0.1人前と仕事に行くのが楽しいのと速くて綺麗な仕事[36歳からの大工修行日記 一週目]


36歳から大工さんを始めるおじさんの日記シリーズ。

いよいよ36歳からの大工さんが始まりました。
とにかく親方が優しくて、男気があって、技術も素晴らしい。何の心配もなく働ける。
仕事に行くのが楽しい。
そして、大工さんの仕事は思っていたよりも、筋肉が必要。自転車とランニングが好きな僕でも筋肉痛。ただ、これは動作に慣れると大丈夫らしい。
覚えることも多い。
釘やビスの長さなんかも場所によって違うし、打つピッチも違う。
道具の使い方も難しい。
丸鋸もネイルガン、釘を打つ機械も危ない。
そして、意外と工具って重い。

でも、0.1人前にはなれたと思う。
一人前までの道は長そうだけど、0から0.1になれた。
とはいえ、0.1人前って、一人前の人に教える時間を取らせるから、仕事量で言えばプラスマイナスで言えば、マイナスなんだけど。
0.3人前くらいまでは頑張って早くなりたい。

ーーー

それにしても、仕事に行くのが楽しいなんて、いつ以来だろう?
面白い仕事ってのはこれまでもしてきた。
例えば、住宅営業はプランを考えるのは面白かった。自転車屋も好きなことだし、面白い仕事だった。

ただ、純粋に仕事に行くのが楽しいってのは生まれて初めてかもしれない。
中学校くらいまでは、学校に行けば友達がいて、授業なんかも何となく楽しかった。
大工さんの仕事に行くのはそれに似ている。
行けば楽しい。
仕事自体も手を動かしてものを作れる楽しさもあるし、お茶の時間に職人さんと話すのも楽しい。

楽しいというと若い頃に山小屋で働いていた時以来か?
いや、山小屋でさえも、最初の頃はつらかった。
普通、新しい職場って慣れるまでしばらくはつらい。

一つに大工さんの仕事は、失敗しても直せば良いってこともあるような気もする。
親方が何とかしてくれるってのもあるし、そもそも失敗しないよう教えてくれる。
仮に失敗しても、親方は怒らない。もちろん、ダメなことはダメと言うけど。出来なくて当たり前だから少しずつ覚えてくれ、って感じだ。
聞かれるのは、
「どうだ? やっぱり高いところは怖いか?」
だったり、素人だから出来なくて当たり前だけど、楽しんでやってるか? と言ったニュアンスで聞いてくれる。

もちろん、失敗はしない方が良いけれど。

でも、住宅営業なんかは、プランなんかを失敗してしまうと、その家族は一生、イマイチな暮らしをする可能性もある。
はたまた自転車屋だって、売った後にクレームが入るのは嫌だ。
失敗すれば怒られる。
怒られるならまだしも、その失敗のせいで人に迷惑をかける。
つまり、失敗は絶対的に悪なのだ。

それに対して、大工の親方は失敗を積み重ねて、早く一人前になれよ、と。
つまり、失敗は必要だし、できないこと、間違えることも悪ではない、と。
そりゃ、最初のうちだから優しくしてくれてるってのもあるんだろうけどね。
でも、大工さんって難しいから、一人前になるには、失敗も必要だし、繰り返しやって技術が身についてくるものなんだろう。
親方も昔、そうやって一人前になっていったんだろう。、

もちろん、失敗はしたくない。

だけど、当たり前だけど、人間生きてれば失敗も間違えることもある。
思えば、生きづらい世の中だ。
細かくマニュアル管理されることも増えて行ってると思う。
昔なら、なあなあで済ませていたことも、効率の良さを求めて、無駄や失敗は悪として厳しくチェックする。
良い仕事をしても、金にならないとダメだったり。
消費者はネットの情報で厳しくなっていく。
金額を比較して、よりコスパの良い物を求める。
安くて良い製品が大量生産され、大量消費されていく。

でも、本来、職人に限らず、ものを作ったり、そのものを売ったりするってことは、良い仕事をして、それが誰かに愛されて、あるいは満足してもらって、そのことで作った人も満ち足りた気持ちで生きていけるか。
本質的にはそこだと思う。

チャップリンが映画モダンタイムスの中で描いた世界、人間が歯車のように生きて、少しのズレも許されない、そんな世界になってしまった今の時代に、大工さんっていうのは、人間本来の仕事に近いようなことをしているのかもしれない。

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もうひとつ思ったことが。
大工さんの腕の良し悪しは何で決まるのか。
お客さん目線と職人さん目線で少し違うということ。

お客さん目線で言えば、仕事が丁寧とか美しいとか、そういうところになるだろう。

でも、職人さん目線で言うと、仕事の速さというのはかなり重視される。数をこなせる方が収入が良い。
ここはお客さん目線だと、あんまり重視されない。むしろ、ゆっくり丁寧に家を作って欲しい。

ただ、速い大工さんは仕事も上手くて綺麗なことが多いみたいだ。
これは2つ理由がある。

一つは速く作るためには、上手く綺麗にやる方が効率が良いということ。
雑にやってやり直しになるのが一番時間のロスが多い。だから、速くても丁寧に仕事をする。
それに、速くやろうと思うと、道具や材料がきちんと整理されていないとロスが多い。
道具やゴミが散らかっていると作業しにくい。

もう一つが、たくさん仕事をやっている方が経験値が多く、圧縮されているということ。
大工さんは結構頭を使う。
差し金、金属のエル字型の定規の使い方一つにしても、当てる向きなんかで使い勝手が違う。まあ、これはどちらかというと体が慣れて頭を使わなくても出来る側面もあるけれど。
それでも、算数みたいな頭の使い方じゃなくて、工具を上手く使うやり方、狭いところでもどう体を動かせば良いか、高いところで落ちないか、そういう無意識の部分もあれば、もちろん、釘のピッチや、寸法線を引く、墨を打つというのだけど、数字的な頭の使い方もある。
人間の脳みその短期記憶、メモリーの容量、時間は限られている。
だから、あんまりゆっくり長々やっていると忘れてしまう。
集中して速く終わらせるのはそういう点でも良いのだろう。

そういう意味では、職人さん的な目線での良い仕事は、お客さんから見ても良い仕事になるという意味では同じなんだろう。

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何だか細々したことを書いたけれど。
ひとまず0.1人前になれた。
ありがたいことでございます。
来週もがんばりましょう。

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