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それでいいのだ

7年前に夫の介護に専念しようと、仕事を全部やめた。
クライアントに今後のことをお話しし、日々の仕事から全部撤退させていただくことに。

キャリアを捨ててしまうのは勿体無い、介護施設へ預けて仕事は続けたほうがいい、と心配してくれる声を聞きながら
在宅介護の道を選んだ。
私がやるしかない!私がやる!そう思ったから。

収入はなくなるけれど、介護も仕事も全力でやる自信は、全くない。
目の前で苦しんでいる夫を助けずに、人の役に立つ仕事はできないとわかっていたし。
後先考えずに、在宅介護の世界に飛び込む
大変な道だとは知らずに。

今、介護を終えて思うことは
やり切ったから全くの後悔はない、とは言えないけれど、
やり切ったからよし!と思っている。

全ては自己満足の世界だ。私が納得できていればそれでいいのだ。

あのまま、仕事を続けていたら絶対に後悔したはず。
プライベートをほったらかしにして、偽りの世界で「キラキラ」を演じ苦しんでいたと思う。

介護は本当に大変だったけれど、そこに嘘は全くなかった。
今できることを全力でやった。
いいと思うものは全て取り入れ、学び、介護に活かしていった。
本気でやることが使命だと感じていた。

だから、本当はそれまでの仕事より楽しかった。
何より夫といられる時間ができて、うれしかった。

身体の大きな夫を抱えたり、移動させたりするのは体力的にはとてもつらかったけれど、そんなことは大したことではない、と思えた。

夫の力になれていることがうれしくて
大変だけれど、やりがいのある毎日で
夫と過ごす時間が穏やかで心地よかった。
この幸せはずっと続くんだと、死を見ない様にしていた。

段々と、プロの力を借りなくてはならなくなり、たくさんの人が出入りするようになった時
私の空間がなくなってしまうことで、強いストレスを感じていた。

夫は人当たりがよくニコニコしているので誰からも好かれるけれど
私は、パーソナルスペースに入って来られるのが苦手なのだ。

仕事では、とてもうまく線引きができていたようで、介護を始めて、このストレスに気がついた。
そうか、人が苦手だったんだ、と。

それまでは人のことが好きだと思っていた。
誰に対してもオープンな性格だと思っていた。
それは、24時間365日できることではなかったことに気づく。

あー、これは在宅介護するには向いてないと気づく。
けれど、始めたものはやるしかない。
途中で辞めるという選択肢は全くなかった。

ケアマネさんはこのひとだ!と感じるまで探した。
大変だった。

介護の世界とこれまでの仕事とのギャップがありすぎて、病んでしまうことも多々あった。

24時間365日の介護は待ってはくれない。
介護うつになりながら、夫相手に暴れながら、たくさんの問題を超えてきたと思う。

心身の疲労は半端なかったけれど、自分のことは顧みずに介護に明け暮れていた。
これだけやっていれば、冒頭の悔いはなし発言になって当然かもしれないなぁ。

一般常識の社会とは異なる介護の世界。
時代と逆行しているかの様な違和感がいつもあった。
手続きは大変だし、紙の書類はたくさんあるし、無駄なことばかりだ、と感じていた。
でもそのお陰で、最後まで家で過ごすことができたのだ。
重度障がい者でもあったので、行政のサービスが多岐に渡って夫を支援してくれた。
今は、感謝しかない。

これまでの人生で、最も困難で、最も人に助けられていることを実感した時間でもあった。

人は誰かの世話になって生きている、ことを感じた。
一人では生きていないんだな、と思える出来事ばかりだった。

しかし、夫が亡くなり、また社会に戻って働くことを考える時が来るとは
そのころ全く想像もしていない。
全くのバカである。

簡単に仕事を辞め、夫がいなくなって初めて、路頭に迷っていることを感じる。

バカ以外の言葉が見つからないが、
私らしくていいなと思う。
後先考えずに、飛び込む。
そしてやり尽くす。

介護のゴールは「死」だ。
達成感とは真逆だけれども、ステージをクリアできた気はしている。
目の前に突きつけられた課題をクリア。
それをクリアしなくては、先に進めない課題。

介護をせずにあのまま働いていても、きっと破綻していたと思う。
目の前の問題を見ないようにして、他でうまくいくはずがない。
全ては繋がっていると思う。

今、仕事はないけれど、収入もわずかな年金しかないけれど
ここから必ず、道が開けると思う。
いや、もう道はできているんではないか。

目指すゴールは決まっている。
どうやってそこに辿り着くかは今のところ全くわからないけれど
ゴールは決まっている。

今は、日々の小さな課題をクリアして、これまでの心身の疲労を回復する時期なんではないだろうか。
             (2.7ヶ月目)

新堂きりこ

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