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page 12 ツキガキレイ

 it's story of the Mr. 神島 蓮

   
   初めて聞いた声があまりに綺麗で
     こういう時ってまず、
  名前を聞いたりするのが普通なのに
  話の筋書きもブッ飛んじゃうような
   まるで舞い上がった行動の俺、
        
        あーんど

 凄く頑張って冷静を装う俺に       
         自分で苦笑してしまう。


   「日本人の奥ゆかしい感性は
   直接的な“愛してる”を言わないで
  一緒に月を眺める事がもう愛だから

  月が綺麗ですねと伝える事で充分だら
  そんな風に言葉を訳したかもしれない       
     って説が有るんだって」


       「 … 」


       こんなのって
  まるでベタな口説き文句みたいだけど
    あのブログの世界観を持ってる
        織姫さんなら
    共感してくれそうな気がした。

         ふふっ
     「その話、知ってますよ」 

       「え、マジで?」

   「昔、ある人が教えてくれたから」

          ・

     彼女の言葉を聞きながら
    昔その言葉をくれた相手の事を
    好きだったのかもしれないと
  何となく瞬間的に伝わって来た気がした。

          ・

   「そんな事も知らないの?って
       笑われました」

   「もうさ、敬語はやめようよ」

          ・   

        
  あまりに優しい声で思い出を話すから
  変な嫉妬心からこんな事を言っている
  

       「 え? 」

  自分だって汐音が心から消えないくせに

   
    「急に敬語やめられるかな。
    神島さんは…」「蓮でいいよ」

      「蓮で いいから」
         
        「うん」

      「織姫さんは?」

        「え?」

   「織姫さんの名前は何ていうの?」

     「“ここは”と言います。
      心に羽と書いて心羽
    
       梛木 心羽」

      
     「綺麗な名前だね」

  言った事も無い素直な言葉がスラスラと
  口から勝手に出てくる

  初めて会話した相手に名前で呼べとか
  綺麗とか…

         それは
         あの月と
         この酒と 

  耳から聞こえる透き通る声のせいだって

   開け放った窓から夜風が舞い込む

      夏の香りの風が
     そっと額を撫でる

    「照れますね…こういうの」

    涼し気な声に目を閉じた
  瞼の奥に明るい月の光がぼんやりと
     赤く浮かんで見える


   理由は上手く説明出来ないけど
  彼女と俺は同じ世界を見てる気がする

  彼女の目から見える世界の画像を見て
  彼女の綴るメッセージを読んで
  彼女の話す声をこうして聞いている


それは丁度二人で共通の
     月を見ているような感覚に似ている

    
  “ツ キ ガ キ レ イ デ ス ネ”

 
  
  こうして彼女と月の夜に巡り合った。

         
         〈12〉

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