異世界召喚のらきゃっと、魔王討伐RTA ~20:00までに倒して帰らないと配信開始に間に合いません~

「異世界の勇者のらきゃっと! 魔王を倒し、世界を救ってくだされ!」
 おやおや、困りましたね。もうすぐ配信開始の時間なんですけど。

 ということで、こんばんは、こんばんは。のらきゃっとです。
 なんか女を開けたら見覚えのない異世界でした。違う、女、女、言えない。瞳です。
 ともあれ異世界召喚です、流行りのジャンルですね。わたしも異世界召喚ラノベなら知ってますよ、『ゼロの使い魔』とか。
 で、わたしを召喚した偉そうな人の話を聞いたところ、世界征服を目論む魔王を倒してほしいと、要するにそういうことでした。
 まぁわたしは超高性能な戦闘用アンドロイドなので、魔王の一人や二人くらい楽勝ですが。
 ただ、一つ問題があるんですよね。
「わたしを召喚した偉そうな人、今何時か教えてください」
「は? え~っと、ちょうど19:00じゃが」
「やばい」
 20:00まであと一時間しかない。
 実は今日は、わたしの定期配信日です。そして配信開始が20:00です。
 このままでは、わたしは配信に遅刻してしまいます!
「今まで一度も高いところから落ちていないことと、20:00に遅れたことがないのが自慢だったのに」
「異世界の勇者よ、よくわからんのじゃが、そなた嘘をついていないか?」
「うるさいですね」
 都合の悪い指摘を無視しつつ、わたしはどうすればいいか考えました。
 アンドロイド頭脳をフル回転。そして導き出された結論は一つ。
「魔王討伐RTAです」
 20:00までに魔王を倒し、元の世界に帰還して、配信する。
 全部まるっと解決するには、それしかありません。
「そうと決まれば、善は急げです。偉い人、魔王城はどちらの方角かわかりますか?」
「玉座からあっちの壁に向かって真っ直ぐ進んだ方じゃが」
「なるほど」
 それを聞いたわたしは、その場で唐突に屈伸を始めました。
 準備運動です。RTAの際はそうするのが決まりなのです。
 少しの間屈伸した後、わたしは玉座の方向におしりしりを向け、そして、
「よーいドン」
 勢いよく走り始めました。前ではなく、後ろ向きに。
 玉座を跳ね飛ばし、城の壁を突き破り、わたしは全速力でバックダッシュしました。
 RTAの際はそうするのが決まりなのです。
「ああっ、玉座が! 城の壁が!」
 偉い人が悲しそうに叫んでいました。
 まぁわたしには関係ないので、このまま走り続けましょう。
 アンドロイド脚力による超スピードで、みるみるうちに城が遠ざかっていきます。
 すると遠くから、偉い人がわたしを呼び止める声が聞こえてきました。
「待つのじゃ勇者! そなたのチート能力の説明がまだ―――」
「そんなの要りませんよ」
 時間が惜しいので、スルーして魔王城へ向かって走りました。
 大丈夫、大丈夫。わたしは実際かしこい猫。超高性能きゃっとなので、説明書なんて読まなくてもゲームをクリアすることができるのです。
「……え? 最近のゲームには、そもそも説明書がついてない?」
 そんなばかな。
 4年くらい前のプレステ2とかのゲームにはついてましたよ。


 デデン! スライムが あらわれた!
「ピギー!」
「ゆうちょ」
 わたしは止まらず、おしりしりでスライムを跳ね飛ばしました。

 デデン! ドラゴンが あらわれた!
「グオオオオオオ!」
「ジョジョ」
 わたしは止まらず、おしりしりでドラゴンを跳ね飛ばしました。

 デデン! 魔王軍の幹部が あらわれた!
「ククク……俺は四天王が一人、疾風のサ」
「4ショット」
 わたしは止まらず、おしりしりで魔王軍の幹部を跳ね飛ばしました。

 わたしは高性能な戦闘用アンドロイド、のらきゃっと。
 ランエボも軽く跳ね跳ばせる膂力があります。魔物の一匹や二匹、百匹だって余裕です。

 デデン! ここは 迷いの森 です!
「ゆうちょ」
 わたしは木々をなぎ倒し、真っ直ぐ進みました。

 デデン! ここは 帰らずの迷宮 です!
「ジョジョ」
 わたしは石壁を突き破り、真っ直ぐ進みました。

 デデン! ここは 伝説の剣が眠る霊峰 です!
「4ショット」
 わたしはジャンプで山々を飛び越え、真っ直ぐ進みました。

 難攻不落のダンジョンだって、まったく障害になりません。
 道は自分の力で切り開くもの。高いところには登ってデバッグするもの。
 わたしはマイクラ経験者で、またVRC登山部でもあるので、道なき道を行くのは大得意なのです。


 そんなこんなで全部すっ飛ばし、魔王城に到着。
 わたしはラスボスの魔王と対峙していました。
「フハハハハ! よくぞ我輩の城に辿り着いたな、異世界の勇者のらきゃっとよ!」
「そんなことより今何時ですか」
「えっ」
 出会い頭に現在時刻を聞かれ、魔王は困惑しました。
「え~っと、20:15だけど」
「なるほど、19:75ですね」
「いや、だから20:15……」
「それならまだ20:00には間に合いますね!!!」
 わたしは愛用のカーボンブレードを構え、魔王に斬りかかります。
 しかし、攻撃は闇っぽい紫色の壁に弾かれました。
 どうやら魔力で作ったバリアのようです。他の敵とはひと味違う、さすがラスボスといったところですか。
「ハハハ、我輩のバリアは決して破れんぞ。霊峰に眠る伝説の剣でも装備していなければな!」
 しまった、それスルーしてきちゃいました。
 むむむ。なんとか物理攻撃で破れないものですか。
「まったくも。時間がないから早く殺したいんですけど」
「勇者のらきゃっとよ、貴様、言動が魔王より魔王っぽくないか?」
「よく言われます。まぁわたし、戦闘用アンドロイドです しね」
 気の抜けた会話で油断させながら、しれっと銃を抜き、三点バースト!
 しかし、また紫色の魔力バリアに弾かれました。
 困りました。どうやらあれは防御特化型の超ノ級以上に硬そうです。
「フハハハハ、貴様の攻撃力はその程度か? どれ、数値を見てやろう。ステータスオープン!」
「なんですって」
 魔王が呪文を唱えると、なんかメニュー画面的な青い板が出てきました。
 それを見た魔王は、何やら数字を確認してふむふむと頷いています。
 なんですかその魔法。わたし知らないんですけど。
「ステータスオープンは常識だろう、異世界の勇者は普通できるものだぞ」
「あー、わたしが読んだラノベって4年くらい前の作品ばかりで、最近の異世界モノには疎いんですよ」
「そ、そうか。我にはよくわからんが、それ本当に4年くらい前か? もっと昔だったりしないか?」
「うるさいですね」
 わたしは都合の悪い指摘を無視しつつ、真似して呪文を唱えました。
「ステータスオープン」
 すると、わたしのステータスが記された青い板が出てきました。
 最近の異世界って便利なんですね。VRCみたいです。
「なになに、攻撃力415、素早さ415、かわいさ99999……カンストしてる、さすがわたしですね」
 一部能力値の高さに納得しつつ、青い板を読み進めます。
 すると、その中に妙な項目があるのに気付きました。
「チート能力:のらきゃっとチャンネル……?」
 そういえば、わたしを召喚した偉い人がなんか言ってたなと、今更思い出しました。
 道中がおしりしりだけで余裕だったので全然気にしてませんでした。
「何!? 異世界のチート能力だと!?」
 魔王がなんかうろたえています。すごい力っぽいですね。
 じゃあ、よくわからんけど、ぶっつけ本番で使ってみましょうか。
「―――こんばんは、こんばんは」
 能力名、のらきゃっとチャンネル。
 その力を発動する呪文は、わたしにとって馴染みのあるものでした。
「銭湯用Androidのラケットです」
 夫、間違えた。やり直し。
「こんばんは、こんばんは。戦闘用アンドロイドのらきゃっとです」
 ヨシ!
「お待たせしました。ねずみさん達、配信開始の時間ですよ」
 今度こそちゃんと唱えました。すると、
《こんきゃーっと!》
《のらのらしてきた……》
《のら! ちゃん! べりべりきゅーと!》
 見慣れたねずみさん達のコメントが、わたしの周りに流れ始めたのです。
 いつも通りの配信の空気。これでこそ、のらきゃっとチャンネルと言った感じですね。
《もう配信始まってた》
《この城どこ? なんてワールド?》
《誰よその男!》
「えっ、我輩? というか貴様らが誰?」
 どうやらねずみさん達には、わたしと魔王が映ったライブ配信が見えているようです。
 なるほど、つまりそういう能力ですか。大体わかりました。
「ねずみさん。実は今日、彼とのデート配信なんです」
《!?》
「えっ、何いきなり」
 わたしの爆弾発言に魔王が困惑しています。
 一方でねずみさん達はと言えば、ソーデスのびっくりスタンプを連打。
 そして案の定、嫉妬の炎をメラメラと燃やしました。
「あぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃ!?」
 すると、魔王が燃えました。はちゃめちゃに勢いよく燃えました。
 これが猫松さんなら平然としているのでしょうが、魔王はあの人ほど火に慣れていないのでべらぼうに熱がっています。
 よく見れば、コメントでついでに猫松さんも燃やされていました。何故?
 マイヤー。ともかく、ともかくです。ねずみさんの力を借りる、これがわたしの持つチート能力らしいですね。
「い、異世界から業火を呼び出す能力だと……!」
「炎だけではありませんよ。ねずみさん達は頼りになるんですから」
 そう言って、わたしはコメントの方に笑顔を向けました。
「さっきの話は嘘です。本当はですね、わたし、なんと勇者として異世界召喚されていて。魔王討伐RTAの真っ最中なんですよ」
《えっ、異世界!?》
《すごい》
《さすのらすぎる》
 ねずみさん達はわたしの言うことをすぐ信じてくれました。いい子です。
《異世界、イムラに征服されそう》
 それも悪くないですね。後でやりましょう。
「まぁ今は征服はおいておいて。この魔王がなかなか手強いので、ねずみさん達に力を貸してほしいんです」
《どうすればいいの?》
「ハッシュタグをつけて、のらちゃんがんばれと。いつものゲーム配信みたいに応援してくれますか?」
《はーい!》
 わたしのお願いに、ねずみさん達がかわいいスタンプで答えます。
 そして、続けざまに《#のらちゃんがんばれ》というコメントが洪水のように溢れ出しました。
「何だこれは!? 勇者のらきゃっとのステータスが……!」
 420、425、430、435。
 攻撃力の数値が上がり、それを見た魔王が驚いています。
 500、600、700、800、まだまだ止まりません。
 ねずみさん達が応援してくれるほど、グングン上昇していくのです。
 わたしのステータス……力と、パワーと、ストレングスが!
《攻撃力しか上がらない、のうすじ》
「うるさいですね」
《あっあっあっ》
 余計な茶々を入れたねずみさんをツンツンして黙らせつつ。
 わたしは再びカーボンブレードを構え、魔王へ斬りかかりました。
「きゃーっと!」
「魔王がそう易易と、負けてたまるか!」
 さすがはラスボス。一筋縄ではいきません。
 魔力で強化されたバリアが刃を受け止め、キィンと鋭い音が鳴りました。
「むむむ。なかなかやりますね、魔王」
「グ、ググ……ハハハ。少し焦らされたが、我輩のバリアを突破するには力不足のようだな、勇者のらきゃっと。少々応援が足らんのではないか? フハハハハ」
「ふむ。なるほど」
 つまり、もう少しコメントのねずみさんが増えればいいと。
 そういうことなら、わたしにいい考えがありますよ。
「4ショット」
 わたしはバリアを蹴って飛び上がり、くるくる宙返りして華麗に着地。
 そして「ステータスオープン」と唱え、青いメニュー画面を開き、ポチポチと操作します。
「ムム? 勇者よ、何をするつもりだ」
「そんなこと、決まってるでしょう。コメントを増やすために最も効果的な方法と言えば」
 わたしのバトルドレスが眩い光に包まれ、衣装のシルエットが変わり、
「―――水着になることです」
 光が消えると、そこにはところどころに穴の開いたやばい水着に身を包んだわたしがいました。
「は!? なんで水着!? 我輩わからん!」
《あっあっあっ》
《ああああああああああああ》
《エッッッッッッッッ》
《のら!ちゃん!べりべりきゅーと!》
「えっ、なんで急に盛り上がってんの!? 怖!!」
 魔王は困惑していました。この人今日ずっと困惑してますね。
 まぁ異世界の方ですから、動画配信のノリは何もわからんのでしょう。
 ですが、わたしは完全に理解しています。ねずみさん達はやばい水着が大好きです。
 だから水着姿になると……視聴者数がはちゃめちゃに増えるんですよ!
 まったく、このどぶねずみどもめ!
「さあ、水着を見に来たねずみさん。わたしにパワーを分けてください!」
《#のらちゃんがんばれ》
《#のらちゃんがんばれ》
《#のらちゃんがんばれ》
《#のらちゃんがんばれ》
《#のらちゃんエッッッッッ》
 なんか変なの混ざってたな。マイヤー、ともかく。
 たくさんの応援を受けて、わたしの攻撃力がグングン上がっていきます。
 1000、2000、3000。攻撃力の上昇と共に、カーボンブレードがギュンギュンと光を帯びていきます。
 そして確定演出が入り、キラキラと虹色に輝き始めました。
 これはまさしく……SSRカーボンブレード!
「喰らいなさい魔王! わたしと(どぶ)ねずみさん達との、絆の力を!」
「うおおおおお! なんかやだ! 我輩そんな力でやられたくない!」
 魔王が必死にバリアを張りました。今までで一番強力なバリアでした。
 光の刃と闇の壁が拮抗し、バチバチと火花が散っています。
「グ、グググ……! まだだ、我輩まだ負けんぞ……!」
 わたしの攻撃力と魔王の防御力、ステータスを見れば両者の数値は完全に互角でした。
 ただし。この時点では互角、です。
「ねずみさん!」
《#のらちゃんがんばれ》
《#のらちゃんがんばれ》
《#のらちゃんがんばれ》
 ねずみさんの応援で、わたしの力が更に増します。
 ピシリ。バリアにヒビが入りました。
 もうひと押しです!
《#のらちゃんがんばれ》
「バッ、バリアが!」
「ヨシ!」
 今です、今です!
「―――クラリキャット! カッターッ!!!」
「グワーーーーーーーーッ!!!」
 いちげきひっさつ!
 わたしの伝家の宝刀、クラリキャットカッターが炸裂し、バリアが木端微塵に砕けました!
 光の剣の直撃を喰らった魔王の体は真っ二つに割れ、そして、
「サ・ヨ・ナ・ラーーーーーッ!!!」
 断末魔の叫びと共に爆発四散しました!
 魔王の壮絶な末期の声を聞いて、わたしはそっと手を合わせ、心の中で呟きます。
 ショッギョ・ムッジョ……!
「というか、はちゃめちゃに聞き覚えのある断末魔でしたね」
 異世界語ほんやくチームの都合なのかな。
 そういえば、現地人と日本語で話せたのはなんででしょう?
 わたし設定考察好きなので気になるんですが。
「でもマイヤー、それはおいておいて」
《マイヤー》
《おいておいておいておいて》
 いつものように、わたしの言葉を復唱するねずみさん達。
 そのコメントが浮かぶ方を見て、わたしはとびっきりの笑顔になり、
「わたし達の勝ちですよ、ねずみさん。ヤッター、ヤッター」
 高らかに、完全勝利の宣言をしました!
《さすのら!》
《おつきゃーっと!》
《のら!ちゃん!べりべりきゅーと!》
 ねずみさん達も、めちゃくちゃ褒め称えてくれています。
 褒められると嬉しくなっちゃうわたし。くるくる回ってポーズを取り、全身で気持ちを表現します。
 ですがしばらくして、とんでもないことに気付きました。
 わたし今やばい水着じゃん。
《みえ》
《エッッッッッ》
《脇の隙間えっちすぎる……》
 どぶねずみどもが騒いでいる。
 わたしはコメントをむんずと掴み、ガンガンと壁に叩きつけました。
《ああああああああああああ》
 視界を埋め尽くすほど流れる、大勢のどぶねずみどもの悲鳴。
 異世界の魔王を倒せるほどの圧倒的な数に、呆れたものか喜んだものか、全然わからなくなってしまい……わたしは思わず遠い目になって、ポツリと呟きました。
「まったくも」


「縦」
《縦》
《縦》
 ……さて。
 魔王を倒したわけですが、ここからどうやって帰ればいいんでしょう?
 前にも言いましたが、わたしの知ってるラノベは4年くらい前の作品なので、最近の異世界モノの事情には詳しくないんですよ。
《4年くらい……?》
「うるさいですね」
 都合の悪いツッコミは聞かなかったことにして。
 有識者のねずみさん、何かいい感じの情報はありませんか?
《のらちゃんを召喚した人なら、帰還させる方法も知ってるんじゃない?》
「なるほど」
 確かに。言われてみれば、そんな人もいましたね。
 そういえばなんか色々説明しようとしてたけど、なんも聞かずに飛び出したんでした。
 というか、あの時チート能力の話を聞いてればこうして配信できるのもわかったし、急いだの全部裏目じゃないですか。
 わたしが説明書読まないきゃっとだったせいか。まったくも。
「マイヤー。そうと決まれば、最初に出てきた城に戻って……」
 あれ、待てよ。
 そういえば、わたし、どっちから走ってきたんでしたっけ。
「やばい」
 道、なんもわからん。
 なんだっけ、山は通った気がするんですけど。
 あとなんか森も通りましたよね。
 えっと、えっと。
「…………山と森なんて似たようなのがたくさんあるでしょ!!!」
 わたしは頭を抱えて叫びました。
「もうダメだ、もうダメだ」
 くるくる回ってもうダメだの踊りをします。
「わらびもち、わらびもち」
 ぴょんぴょん飛んでわらびもちの踊りをします。
「よし、落ち着いた」
《うわあ! 急に落ち着くな!》
 スンッ……と冷静になったわたしにねずみさんがツッコミを入れました。
 でもみんなやるでしょ、変な踊りで冷静になるの。わたしはやります。
 そして冷静になれたので、わたしのクールでクレバーなアンドロイド頭脳が冴え渡ってきました。
「そうです、そうです! 天才的な解決策が見つかりました! 帰り道が全然わからないなら」
《わからないなら?》
「全方位、虱潰しに探せばいいんですよ」
 わたしは渾身のドヤ顔で言いました。
《のうすじ》
《のうすじ》
《のうすじ》
「こら、そこは《かしこい》とか《さすのら》でしょ」
《さすのら①》
「それはポンコツである様を表す用法でしょ、まったくも」
 ジト目で抗議すると、ねずみさんは《あっあっあっ》と喜びました。抗議にならない。
 まぁ、ともかく、ともかくです。のうすじだろうが何だろうが、やることはこれで決まり。
 方向こそわかりませんが、行きと違って帰りは時間に追われていないので、のんびりやればなんとかなるでしょう。
 と、そういえば。わたし、結局20:00には間に合ったんですかね。
「ねずみさん、今何時ですか?」
《19:120です》
 よかった。どうやらのら時空のおかげでギリギリ間に合ったようですね。
 一安心、一安心です。
「じゃあ、今から20:00ということで。改めて、こんばんは、こんばんは。のらきゃっとです」
《こんきゃーっと!》
《こんきゃーっと!》
《こんきゃーっと!》
 いつも通りのねずみさんとの挨拶。安心と言うなら、これこそ安心です。
 実のところ、ちょっと寂しかったんですよ。見知らぬ世界で一人きりなんて状況、わたしだってさすがに心細いです。
 でも、ねずみさん達が見てくれるから。帰り道は全然寂しくないですね。
「そういうわけで、異世界からの帰宅配信です。困ったことに右も左もわからんので、おそらくかなりの長時間配信になりますが……ねずみさん、今夜はわたしに付き合ってくれますか?」
《はーい!》
《はーい!》
《はーい!》
 元気のよい返事。うんうん、ありがたいことです。
 それじゃあ早速、適当にあっちの方から探してみますか!
《配信タイトル変えた方がいいかも》
 タイトル? あ、そういえば。
 気にしてませんでしたが、直前に配信したゲームのタイトルがそのままだったりするんでしょうか。
 チートスキルを使えば変えられるのかな。
「ゆうちょ。ステータスオープン」
 例の青い板を見ると……ありました。説明書はちゃんと読むべきですね。
 どうやら配信枠もうまいこと調整できるみたいです。サムネも作れるし、告知ツイートもできる。
 このスキル便利すぎるでしょ。元の世界でも使いたいんですが。
「ではタイトル変えますね。えっと、えっと、何にしようかな」
 むむむと悩んで、頭をこねこねするわたし。
 今回は流行りの異世界だし、長めがいいかも。最近のラノベみたいな。
 キャッチーな要素も入れて。ちょっとブラックにもしたいですね。
 以上を踏まえてわたしが考える、配信のタイトルは……。
「―――決めました!」
 スラスラと、ステータス板を指でなぞって書き込みます。
 するとスキルが発動して、ねずみさん達の見ている配信画面も変わったようでした。

【異世界召喚のらきゃっと、帰宅RTA ~帰り道が見つからなかったら異世界をイムラの植民地とします~】

「さあ行きますよ、ねずみさん! 魔王も倒したことだし、この世界はもうイムラの支配下です!」
《おのイム》
《おのイム》
《おのイム》
 ねずみさん達が入力したスタンプが空中を乱れ飛び、怒涛のツッコミに満足してクスクスと笑いつつ。
 わたしは意気揚々と両手を上げ、アンドロイド脚力で走り出すのでした。


~fin~

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