至高のバンド「SUPERCAR」Vol.6:ANSWER
この記事をご覧いただきましてありがとうございます。
さて、以前の投稿より、自分の好きなことを楽しく書いてみようということで、趣味の音楽について【短期集中連載】を開始しております。
テーマはズバリ、
”至高のバンド「SUPERCAR」"
SUPERCARは、90年代後半から2000年代にかけて日本の音楽シーンで活躍したバンドであり、数多のアーティストの中でも私がトップクラスで好きなバンドであります。
なお、SUPERCARの説明や魅力については、Vol.1でたっぷりと紹介していますで、ぜひご覧ください👇👇
Vol.2以降は、SUPERCARが発表したオリジナルアルバムについて1枚ずつ魅力を深掘りしていこうと思います。
ニッチなテーマですが、少しだけお付き合いいただけると幸いです。
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今回は、5thアルバム「ANSWER」について書いていきます。
ちなみに、Vol.1でも書いたように、SUPERCARはアルバムごとに音楽性を大胆に変化させています。私自身も、解散後のシングル集「A」でその変化に衝撃を受け、まずはどのオリジナルアルバムから聴いていこうか悩みましたが、結果的にはオリジナルアルバムを発売順に聴くことになりました。
1st「スリーアウトチェンジ」と2nd「JUMP UP」を聴いて、当初の期待を裏切らないどころか、聴くほどにSUPERCARの魅力にどっぷりハマっていき、3rd「Futurama」〜4th「HIGHVISION」でみせた斬新な音楽性の変化にも見事に虜になってしまいました。
それらの時期を過ぎて、バンドのまた新たな一面をみせることになる5thアルバム「ANSWER」、バンドサウンドに回帰しながらもサウンドを徹底して追求していく姿は変わらず、まるでバンドのキャリアの集大成とも言える作品となりました。
そして、皮肉にもラストアルバムにふさわしいタイトルの本作を最後に、SUPERCARは活動を終了します(時系列では、本作の発売の後に解散を発表しています)。
「ANSWER」の概要
「ANSWER」は2004年に発売されたSUPERCARの5thアルバムであり、シングル曲の"RECREATION””BGM””LAST SCENE””WONDER WORD”を含む全13曲が収録されています。
すでに何度か書いていますが、エレクトロサウンドに傾倒した前作「HIGHVISION」とは一転、本作ではバンドサウンドに回帰します。
ただ、デビュー作である1st「スリーアウトチェンジ」のような轟音ギターサウンドを全面に出したシューゲイザーロックとは全く異なり、一音一音を丁寧に鳴らしたジャジーでサイケデリック色の強い作風となっています。
一部の楽曲では前作に引き続きプロデューサーを起用し、また、今作からジャケットアートワークに、日本におけるサイケデリックアートの第一人者でもある田名網敬一氏とVJ宇川直弘氏の共働として起用するなど、サウンドやアルバムの世界観を徹底して追求する姿勢は前作から変わっていません。
また、バンドプロフィールによると、前作「HGHVISION」は未来に、「ANSWER」は制作当時の現在にフォーカスした作品として制作されたようです。
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正直、私は最初、このアルバムの良さが分かりませんでした。前作「HIGHVISION」でも同じようなことを言いましたが、「HIGHVISION」よりも掴めませんでした。
アルバムを通して、ダークな暗闇の世界で同じテンションのサウンドが鳴り続けているような印象があり、20歳そこそこの私には到底理解できない世界観でした。
ただ、最近になってこのアルバムの良さが少しずつ分かるようになり(いや、良さが分かるなんて偉そうなので)体がこのアルバムを受け入れるようになりました。
まるで、夜のジャズバーで本作のレコードをかけても全く違和感のないような、アダルティな作品です。
そう、これは完全に、大人のアルバムです。ですが、本作を制作・リリースしたタイミングでは、メンバー全員まだ20代半ばです。一体どういう感性をしているのか、只々驚愕です。
このアルバムも前作同様「考えるな、感じろ。」と言いたいほど言語化が難しいのですが(毎回言っている…)、企画倒れしないよう言葉を絞り出したいと思います。
バンドサウンド版”HIGHVISION”
さて、私がこのアルバムを最初に聴いた印象は、前作「HIGHVISION」のエレクトロサウンドで構築した芸術的で高次元な世界観を、バンドサウンドで表現しようというコンセプトを感じました。
なお、前作をリリースしたときのナカコーさんのインタビューでは、「HIGHVISION」について「わけのわからない混沌としたカオス」と表現していました。
恐らくそれは「ANSWER」にも引き継がれているようで、何なら本作の方がよっぽどカオスを感じるような気がしています。
アルバムのアートワークからそれが分かりやすく表現され、ジャケットのタイトルが「わけのわからない混沌としたカオス」でもいいんじゃないかと思うような、奇妙で不思議な世界観を感じます。
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アルバムの内容について。
サウンドの土台がエレクトロサウンドからバンドサウンドに変わった以外は、基本的には前作と大きく変わっていない印象を受けます。
既存のJ−POPにとらわれない曲構成、抽象的な歌詞、それでいてキャッチーなメロディなど、SUPERCARの魅力は変わらずに健在です。
「HIGHVISION」はエレクトロサウンドだからこそ未来感を最大限に表現できる光源的な作品となりましたが、「ANSWER」ではバンドの屋台骨であるベースやドラムが際立ち、「HIGHVISION」とは対照的に地に足をつけたような作品となりました。
鳴らしているサウンドでみれば、3rd「Futurama」と4th「HIGHVISION」が同類の作品であるように思われますが、私的には、「HIGHVISION」が”陽”で「ANSWER」が”陰”の、対の関係性であると感じています。
それは、上記で書いた「わけのわからない混沌としたカオス」という共通のテーマであったり、「前作「HGHVISION」は未来に、「ANSWER」は制作当時の現在にフォーカスした作品」という解説からもそう思わさせられます。
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とは言っても、決してダークで重苦しいだけのアルバムではなく、先行シングル曲である#8”RECREATION”は当時のSUPERCARの中ではポップな曲である印象を受けます。
前作「HIGHVISION」発表からの先行シングル”RECREATION”という流れだけをみると、「HIGHVISON」のイメージを上手くバンドサウンドに落とし込んだなという印象を受けますし、サウンドアレンジも非常にJ-POP寄りになっています。
また、個人的には#7”HARMONY”や#9”GOLDEN MASTER KEY”なども非常にお気に入りで、どちらも夕暮れの時間帯が似合う曲だと思っています。
これらの曲のように、サイケデリックでカオスな中にも微かに優しい光を感じさせる部分があるところが、このアルバムの救いであると解釈しています。
そして、何より1番好きなのが、先行シングル曲である#12”LAST SCENE”です。
素敵…人間の本能に響くような美しい旋律。優しいボーカル、リズミカルなのに落ち着きのあるドラム、繊細なピアノアレンジ、等々。この曲にバンドのキャリアの全てが詰まっているといっても過言ではありません。
私が死ぬ時には、葬式でこの曲を流して欲しいくらいです(笑)
全てを研ぎ澄ました末の”終着点”
このアルバムも細かく解体してみていくと、非常に不思議で面白いです。
私がこのアルバムのサウンドを聴いてまず思ったのが、無駄が一切ないということです。いや、無駄と言ってしまうとそれまでのキャリアを否定してしまうことになるので。言い換えると、必要最低限以上のオーバーアレンジが一切ありません。
ボーカル・ギター・ベース・ドラムのそれぞれが際立ち、一音一音がクリアに聴こえます。
土台はバンドサウンドのみで、その隙間をシンセやピアノが最低限の音で埋めているようなイメージです。
ですが、決してスカスカな印象はなく、音の隙間すら心地よく感じてしまいます。なんとも不思議ですが、恐らくその辺も計算されたものなのでしょう。
そしてなにより、とにかくベースがうねって目立つこと。
正直、これまでフルミキさんはボーカルのイメージのほうが強く、ベースプレーヤーとしての印象はありませんでしたが、ここにきて存在感を放っています。
#2”JUSTICE BLACK”のイントロなんてもう、最高にイカしてかっこいいです。簡単に鳴らしているように聴こえがちですが、このアルバムのコンセプトを考えると、このベースの音1つからも緊迫感や緊張感のようなものを感じます。
ベースのみならず、ドラムの音もなんだかクリアに聴こえ、低音隊が非常に良い味を出しています。先述の”地に足をつけたイメージ”という点では、このサウンドの鳴り方がいいエッセンスになっているのではないでしょうか。
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歌詞についても少し。
まず、歌詞の中身についての解説は諦めます。無理です(笑)
一人称が完全に排除された抽象的な歌詞であることは前作から変わっていませんが、本作では日本語詞と英詞が共存する形になります。
とは言っても、意図的に英訳の表現を変えている部分があったり、日本語詞と英詞を織り交ぜで歌っている箇所があったり、歌詞と歌う順番が逆になっていたりなど(#8”RECREATION”の冒頭などですね)、歌詞カードを見ないと分からないような表現が多くみられます。
3rd「Futurama」あたりからの傾向ですが、”歌詞=歌っていることの文字起こし”という概念を完全にぶち壊し、歌詞という枠組みの中にも表現の場所を創造しています。
物好きな人であれば、曲を聴きながら歌詞カードで歌詞を追うというのも面白いかもしれません。
ただ、新しい試みであり非常に面白いとは思うのですが、「HIGHVISION」でも書いたように難易度が高すぎて、リスナーが果たして理解できる領域なのかと思ってしまいます。
アルバムの世界観とはマッチしているように感じますが、いしわたりさんの作詞もいくところまでいったなという印象を受けました。
そしてこれもまた、音楽界には浸透しなかったようですね(笑)
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サウンドと歌詞についてあれこれ書いていきましたが、どちらもこれ以上ないほど極限まで削ぎ落とし、クリアで透明になるほど研ぎ澄まされています。
これ以上削ぎ落とそうとするものなら、もはや形が無くなってしまうのではないかというほど。
これが理想とクオリティの両立を求めた結果だとすれば、きっと本作以上の作品はないでしょう。これもまた「ANSWER」が一部界隈で最高傑作・名盤だと言われる所以なのかもしれません。
これまでのキャリアやアルバム、その後の解散などを踏まえると、「ANSWER」はSUPERCARのバンド活動における”終着点”に向かうエンドロールのようなアルバムであると私は感じてしまいます。
バンド”SUPERCAR”の集大成
さて、ギターロックに始まり、徐々にエレクトロサウンドに傾倒しながらもサウンドを研ぎ澄まし続け、ジャズやブルースに近しいバンドサウンドに回帰した末に、バンドは活動を終了します。
こうやってみると、改めてSUPERCARというグループは「ロックバンド」というよりも「表現者」という括りの方が合っているのではなかろうか。
あくまで私の推測ですが、「ANSWER」でバンドサウンドに回帰した理由として、ナカコーさんなりの”ロックバンド”SUPERCARとしてのケジメだったのではないかと思っています(別に悪いことをしたとは思っていませんが笑)。
そう思った理由は、解散後に発売されたSUPERCARのカップリング集「B」にあります。
このアルバムは同時発売されたシングル集「A」と対になる作品で、発売されたシングルのB面が発売順に収録されています。中身も2枚組と大ボリュームで、シングルやアルバムにはないような個性的な曲が多く、非常に面白い内容になっています。
このアルバムの中で「ANSWER」期の”RECREATION”〜”WONDER WORD”のB面を聴いてみると、ロックサウンドよりも「HIGHVISION」期を思わせるよなエレクトロサウンドが目立ちます。
シングルではロックサウンドが鳴り、裏ではエレクトロサウンドが鳴っている。どちらも間違いなくSUPERCARの音楽なのですが、本当に鳴らしたい音楽はなんだったのでしょうか。
解散後のナカコーさんのソロ活動をみる限りでは、間違いなく後者であると断言できますが、恐らく最後までバンドとしてできることや可能性を探っていたのではないかと推測します。
終盤の”WONDER WORD”のB面曲群なんかは本当に三者三様です。特に”ROLLIN' ROLLIN'”は「スリーアウトチェンジ」を彷彿させるようなイントロで始まりますが、初期のような轟音ギターはなっておらず、今のSUPERCARが初期のような曲を作ったらみたいな雰囲気を感じました。
一部では、ナカコーさんがSUPERCARを見捨てたみたいな失礼で身勝手な声を見ますが、私は全くそうは思わず、作曲という立場で成長し続ける中でバンド活動の限界を感じてしまったのではないかと思っています。
その辺の私の思いは、次の記事で書きたいと思いますので、本記事ではこの辺にしておきます。
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余談ですが、SUPERCARの解散までの流れが、なんとなく「Suchmos」に似ているような気がしています(「Suchmos」は解散ではなく活動休止ですが)。
Suchmosといえば、ホンダ”VEZEL”のCMに起用て大ヒットした「STAY TUNE」という人も多いと思います。かくいう私も、この曲でSuchmosを知ることになります。
Suchmosの音楽はロックを基調としながらもジャズやブルースなどの多様な要素を柔軟に取り入れ、それでいてポップなサウンドに仕上がっている特徴があり、世間に広く認知されるようになりました。
ブレイク当時は、ナウでヤングなイケイケ連中がごぞって聴いているようなイメージを持っていましたが(超偏見 笑)、アルバムやEP毎に聴いてみると、それぞれで音楽的アプローチが異なり、偉そうですが非常に面白いグループだと見直した記憶があります。
そして2019年に「THE ANYMAL」というアルバムで大胆なシフトチェンジをみせた後、活動を休止することになります。
このアルバムも「ANSWER」同様、最初に聴いたときは音楽性の変化に少し驚いたのと、雰囲気を掴みきれない印象がありました。バンドサウンドを基調にしながらもプログレッシブでサイケデリック色の強い作品という点は「ANSWER」と通ずるところがあります。
Wikipedia等を見る限り、この作品の制作においては、人間の本質的な部分を見つめ直したり、徹底したサウンドの追求を求めていったとの記述があり、結果として、大人びながらも非常に攻めた内容の不思議な魅力を放つ作品となりました。
SUPERCARにしてもSuchmosにしても、音楽に関わる全てを追求していくとサイケデリックロックに辿り着くという共通点には、何か不思議なものを感じます。そして、そこに一度辿り着いてしまうと、もう先には進めなくなってしまうのでしょうか。
両者とも、バンド活動のキャリア的には非常にいい歳の取り方をしていますが、実年齢を考えると、少し生き急いでしまった印象も否定できません。
一瞬の輝きを放つものは、短命で儚いものです。だからこそ、伝説となり後世まで語り継がれるのかもしれません。
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話を戻しますが、「ANSWER」はSUPERCARの活動の全てを凝縮した集大成的な作品であると思っています。
メンバーがそのつもりで制作したのかは不明ですが、これまでに驚異的で柔軟な変化を遂げて駆け抜けてきた末の”答え”がこれだ!と言わんばかりの内容やタイトルになっているものだと私は推測します。
その後、残念ながらSUPERCARは解散してしまいますが、仮に活動が続いたとて一体どんな作品が生み出されるのかが全く想像できません。
結局、SUPERCARを超えるのはSUPERCAR自身であり、その後影響を受けたアーティストが多く輩出されたとしても、SUPERCARは代わりのきかない唯一無二の存在感と輝きを放つ孤高のバンドであり続けています。
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ということで、本記事で全オリジナルアルバムの紹介・解説を終了し、【短期集中連載】も次回Vol.7で最終回とさせていただきます。
これまでたくさんSUPERCARのことについて書いてきた中での新たな発見や気づき、私の思いなどを総集編として惜しみなく書いていきたいと思います。
それでは
乱筆にて
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