のらきゃ掌編×3 その8

 以前Twitterで投稿した習作を一部修正したものの纏めです。

①:きゃっとむかしばなし『番町のら屋敷』

 むかしむかしのお話です。
 番町のとあるお屋敷に、不気味な井戸がありました。
 底の見えない深い井戸。その奥の暗闇から悲しそうな声が聞こえます。
「19時58分……19時59分……」
 それは、かつて井戸に身投げした女の幽霊の声でした。

「……ああ、20時になった。私が死んだ時間だ! お~いおいおい!」
 幽霊は、自分が死んだ20時になると悲しくなって泣き出します。
 毎晩毎晩、20時になると泣き出します。
 井戸に響く泣き声はあまりに不気味で、怖くて誰も近寄れません。
 だから、彼女は一人で泣き続けるしかないのです。

 ある夜のこと。幽霊は、いつものように時間を数えていました。
「19時58分……19時59分……」
 いつもの時刻がやってきました。
「……20時になった」
 そして、いつものように泣き出しそうになったのですが。
「まだ19時60分」
 何やら、おかしなことを言う声が聞こえたのです。

 それは屋敷に立ち寄ったねずみの声でした。
 この日は火曜日。のら時空の影響で、ねずみの基準ではまだ20時になっていなかったのです。
「まだ19時61分」
「えっ? えっ?」
 幽霊は困惑しました。
 20時を過ぎたはずなのに、まだ20時になっていないなら、私はどうすればいいのかしら?

「じゃあ、君も一緒にのらのらしようよ」
 井戸の外からねずみの声が聞こえました。
 幽霊は、よくわからないまま勢いに流されました。
「まだ19時62分。のらのらしてきた」
「の、のらのらしてきた……?」
 のらのらと、幽霊はねずみに続いて唱えます。
 意味は知らないけれど、楽しげな響きの言葉です。

 二人でのらのらすること20分。少し遅れて20時がやってきました。
『こんきゃーっと!』
「「こんきゃーっと!」」
 20時は悲しい時刻。一人で泣くしかできない時刻。
 幽霊の目に涙が溢れてきます。
 ……しかし。
『はつみさんですか? いらっしゃい!』
 その夜に流した涙は温かく、心地良いものでした。

 楽しく温かい20時を知った幽霊は、もう一人で悲しい涙を流すことはありませんでした。
 こうして彼女は成仏し、井戸から不気味な声が響くこともなくなる…… はずだったのですが。
「―――19時58分。19時59分」

「まだ19時60分。のら…のら…♪」
 あの世に行けばのらきゃっとチャンネルが見れないため、幽霊は井戸に留まってのらのらし続けており。
 彼女のいる屋敷は、世にも奇妙な“のら屋敷”として、前とは違う意味で噂になったのでした。

 めでたし、めでたし。


②:きゃっとむかしばなし『おおきなカブーデス』

 むかしむかし、あるところに、ねずみさん達が住んでいました。
 ねずみさん達は、畑である野菜を育てていました。
 その野菜とは、イムラのバイオ研究所で生み出されたカブとソーデスのハーフ。カブーデスという名の野菜です。

「カブ~デェェェス……!」
 ある日のこと。カブーデスの野太い声を聞いたねずみさんが畑に出ると、 「でっか……」
 そこには、ねずみさんの住む家より大きな白い玉がいました。
 栄養をたっぷり吸ったカブーデスは、これでもかと言うほど肥えていたのです。
 もはや、デブーデスです。

「やったー、豊作だ!」
 ねずみさんは大喜び。さっそくカブーデスを収穫しようとします。
「うんとこしょ、どっこいしょ!」
 しかし大きなカブーデスは重すぎて、小さなねずみさんの力では抜けませんでした。
「デェェェス……!」
 カブーデスは、そんなもんかい、と言いたげに鳴きました。

「おーい、誰か手伝ってくれ」
 ねずみさんは仲間のねずみさんに声をかけました。
「「うんとこしょ、どっこいしょ!」」
 それでもカブーデスは抜けません。
「おーい、みんな手伝ってくれ」
「「「うんとこしょ、どっこいしょ!」」」
 それでもカブーデスは抜けません。

 ねずみさん達は困ってしまいました。
 するとそこに、
「こんばんは、こんばんは。のらきゃっとです」
 のらきゃっとがやってきたのです。
 彼女はつよつよアンドロイドで、ねずみさん達と大の仲良しです。

「お困りですか、ねずみさん。わたしが助けてあげましょう」
「「「やったー!」」」
 ねずみさん達は歓声を上げました。
 のらきゃっとの力を借りられたならば、大きなカブーデスも簡単に引っこ抜けるに違いありません。
「それでは行きますよ、せーの」
「「「うんとこしょ、どっこいしょ!」」」

「うんことどっこいしょ」
 のらきゃっとは、ご認識をしてしまいました。

「うんこ、うんこ! きゃっきゃ!」
「デェェェス、デェェェス」
 ねずみさん達はご認識に大はしゃぎ。
 カブーデスも巨体を震わせて鳴きました。
 一方のらきゃっとは、
「……聞きましたね?」
 スラリと、愛用のカーボンブレードを抜きました。

 そうしてのらきゃっとは目撃者を始末すると、
「ゆうちょ」
 大きなカブーデスを簡単に引っこ抜き、ねずみ肉と一緒にお鍋にして美味しくいただきましたとさ。

 めでたし、めでたし。


③:きゃっとむかしばなし『舌切ソーデス』

 むかしむかし、あるところに、一匹のソーデスがいました。
「ホーヘフ、ホーヘフ」
 そのソーデスは、何やらおかしな鳴き声で鳴いていました。
 刃物を舐めて舌を切ってしまったせいで、「ソーデス、ソーデス」と鳴くことができないのです。

「おやおや。大丈夫ですか、ソーデス?」
 ソーデスが痛がって鳴いていると、通りすがりののらきゃっとが心配してくれました。やさしい。
「ヘフ、ヘフ……」
「なるほど、床に落ちていたカッターを舐めちゃったんですね」
 のらきゃっとは、片付け忘れたプラモ用カッターをしまいながら話を聞きました。

「これはドクターきゃっとの出番ですね。あなたの舌を治しましょう!」
 のらきゃっとはどこからか取り出した白衣をバサッと翻しました。
「ヘフ!?」
「大丈夫、任せて安心です! わたしは医療系漫画も嗜むので」
 叫ぶソーデスを押さえ、のらきゃっとはギュッと音を出しました。
「まずは切開からです。電動ノコギリ!」

「しまった」
 ドクターきゃっとのオペは失敗しました。

「…………」
「やばい」
 もはや「ホーヘフ、ホーヘフ」とすら鳴けなくなったソーデス。
 その惨状に流石ののらきゃっとも言葉を失ったものの、
「えっ、この状況からでも入れる保険があるんですか
 突然どこかに電話をかけると、メスを握って手術を再開しました。
 電話の相手は、もちろんイムラ保険です。

「やりました、やりました」
 スッキリした顔で手術室を出るのらきゃっと。
 彼女の後ろには、ますきゃっとが一体。
「かわいくなってよかったですね、ソーデス」
「そうです、そうです!」
 ますきゃっとの中身は、なんと先程の舌を切ったソーデスでした。
 電子頭脳に意識を移植されて一命を取り留めたのです!

「です、です!」
 生還したソーデスは、手術代として二つのつづらを差し出しました。
 しかしのらきゃっとはとても謙虚なので、
「こっちだけで十分です。残った方はリハビリに使ってくださいな」
 小さなつづらだけ受け取って、颯爽と去りました。
 まるでイムラの精神を体現したような奥ゆかしさです。

 こうして小さな命はイムラ保険のおかげで救われました。
 皆様を守るイムラ保険。実際安心、イムラ保険。
 あなたもイムラ保険に入り、命を大事にしませんか?
 なお、このお話はマーケティングではないので広告料は発生せず、欺瞞は一切ありません。

 おしまい。

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