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【4月11日】 カロリーカットマヨは、食いしん坊の恥だ

某日

夫と一緒にVaundyのライブ動画を見た。Vaundyはいつもカラフルなフード付きの服を着ていて、とても似合っている。「Vaundyも冠婚葬祭用のスーツとか持ってるのかな」と言ったらウケた。


某日

一人で夜の散歩に出かける。基本的に出不精なので、散歩する習性がない。しかし、昨今の運動不足、そしてスマホをだらだら眺めることによる時間の浪費が著しく、このままではいけないという危機感、危機感はあるくせに同じことを繰り返す自分への失望、失望しているわりに旺盛な食欲、などの各種もやもやを振り払うように、とりあえず夜道を歩いてみることにした次第である。心地よい気温だったこともあり、すいすい歩いて隣の隣の駅まで行った。ひとつふたつ、アイディアも浮かんだ。家でもやもやしながらスマホを見ているより確実にいい時間を過ごせた。無意味な散歩は有意義であること知った。こんなことにも気づかないまま35年間生きてしまった、という新たなもやもやが発生した。一筋縄ではいかない。

家に帰るまでの坂道をのぼっていたら、前方に明らかな酔っ払いがいた。千鳥足でふらふら、ふらふら、民家の塀や、停まっている車に何度もぶつかりそうになる。ぶつかりそうで、ぶつからない、その瀬戸際のスリルは、見る者を魅了した。わざわざ歩く速度を落としてまで様子を観察していたが、だんだん距離が詰まって、さすがに追い抜かないわけにはいかなくなったので、追い抜いた。少し歩いてからこっそり振り返ると、そこに酔っ払いの姿はなかった。角を曲がったのか、それとも倒れたのか。酔人の行方は、誰も知らない。


某日

昼前、スーパーに買い出しに行くため玄関を出ると、裏の広場が何やら騒がしい。大勢が集まって、ござを敷いたり、長机を運んだりしている。側には「〇〇町内会」と印字された白いテントが見える。どうやら町内会の花見が開催されるらしい。

ぐずついた天気が続いていたが、今日は久しぶりに文句なしの快晴で、気温も高く、広場の桜もちょうど満開。明日からはまた雨予報らしいので、今日は最高のお花見日和といえよう。実行委員っぽい年配の男性が、「一班はこちら、二班はこちら」などと、マイクを使って指示を出している。「お弁当がありますので、名簿を見ていただいて……」というような説明を背中に聞きながら、スーパーへと向かう。

歩いていると、ふと疑問が浮かんだ。私は〇〇町内会の会員か否か。去年このアパートに越してきたとき、町内会費を払ったかどうか、思い出すことができない。しかし去年の夏、この広場で盆踊りが開催されたときには、ポストにお知らせのチラシが入っていて、チラシについていた券を持って行くとドリンクが無料で貰えた。これは町内会の一員として認められている証ではないか。ということは、町内会費を払っているのではないか。払っているのであれば、私もお花見のお弁当をもらう権利があるのではないか。

しかし、今回は盆踊りのときのようなチラシは見かけていない。これだけ大々的にお花見を開催しているのに、会員にお知らせしないというのは考えにくい。ということは、やはり払っていないのだろうか。あの盆踊りのとき貰えた無料のドリンクは、町内会費を払わないままのうのうと暮らす近隣住人へのお情けに過ぎなかったというのか。

久々にあたたかな陽気を浴びたことで、無性に桜の下で弁当を食べたい気持ちが湧き上がる。お弁当をもらうには名簿がどうこう言っていたが、聞くだけ聞いてみたらどうだろう。いやしかし、「すみません、名簿に私の名前ありますか? あ、ない? そうですか、では失礼します」てなことになる可能性を鑑みると、面の皮がチーズナンばりに分厚い私もさすがに勇気が出ない。

何かしら情報を得ようと、ダメ元でGoogle検索してみたところ、意外にも〇〇町内会のページが出てきた。花見についての記載もある。読んでみると、「毎年開催している花見大会では、会員が家族連れで集まり、女性部の手作り料理で親睦を深めています。」とある。今回の弁当も女性部の手作りなのだろうか。「女性部」の存在に一発でゲェとなったおかげで、誘われていない花見で弁当を貰えないか打診するなどという妙な気は起こさずに済んだ。帰るときにまた広場の様子をちら見すると、エプロンと三角巾をしたおばちゃんたちがせかせか動き回っていて、絶対に女性部だった。

夜、夫が帰宅してから、家にあるおかずをタッパーに詰めて広場のベンチで食べた。ござやテーブルはすっかり片付けられ、夜風が冷たかった。桜は夜でも存在感を失わない。ライトアップ不要の自己主張の強さ。からあげを食べる我々を、野良猫がしばらくじっと見ていた。

夫と記憶を手繰り寄せた結果、町内会費は払っていないとの結論に達した。女性部に入れられたら敵わんので、町内会には今後も入らないと思う。


某日

巷で人気の、アラジンのトースターを買うことになった。定番はグリーンとホワイトの2色だが、楽天で調べるとグレーもあった。ヤマダ電機限定カラーらしい。アラジンのトースターはレトロなデザインが可愛いのだが、一方で可愛すぎるとも思っていたので、グレーがあるならとすぐに食いついた。夫も「それでいい」と言ったが、わかりやすくそれでよくなさそうな感じだったので、「ほんとに? グレーでいいの?」としつこく聞いてみると、「この色が可愛いと思ってた……」と、アラジンといえばこの色、ど真ん中のグリーンを指差したので、最終的にはグリーンを買うことになった。まあせっかくアラジンを買うのなら、一番それっぽいやつを選ぶのが粋という気もする。トースターに対して粋だとか訳のわからないことを持ち出す私にとって、ストレートに可愛いものが好きな夫の素直さは実に得難い。


某日

人は時に、ポリシーを曲げねばならぬときがある。状況に応じて、自分を変えねばならぬときがある。今日がその日だ。私は今日、カロリーカットのマヨネーズを買った。味の素のやつだ。「ピュアセレクトマヨネーズ コクうま65%カロリーカット」だ。

カロリーを気にして、マヨネーズが食えるか。そう思って生きてきた。ジャンクな味を好むのであれば、相応のデメリットを受け入れる。その覚悟があってのジャンクであり、マヨである。カロリーカットマヨは、食いしん坊の恥だ。「背中の傷は、剣士の恥だ」みたいなことである。とはいえ、そんなプライドを守り続けても、誰かに「見事」と讃えられるでもなく、体脂肪率が年々上昇するばかりである。死にたくはない。私以上にジャンク好きな夫が、最近健康に気を向けるようになってきた。夫にも死なれたくはない。となれば、炊事担当者として、できる限りのことをしなくてはならない。だから今日、私は「ピュアセレクトマヨネーズ コクうま65%カロリーカット」を買った。棚からカゴに入れるとき、震えたよ。ああ、今、一つの時代が終わる。天を仰ぎ、涙が頬を伝った。それは嘘。「コクうま」も絶対に嘘。どう考えても、カロリーカットマヨが「コクうま」なわけがない。わざわざ商品名で「コクうま」と名乗っているのが怪しい。本場の料理を出す店は、看板に「本場の味!」とは書かない。家に帰って、一人で試食した。ブロッコリーにかけて食べてみる。「コクうま」だった。全然これでいい。

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