のらきゃ掌編×3 その10

 以前X(旧Twitter)で投稿した習作を一部修正したものの纏めです。

①:きゃっとむかしばなし『ソーデスの耳はデスの耳』

 むかしむかし、のらきゃっとがいました。
 のらきゃっとは動画配信者なので、コラボや案件などファンにはまだ言えない秘密を抱えていたのですが、
「やばい。この話題はどうしてもねずみさんに教えたい」
 あまりにウキウキしすぎて、今にもSNSで話してしまいそうでした。

 衝動を抑えきれないのらきゃっとは、ペットのソーデスに話して解消することにしました。
「聞いてソーデスリーナ、ちょっと言いにくいんですけど」
「ソーデス、ソーデス」
 のらきゃっとはソーデスに秘密を打ち明け、ソーデスは無表情で相槌を打ちました。
 製造年代がバレそうな打ち明け方でした。

「ヨシ! これで安心ですね」
 スッキリしたのらきゃっとは、安心してVRCの水族館に出かけました。
 一方、しばらく無言で佇んでいたソーデスは、
「……ソーデス、ソーデス」
 感情の読めない不気味な顔で二度鳴きました。

 実はこのソーデスは悪いソーデス、ウルトラダークデスだったのです。
 ウルトラダークデスはきゃっとの秘密をバラそうと、ねずみさんの元に向かいました。
「あれ、ソーデス何しに来たの?」
「……デス」
 ウルトラダークデスはニヤリと笑いました。 このままではきゃっとの秘密がみんなに筒抜けです!

「ソデデソスーデスデスソースソソデースデス」
「なんて?」
 ねずみさんには、ソーデス語がわかりませんでした。

 こうして秘密を一つも暴露できず、しょんぼりしながら家に帰ったウルトラダークデスですが、
「水族館でウミソーデスを見たらソーデスが食べたくなってきました」
「デス!?」
 お腹を空かせて待ち構えていたのらきゃっとに、パクリと食べられてしまいましたとさ。

 めでたし、めでたし。


②:きゃっとむかしばなし『半裸ののら様』

 あるところに、のらきゃっとというバーチャル美少女がいました。
 のらきゃっとはとてもオシャレな動画配信者で、事あるごとに新しい衣装に着替えては、配信でファンのねずみさん達に披露していました。

「縦、次の衣装は何にしようかな」
 のらきゃっとがむむむと悩んでいたところ、
「のらちゃんのらちゃん、実は夏にピッタリないい衣装があるんだけど」
 同じ家に住む黒猫の姿をしたプロデューサーがやってきて、ひそひそと耳打ちをしました。

「じゃじゃん! ポンコツには見えないマイクロビキニ~!」
 黒猫は、製造年代がバレそうな声真似と共に、お腹のポケットから衣装を取り出すような仕草をしました。
 しかし、いったいどういうことでしょう?
「マイクロビキニ? どこにあるんですか?」
 のらきゃっとが高性能カメラアイを凝らしても、マイクロビキニなんて見当たりません。

「あれあれ、もしかして……のらちゃん、見えないの?」
 黒猫がのらきゃっとを煽りました。
 見えるはずがありません。だってポンコツには見えないマイクロビキニなんて、そもそも存在しないのです。
「も、もちろん見えますよ。わたしはかしこいので」
 のらきゃっとは強がってしまいました。もう後には引けません。

「じゃあ、次の配信はこのマイクロビキニをお披露目しよう! 見えるんだったら、もちろん着れるよね!」
 黒猫のプロデューサーは、ダメ押しとばかりにもう一度煽りました。
 ああ! このままでは、のらきゃっとが裸で配信をしてしまいます! どぶどぶしてきた!

「いや、見えてても配信でマイクロビキニなんて着ませんよ。BANされるじゃないですか」
 のらきゃっとが真顔で断りました。
 正論でした。

 そうして黒猫の邪悪な企みは潰え、ポンコツには見えないマイクロビキニ配信は残念ながらお蔵入りになったのですが。
「ねずみさん、見てください。あなたの大好きなヤバイ水着ですよ」
 センシティブな水着には自主的に着替えてくれたので、のらきゃっとチャンネルでは今日も全年齢対象の健全な内容が配信されましたとさ。

 めでたし、めでたし。


③:きゃっとむかしばなし『チュウ文の多い料理店』

 むかしむかし、あるところに、のらきゃっとという戦闘用アンドロイドがいました。
 趣味で狩りをしているのらきゃっとは、今日もサバンナで見事ライオンを仕留めました。
「やりました、やりました。流石わたしですね」

「縦、狩りをしていたらおはらが空きました」
 のらきゃっとはお店を探してテクテクテクテクと歩きます。
 すると、一軒のレストランを見つけました。
「なになに、山ねずみ軒。知らないお店ですが、入ってみましょうか」

 のらきゃっとが料理店に入ると、コメント欄に何やら指示が流れてきました。
『ここに銃と猟犬を置いていってください』
「食べる時に邪魔ですもんね、いいでしょう」
 のらきゃっとは愛用の銃と、猟犬と、ついでにソーデスも置いていきました。

 次の部屋に進むと、またコメントが流れてきました。
『ここで履物を脱いでください』
「ははあ、お座敷のお店なんですね。ワオ・ゼン!」
 裸足になる機能も実装していたのらきゃっとは靴を脱ぎました。
 コメント欄の流れが速くなりました。

 その次に進むと、またまたコメントが流れてきました。
『のらちゃん暑くない?』
 着物を脱げという指示でした。
「どぶねずみさんがいますね、まったくも」
 のらきゃっとはジト目になり、虚空を睨みつけました。
「わたしはそう簡単に脱いだりしませんよ」
 そう言うと、

『¥5000』
 赤スパが流れてきました。
 のらきゃっとはすぐさまヤバイ水着に着替えました。
「み、みなさんが喜ぶと思って水着になっただけですからね!」
 コメント欄は手のつけられない勢いになりました。

 そして、ようやく最後の部屋に案内されたのらきゃっと。
 彼女を待ち受けていたのは、グツグツと煮えた温泉でした。
「ご飯の前にお風呂だなんて、至れり尽くせりですね」
 のらきゃっとは躊躇なく湯船に入りました。
 それが料理店の仕掛けた罠だとも知らずに。

 ここはチュウ文の多い料理店。チュウ文されるのは、店ではなく客の側。
 そして素直に指示に従ってきた客は、大きなお鍋で店員のねずみさんに煮られてしまうのです。
「熱い、熱いのじゃー!」
 のらきゃっとより少し前に来店した狐娘のおじさんのお客さんも、グツグツ煮られて叫んでいます。

「どれどれ、もうのらちゃんにも火が通ったかな」
 ねずみさんが鍋の様子を見に来ました。すると、
「おや、ねずみさん。こんばんは、こんばんは」
「あれ?」
 のらきゃっとは温泉の中でニコニコしており、ねずみさんは首を傾げました。

 不思議に思ったねずみさんは尋ねます。
「のらちゃん熱くない?」
「いえ、平気ですよ。そうだ、ねずみさんも一緒に入りませんか?」 「!?」
 コメント欄がソー然となりました。
 果たしてねずみさんは、このお誘いを断れるでしょうか?
「入る!!!」
 無理でした。

「あああああああああ!!!」
 温泉にダイブしたねずみさんは、グツグツ茹でられてしまいました。
 お鍋の中身はすっかり熱湯になっていたのです。
「知らなかった、ねずみさんがこんなに脆いなんて」
 銭湯用、もとい戦闘用アンドロイドののらきゃっとは、煮えたぎるお湯に平然と浸かりながら言いました。

 そうして食前の風呂を堪能したのらきゃっとは、
「そうだ、今日狩ったライオンもここで煮込んじゃいましょう」
 ライオンと、ねずみと、ついでに狐娘のお肉もたっぷり入ったお鍋を食べて、満腹になって帰りましたとさ。

 めでたし、めでたし。

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