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[レポート]イタリアの文化を知ろう! ② 奥村奈央子さん@オンラインレクチャー

9月半ばから、たんぽぽの家とGood Job!センター香芝の(以下、GJセンター)のスタッフ&メンバーがヴェネチアをはじめ、ミラノやトリノなどを訪れるのに合わせた「イタリアの文化を知ろうシリーズ」第二回目です!

8月18日に東京にいる講師の奥村奈央子さんと、たんぽぽの家、GJセンターをzoomでつないで実施しました。

前回のレポートはこちら↓




講師紹介

今回はイタリアの社会福祉制度や、イタリアのNPO福祉法人「Laboratorio zanzara(ラボラトリオ・ザンザーラ、以下ザンザーラ)」の様子を、講師の奥村奈央子さんからお話しいただきました。

講師プロフィール / 奥村奈央子
デザイナー、プランナー。福祉や更生のフィールドを中心としたデザインやプロデュース・コンサルティングを行う。LABORATORIO ZANZARAアジア圏パートナー。
ウェブサイト:https://naokoo.com

現在GJセンターのショップでは、とてもチャーミングなザンザーラの商品を取り扱っています。私たちGJセンターに、いや、日本にザンザーラを紹介したのが奥村さんなのでした。

「ザンザーラ 張子 立ちくま」 出典:https://goodjobstore.jp
ザンザーラのエコバッグ 写真提供:LABORATORIO ZANZARA

イタリアの社会福祉

公立精神病院が廃止された!

まずは奥村さんより、イタリアの社会福祉制度からレクチャーいただきました。
いきなり見出しから驚きですが、今から45年も前に(!)イタリアでは精神病院が廃止されました。今では地域の精神保健センターなどがその役割を担っています。

イタリアでは1978年のバザーリア法によって精神病院が閉鎖され、精神病院がない社会がつくられました。実際にイタリア全土で精神病院が閉鎖されたのは1999年のことになります。
一方で私たちの日本は、世界の精神病床の約2割にあたる約35万床もの精神病床を有する精神病院大国です。

*引用元:認定NPO法人大阪精神医療人権センター https://www.psy-jinken-osaka.org/archives/etic/2555/

医師から始まった「精神病院をなくそう!」

一体イタリアでは、どうやって精神病院を無くしたのでしょう?
それはイタリア北東部のトリエステにて、精神科医師フランコ・バザーリアから始まりました。彼は患者を「病人」としてではなく「人間」として向き合うことに心を砕きました。
やがて彼の愛弟子たちの力添えや、当時の社会運動の波に乗って「自由こそ治療だ!」を合言葉に精神病院の改革が始まり、最後にはイタリア全土の精神病院を解体することを決めた法律が1978年に成立しました。

ひとりの精神科の医師から始まり、イタリアの人びとが自分たちで社会を変えた大きな一歩でした。

たんぽぽの家でレクチャーを聞いている様子

社会的協同組合

精神病院が解体された後の受け皿は、1991年に発足した「社会協同組合(Cooperativa Sociale)」という制度によって担われるようになりました。
A型、B型/混合型、コンソーシアム型と大まかに2つに分類され、「社会的に不利な立場に置かれた人々」に焦点が置かれています。


A型は主に福祉サービス事業所などの福祉サービス。B型は雇用を目的としたもの。ここでは競争的雇用というよりも「一緒に働いて一緒に暮らす」を意識した取り組みが多いようです。
そしてコンソーシアム型は、複数の組織が連合して協力していく形です。

驚きなのが、この制度には知的障害、身体障害、精神障害…などの「障害種別がない」ということ。「社会的に生きにくさ・ハンディを持っている人」が対象となっています。

Laboratorio Zanzaraについて

デザイン+福祉ケア=ザンザーラ

すっかり前置きが長くなりましたが、ザンザーラのご紹介をしましょう。
イタリアの北西部の街・トリノ。この旧市街にザンザーラこと「Laboratorio Zanzara」はあります。トリノの人口は88万人、日本で言うと仙台くらいの規模です。

出典:Google map

ザンザーラはデザイナーとソーシャルワーカーが2001年に共同設立したNPO福祉法人で、スタッフは6人、利用者は15人と小さな団体です。

自分たちの在り方を考えた結果、ザンザーラは先述した「社会的協同組合」ではなくNPO法人として活動されています。「自分たちで決めていく」という、イタリアらしいスタイルが表れています。

ザンザーラのエコバッグ 写真提供:奥村奈央子さん

ザンザーラのスタッフは、ケアラーよりもデザイナーが多くの割合を占めます。そのうち3人は社会福祉関係の資格を持っていますが、ケアラーよりもデザイナーが多くの割合を占め、教育関係者よりもデザイナーの方が多く採用されています。

そしてスタッフはマルチスキルです。小さい会社なので、複数の役割を一人が担う必要があるので、一人一人が二つ以上の役割を持って働いています。

ザンザーラ:「私たちは、教育関係者よりもデザイナーの方を多く採用しています。というのも、その方が採用しやすいと思ったからです。必要なスキルのひとつに「感性」があります。感性がないと、コミュニケーションもとれないし、ここで働く人たちのためにベストを尽くすこともできません。しかし、ベストを尽くすには、デザインも得意でなければなりません。」

アトリエでは、グラフィックデザイン/張子やシルクスクリーン制作/オーダーメイド制作/演劇のワークショップが行われており、企業や自治体の仕事も多数手掛けています。また、ショップも併設されています。

この場所を利用する人たちは、演劇などを通じて感性を刺激する機会を持ったり、質の高いデザインや製品の制作を通して、社会と関わりを持っています。

ザンザーラのショールーム 出典:https://laboratoriozanzara.it

ザンザーラ:「店に来れば、ザンザーラのメンバーが働いている姿を見ることができます。
私たちは、商品を販売することで社会の一員となります。ザンザーラは街の中心部にあり、経費もかかるので商業的な部分も大事ですが、社会貢献的な部分でも評価してもらうことが必要なのです。
商品を売ることと、社会の一部となること。出費を賄うためにも商業は大切ですが、社会的な面も大切にしています。」

イタリアらしい!? ザンザーラの日々

さてザンザーラのメンバーは、どんな1日を送っているのでしょうか?
のぞいてみましょう。

9:00  朝はエスプレッソを飲んでから、ゆっくりと始業
12:30 - 14:00 近くの食堂でランチタイム。
15:30 制作終了
16:00 帰宅

月曜から木曜日は仕事をして、金曜日はレクリエーションの日。全体的にゆったりとしています。レクリエーションではサッカーをする日もあれば、ただただ心のうちを話す日もあるそうです。
さすがイタリア!と思ったのは、みなさん「休日のために働いている」「家族と休息のために労働がある」という人もいたら、仕事を一番に考えている人もいるところです。


質疑応答

いよいよレクチャーも佳境に。たんぽぽの家のメンバーから、実際イタリアに行かれた奥村さんへ質問がありました。

たんぽぽの家メンバーが質問している様子

【質問】ザンザーラの目指すものとは何でしょうか?
【回答】ザンザーラで、働く人たちは「生きて」います。
ザンザーラは彼らの生活の一部です。抱えている問題は様々で、プロジェクトへの貢献度も大小ありますが、皆がプロジェクトの一員だと感じられることを目指しています。

最後に

「自分たちで選択して決める」こと。障害者というよりも、患者というよりも「一人の人間」として尊重すること。
奥村さんのお話からも、社会福祉の制度やザンザーラの在り方からも、イタリアの人びとが大切にしていることが伝わってきて、まだ行ってもいないのに、何だかイタリアの温かさを感じてしまいました。

私たちがイタリア滞在中は、イタリアのデザインや文化、手仕事なども学び、日本でたんぽぽの家やGJセンターが取り組んできた、障害のある人とのアート活動や伝統的なものづくりなども紹介し、交流する予定です。

ますますイタリア行きが待ち遠しいですね!

レポート:玄番佐恵子

一般財団法人たんぽぽの家では、「ニュートラの学校:福祉と伝統工芸をつなぐ人材育成と仕組みづくり」を実施しています(文化庁委託事業 「令和5年度障害者等による文化芸術活動推進事業」)。
今年度の取り組みでは、「海外発信・交流と報告会の開催」として、「第18回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」において、「NEW TRADITIONAL」の取り組みや製品紹介などを行います。


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