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【書評】現代ネット社会をサバイブするためのお勧め10冊(No.111-120)

*この記事は購読してくれている以外の方も一部読めるようにしました。

どうも、最近若干調子に乗っているトムです。

月2回のマガジンをいつもながらギリギリに更新…。お待たせしただけに、今回も面白い本を紹介していきますので、よろしくお願いします。

この書評もついに累計120冊まで来てしまいまして、そろそろ分かりやすくコンセプトごとにまとめようと思います。今回は「ネット時代のサバイバルに役に立つ」というテーマでまとめていました。

イノベーターのジレンマの経済学的解明

こんな楽しそうな表紙の割には、3時間で読める最近のビジネス自己啓発本と違い、かなり骨太で歯ごたえのある本です。恐らくMBAホルダーの電車読書のお供なんでしょうね。このnoteマガジンを読んでくれているような方は、僕なんかよりも優秀な方々でしょうから、あんまりリアルでは勧めないですけど、ここで紹介させていただきます。

僕はとある大手海外版元エージェンシーの人から「これスゲーから読め」とお勧めされたんですが、読むのがなかなかに大変でした。これは前提として、ビジネススクールで学ぶような本(ポーター、バーニー、アーカー、ゲーム理論、その他競争戦略系諸々)の用語が、説明なしに出てくるので、恐らく全部読んどかないと分からないでしょうね。

名著中の名著である『イノベーションのジレンマ』のロジックを、MIT客員教授・イエール大準教授の伊神満さんが、現代の企業の事例を交えながら、数学的に解説するというコンセプト。著者の語りはビジネス書とは思えないほど、ユーモラスです。

まぁ、結論は「生き残るためには一度死ね」というクリステンセンの下した判断をなぞるだけですが、本書では「共食い」「抜け駆け」「脳力格差」という、本家が定義した重要な概念が、分かりやすく紹介されています。非常に有益なので、ここだけでも要約しましょう。

共食い』・・・例えば、コーフレークのシェアトップ企業が、社会がヘルシー食品を求めていることに気付いた。しかし、元祖コーンフレークのスピンオフとして、新商品コーンフレークZ(ヘルシー)をリリースしたところ、元祖コーンフレークの愛用者が、大部分コーンフレークZに乗り換えてしまっため、総利益としては大きく上がらず、開発費だけがかさんだ。これを共食いと呼ぶ。

抜け駆け』・・・勝者総取りの原理のこと。世の中の競争はだいたい完全競争(1.価格は透明性が担保され、2.プレイヤーは自由に参入と撤退ができる、3.商品はみなコモディティ、4.プライスメーカーは不在)ではないので、先行者はいわゆる独占を手に入れられる。ただし、参入者を許し、複占状態になると、利益は1/4にまで低下する。

能力格差』・・・「貯めるのに時間のかかる資源」を資本と呼ぶ。例えば、労働者の質は人的資本。技術や情報などは知識資本。有利な取引条件やネットワークなどは関係資本。市場の評判やイメージはブランド資本。イノベーションを起こすだけの能力を持っているかは、会社によって異なり、その定義もさまざま存在する。これを能力格差と呼ぶ。

・・・「競争する」っていうことの意味が、高いレイヤーから分かりますね。大企業のブレインが戦略を立てるときの分析視点がインストールされるでしょう。起業家が巨人をブチ破るためのマニュアルとしても使えそう。

総括すると、この本は昨今のMBA界隈の必読書を読んだ方の「復習」に最高です。経済学で習う概念がオールインワンで入っており、ハーバードビジネスレビューより読みやすく、ゲスい内容(笑)。実利教養を身に付けたい方はぜひ!

君主論

これは前回「人に言わないヤベエ本」で紹介すべきでした。

人間の心の矛盾した側面を、嫌気がさすほど浮き彫りにしています。人間は「恩を与えると、その人は恩を返してくれる」「人格者が良い社会を作る」といった理想論を徹底的に否定して、

他人はやさしくすると裏切る」「政策は信念でなく状況によって変えるべき。ただし、信念が一貫しているように見せる必要がある」「改革を成功させるには、周りを味方にしようとすると舐められて潰される。力や規則を持ち、他人を服従させよ

など、非常に冷酷でリアリストなことを言っています。殺戮と戦争の時代に生きた参謀マキャベリの主観なので、僕にはこれが全部正しいとは思いませんが、この本が暴露している「人間の自己中さ」「二面性」「民の行動原理」というのはかなり本質を捉えていると思います。

そして、これが何に使えるかというと、SNS時代の炎上対策です。今ってインフルエンサーが誰かしら毎週のように燃えてますよね。僕も有名人を近くで観察する仕事ですから分かりますけど、彼らって同じブランド人同士の付き合いや、ファンに見せるキャラ、スポンサーとの関係があります。彼らは「少数の権力者」と「多数の民衆」の間で、利害もまれてるんですよ

大体の炎上は、ここのバランスが崩れて、起こる。大体は「少数の権力者」への忖度し、そして「多数の民衆」に徹底的に叩かれ、潰される。せおくんとかも多分これでしょ。でも個人的に思うのは、彼は「儲けたい」という金銭的な欲じゃなくて、彼の仲間や、雇っている人や、スポンサー…。そういったのっぴきならない立場にいると思うんですよ。だって背後には、力を貸してくれる誰かがいるんだから、お金にしなきゃ協力者に還元できないし、申し訳ないって思っちゃうと思うんですよ。

ただ、君主論には「弱きを助け、強きをくじくべし」ということが書かれています。つまり、どちらかを選ぶなら、敵に回すのは民衆ではなく、権力者のほうがいいと。なぜならマキャベリに言わせれば、弱者は数の力を持ち、結託し、他の強者を招くきっかけになるからだそうです。だから、常に大衆の味方であるべし、とね。

これSNS時代に結構心当たりありません?影響力を付けると、私たちは言えないことだらけになりますが、今の時代、常にユーザーにロイヤルである必要があるってことなんです。箕輪さんとかも、セクハラをきっかけに民意をコントロールできなくなって、それでやられちゃいましたよね。個人的には、出版業界の風通しよくしてくれた人なんで、早く復活してほしいですけど。

さすが当時、有害図書扱いされていただけあって、「敵は利用せよ」「力(傭兵)は借りずに自分のところで育てよ」「他人の力で得た権力と地位は長続きしない」「二つの勢力の対立における中立の立場は、両社に反感を買うため、逆にどちらかに回ったほうが安全」など誰も大っぴらに言わないキッツイ内容がたくさん詰まっています。

時を経て蘇った「SNS社会のサバイバル本」として、お勧めです。

ネガポ辞典-ネガティブな言葉をポジティブに変換

はい、出ました。ふざけた本(笑)「ものはいいよう」。ネガティブな言葉をポジティブに言い換える辞典です。

「すっぴんが別人」
①小道具なしでも変装できる
②2つの顔を持っている
③化粧上手

「ギックリ腰になった」
①笑いを誘った
②休みの口実ができた

いや、意外に思われるかもしれませんが、実用的です。これは、ネガティブ→ポジティブではなく、ポジティブ→ネガティブに使うべきですねw

というのも、このマガジンで散々申し上げているように、人間の「ネガティブな部分」を知っておくことはかなり重要です。ポジティブな内容より、ネガティブな内容の本のほうが売れるんですよ。

だって、なんで健康本って売れるのかって言ったら、不安煽ってるからですよね。内臓脂肪がなんだとか、日本人の1/3はがんで死ぬとか言って。AI本がなぜあんなに売れたのかっていったら、皆「えっ、私の仕事なくなるかも!?」って皆思ったからでしょ。「この本を読むと元気になる」という市場は、一般書においては小さいんですね。

いわゆる「損失回避性向」じゃないですけど、人間は何かを失うことが怖いから、何かを失うような状況に過敏に反応するアンテナを立てていると思うんです。橘玲さんが売れているのは、この”ネガティブ”というエネルギーを操る天才だからですよ。ホリエモンは「電話は時間泥棒だろ、クソが」というから世間が騒ぐんです、たぶん。「メールで連絡し、他人の時間を大切にして、思いやりの心を持とうね^^」だと売れてない。

まぁ「健康」で不安を煽り立てるのは、倫理的にアウトだと思うので個人的にはやりたくはないですが、多かれ少なかれ文章を読ませるためには不安や怒りを描く力が必要です。本書は、文章の端々にネガティブを練り込んでいく作業に使える「実用書」です。

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