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Pulp / His 'n' Hers (1994)

英シェフィールド出身、ジャーヴィス・コッカーを中心に結成され、1970年代末から(細々と)活動してきたパルプ。

デビュー作から実に10年、紆余曲折を経てのシングル曲のヒット、メジャー・レーベルとの契約、そしてメジャー・デビュー作となるこの4作目で全英チャート9位を記録するとともに、マーキュリー賞ノミネートまで果たし、彼らは苦節15年で一躍UKトップ・バンドの一つへと成り上がった。

これまでも彼らの特徴であった、ジャーヴィスの語り口調だったり演劇調だったりする歌唱や80年代ニュー・ウェイヴの奇抜な香りは残しつつ、ギターとキーボードのバランスの取れた音作り、過去作よりも的を絞ったポップなメロディが揃い、陰鬱さや情けなさをキャッチーなサビでカタルシスへと反転させるロック精神も申し分ない。

ジャーヴィスによる詞は、しがない日常における恋愛模様、あるいはもっと踏み込んで性事情まで、生活臭をじっとり漂わせながらあけすけに描いており、このスキャンダラスな面や、洒脱さを追い越すくらいの艶かしい色情もまたパルプの魅力。最後の11曲目"David's Last Summer"での、長編小説の最終章のようなストーリーテリングや表現力も卓越しており、作家性の高さも当代随一。

独自性と大衆性を両立させブレイク・スルーを果たした本作により、バンドは一気に時流に乗り、ついには狂騒のブリットポップの中心になっていく。




パルプというバンドを「好き」なのと同時に「好きとは言いづらい」という相反する感情の理由が本作にはある。

奇抜で洒脱でエロくて情けない、そんな珍妙な要素を奇妙に掛け合わせた、奇跡的に文学的で、奇跡的にポップな、そんな稀有なバンド。

何を歌ってるんだよ…と引いてしまいそうなところから、結果的にはクライマックスで予想外の感動が打ち寄せるという、不思議な魅力を持ったアルバム。

ある意味最高傑作なのかも。

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