックだったが、ザクロ入りは妙に新鮮な味だった。

 「フランスに住んでいるのか。オレたちの国の連中が悪いことばかりしているだろ。すまない」「まあ、この国にいても仕事がないからな、失業率は30%だ」「そういうオレも失業中さ、わはは!」と、彼はクスクスを一緒に食べながら、一方的に話す。口に食べ物が残っている状態で、従兄弟ともベラベラ喋っていて、姉がそんな弟をたしなめている。そのうち、彼は従兄弟に何やらツッコミを入れられ、急に笑いだして口からクスクスを吹き出し、姉がとうとう怒り出した。

「オレを笑わせたコイツが悪いのさ」。

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写真は全て当時の紙焼きをスキャンしたもの。

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