日本における多文化共生社会の構想ー「ちがい」と「同じ」という2つの視点 鈴木 江理子(国士舘大学)

国会で、出入国管理法改正の検討がされています。国会でも、メディア上でも「移民」「外国人労働者」「研修生制度」「人手不足」など、様々な言葉や考えが錯綜しています。開発教育協会(DEAR)では、昨年、機関誌『開発教育』64号(Dec. 2017)で、特集「多文化共生社会の未来と開発教育」としてこれらの問題を取り上げましたが、その中から、鈴木江理子さんによる寄稿を公開します。

身近に「外国人」が増えていく時代に、わたしたちはどう共に生きる社会を築いていくことができるのか、教育という文脈においては何を考えていくべきか。マイノリティ支援としての多文化共生に留まらず、マジョリティの側が無自覚に持つ特権や、そこから生ずる排除の構造にどのようにして気づき、変えていけるのか。本稿が、今後の議論と実践につながることを期待しています。(開発教育協会)

鈴木 江理子(すずき・えりこ)
国士舘大学文学部教授。博士(社会学)。移民政策学会事務局長、認定NPO法人多文化共生センター東京理事、NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク副代表理事、公益財団法人かながわ国際交流財団理事等を兼任。移民政策、人口政策、労働政策などについて研究するかたわら、外国人支援の現場でも活動している。主な著作に『「多文化パワー」社会』(共編著、明石
書店、2007年)、『日本で働く非正規滞在者』(単著、明石書店、2009年、平成21年度冲永賞受賞)、『東日本大震災と外国人移住者たち』(編著、明石書店、2012年)、『外国人労働者受け入れを問う』(共著、岩波ブックレット、2014年)など。

社会は、その構成員によってつくられる。したがって、構成員が変化すれば、当然、諸制度を含めた社会のありようにも変化が求められる。本稿では、構成員の変化という視座から、「共に生きる」社会を考察したい。

1.戦後日本の外国人政策

1)送出し国から受入れ国へ

かつて送出し国*1) であった日本が、受入れ国へと転換するのは1980年代後半である。

*1)明治維新から第2次世界大戦後の1970年代にかけて、人口政策(人口増加の抑制)として、ハワイやアメリカ、ブラジルやペルーなどの南米、旧満州への移住が推奨された。なお、旧満州への移住は、植民地の拡大という軍事的な意図もあった。

もちろん、それ以前にも、日本には外国人(日本国籍をもたない者)が暮らしていた。すなわち、サンフランシスコ講和条約発効を機に、日本国籍を「剝奪」され「外国人」となった旧植民地出身者、そしてその子孫(オールドタイマーあるいはオールドカマー)。日中国交回復によってようやく開始された帰国事業で「母国」日本に戻ることが可能となった「中国残留孤児」や「中国残留婦人」、そしてその家族。国際的批判をうけ1978年より受入れが開始されたインドシナ難民、などである。

けれども、その数も増加率もそれほど大きくはなかった(1955年末641,482人⇒80年末782,910人⇒85年末850, 612人、いずれも外国人登録者数)。そして、当時の外国人政策の中心は、外国人登録者の多数を占める旧植民地出身者とその子孫に対する管理であった。

そのような政府の政策に変化を迫ることになったのが、バブル景気の労働力不足のなか、労働市場の需要に応えるかのごとく出現した海外からの労働者―そのほとんどが合法的な就労資格をもたない「不法」就労者―である。実態としての外国人労働者の増加をうけ、受入れの是非が政府内で討議された結果、1988年6月、専門的・技術的労働者は「可能な限り受け入れる方向で対処する」一方で、いわゆる「単純労働者」は「十分慎重に対応する」(受け入れない)という基本方針が閣議決定された(第六次雇用対策基本計画)。

今なお継承されている外国人労働者受入れの根拠は「我が国経済社会の活性化、国際化に資する」であり、労働力不足への対応という視点はない。そして、第六次計画をふまえて、1989年12月、出入国管理及び難民認定法が改定された(翌90年6月施行)。

その結果、労働市場が求め、まさに「不法」就労者によって充足されていた職種―例えば、工場や建設現場、飲食店など―は、いわゆる「単純労働」とみなされ、フロントドアから外国人労働者を受け入れる道が閉ざされてしまった。

2)ニューカマーの増加・定住化

けれども、実際には、血のつながりを根拠とした日系人の優遇的受入れや、「国際貢献」を目的(タテマエ)とする研修制度の拡大・技能実習制度の創設など、サイドドアの活用によって、いわゆる「単純労働者」の供給が可能となった。国際化・グローバル化が進展するなかで、彼/彼女ら以外にも、大学や日本語学校で学ぶ留学生、専門的・技術的労働者や留学生の家族、結婚移住女性など、多様な外国人が日本で暮らし、働くようになった。

そして、一世の高齢化や死亡、日本国籍の取得、日本人との結婚などで、オールドタイマーが数においても割合においても減少する一方で(1984年末79.7%⇒95年末41.3%⇒2005年末23.6%⇒16年末14.2%)、戦後新たに来日したニューカマー外国人が増加し、外国人登録者数も、1990年末には100万人を、2005年末には200万人を超えた。

2016年末現在、在留外国人数*2) は2,382,822人である。国籍別では、ニューカマーの増加をうけて、2007年末統計以降、中国が第1位とな(29.2%)、韓国(19. 0%)、フィリピン(10. 2%)、ベトナム(8. 4%)、ブラジル(7.6%)と続いている。

都道府県別では、東京都に全体の2割強(21. 0%)が居住し、愛知県(9. 4%)、大阪府(9. 1%)、神奈川県(8. 0%)、埼玉県(6.4%)などの都市圏に集中している一方で、全国1,741市区町村のほとんどの自治体に外国人住民が生活している。1,741市区町村のほとんどの自治体に外国人住民が生活している。

外国人雇用状況の届出(2016年10月末)をみると*3) 、フロントドアからの専門的・技術的労働者が全体の2割以下(18.5%)であるのに対して、日本人の配偶者や日系人など就労に制限のない身分または地位に基づく在留資格をもつ外国人(38.1%)、技能実習生(19. 5%)、アルバイト(資格外活動)する留学生など(22.1%)、サイドドアからの外国人労働者が多数を占め、「単純労働」に従事している外国人も少なくない*4) 。

コンビニやスーパー、ファーストフード店など、日頃私たちが目にする職場のみでなく、総菜工場や宅配の仕分け、建設現場や産業廃棄物処理場、ビル清掃やホテルなどのリネンサプライ、農家や水産加工場など、さまざまな場所で外国人は働き、日本社会を支えている。

*2)在留外国人とは、「特別永住者」(オールドタイマーの外国人に付与される在留の資格)と中長期在留者(在留資格「外交」と「公用」、在留の資格「特別永住者」以外の外国人で、3月以上の在留期間をもつ外国人)をいう。2012年7月に外国人登録法が廃止されて以降、外国人登録者数に代わって在留外国人数が、日本に居住する外国人の数として用いられている。
*3)「外交」と「公用」、及び「特別永住者」以外の外国人が届出の対象である。また、名称が示す通り、届出は「雇用者」のみであるため、経営者や自営業者、一人親方などは含まれていない。
*4)加えて、1990年代と比べればその数は激減しているものの、合法的な滞在資格をもたないバックドアからの外国人労働者も、その多くが「単純労働者」として働いている。

2.人口減少社会・日本における外国人/移民受入れ

1)人口減少・労働力不足と外国人
前述の第六次雇用対策基本計画以降、外国人労働者の受入れと国内労働力の需給バランスとは切り離されて論じられるのが常であり、労働力供給の不足に対しては、女性や高齢者の労働力率向上、省力化・効率化による生産合理化で対応すべき、というのが政府の主張であった。

このような姿勢に変化がみられるのが2000年代半ばごろからである。2005年3月に策定された第三次出入国管理基本計画では、「出入国管理行政としても、人口減少時代における外国人労働者受入れの在り方を検討すべき時期に来ていると考えられる。<中略>現在では専門的、技術的分野に該当するとは評価されていない分野における外国人労働者の受入れについて着実に検討する」と明記された。奇しくも2005年は、1920年の国勢調査開始以来、初めて1年前の人口推計を人口統計が下回った年でもある。

これに前後して、政府内や経済界で、これまでフロントドアからの受入れを認めていなかった分野での外国人労働者の受入れが検討されるようになった。なかには、単なる労働者ではなく、「移民」として受け入れるべきだという提言もあった*5) 。

これを機に外国人/移民受入れをめぐる討議が深まることが期待されたが、リーマンショックや東日本大震災の影響により、国民的な議論を形成するには至らなかった。2007年以降ずっと、日本の人口は自然減少*6) を続け、その減少幅は年々拡大しているにもかかわらず、いまだ日本は、人口減少社会の到来の深刻さを実感していなかったといえよう。

*5)自民党国家戦略本部日本型移民国家への道プロジェクトチーム「人材開国!日本型移民国家への道」(2008年6月)は、国連の定義を援用し、「通常の居住地以外の国に移動し、少なくとも12ヶ月間当該国に居住する人」を「移民」と定義し、今後50年間で総人口の10%程度の移民受入れを求めている。
*6)人口は、自然増減と社会増減によって決定される。前者は出生と死亡の差による人口増減であり、後者は移動によってもたらされる人口増減である。

2)成長戦略と「外国人材」の活用
人口減少が対処すべき「問題」として大きく取り上げられるようになるのは、成長戦略を掲げる第二次安倍内閣発足(2012年12月)とともにである。

国立社会保障・人口問題研究所の平成29年推計(出生中位・死亡中位)によれば、2040年には総人口1億1,092万人、生産年齢人口5,978万人、高齢化率35.3%、2065年にはそれぞれ8,808万人と4,529万人、38.4%になる。日本の高齢化率は世界で最も高く、他国に類を見ない速度で進行している。

このような深刻な人口状況をふまえて、人口減少下においても持続的発展を遂げるために、「外国人材の活用」が推進され、迅速に政策が遂行されている。受入れ推進の中心は、技能実習制度の拡大が端的に示すように、滞在期間に上限を設定した単身者、すなわち「還流型」労働者である。

さらに、建設就労者、家事労働者や農業就労者、介護士など、これまで、いわゆる「単純労働者」に分類されていた労働者であっても、時限的措置や国家戦略特区の活用、国家資格の取得などの条件つきとはいえ、フロントドアからの受入れが着実に進められている。

一方、移民受入れについては、政府内の委員会で俎上に載せられたこともあったが、2014年6月、「外国人材の活用は、移民政策ではない」として、移民に頼ることなく「50年後に1億人程度の安定した人口構造を保持することを目指す」閣議決定がなされた。シナリオでは、合計特殊出生率(total
fertility rate: TFR)が2030年に希望出生率*7) である1.8程度(2016年実数値は1.44)に、2040年に人口置換水準である2.07程度にまで上昇すると仮定されている。もちろん、子どもを産み育てたいという希望が叶えられる社会的基盤を整備することに異論はないが、希望出生率を上回るTFRは、実現困難な目標設定といわざるをえない。

*7)希望出生率とは、結婚や出産の希望がすべてかなえられた場合のTFRであり、国立社会保障・人口問題研究所「第14回出生動向基本調査」(2010年6月実施)の結果をもとに算出した数値である。

3)すでに進行している「移民」受入れ
果たして、日本に移民はいないのであろうか。「移民」の定義は国によって異なっている*8) 。日本は「移民」を明確に定義していないが、「還流型」に対して、在留期間の更新や在留資格の変更が可能で家族を形成できる「定住型」外国人を「移民」と捉えれば、在留外国人の8割強は移民であるし、44.7%は永住資格―「特別永住者」という在留の資格をもつオールドタイマーと、永住権を取得したニューカマー―を有している。

外国人人口比率は1.88%と、欧米先進諸国に比べて低いとはいえ、人口指標をみると、2000年国勢調査の日本人人口と外国人人口を100とした場合、2015年調査ではそれぞれ99.1と133.7である。

2015年の高齢化率*9) は日本人26.9%に対して外国人7.6%で、外国人の年齢構成によって日本全体の高齢化率は26.6%に押し下げられている。2016年に日本で生まれた子どものうち、両親のいずれかが外国人である日本籍の子ども(19,118人)と外国籍の子ども(17,039人)の占める割合は3.6%である。

*8)国連では、居住国を12ヶ月以上離れ、移動先の新たな国が通常の居住国となった者をinternational long-term immigrant / emigrantと定義している(注釈5参照)。また、フランスでは外国で生まれ出生時にフランス国籍をもたない者を、アメリカでは永住権(グリーンカード)をもつ外国人を「移民」と定義している。これに対して、ドイツは、日本同様、「移民(Einwanderung / Zuwanderung)」の明確な定義をもっていない。
*9)高齢化率は、年齢不詳を除して算出している。

人口減少が進行しているにもかかわらず、社会増減では4年連続の増加であり、その要因は外国人の社会増である。人口政策的意図での受入れではないにせよ、結果として、移民(定住型外国人)が人口減少や出生数減少を抑制しているのである。

さらに、日本国籍を取得した元外国人(「帰化」手続きによる日本国籍取得者)や、日本人と外国人との間に生まれた日本人(「ダブル」あるいは「ハーフ」と呼ばれる日本人)など、外国ルーツの日本人(移民の背景をもつ日本人)も少なくない。日本国籍取得者数は2016年までの累計で540,400人、「ダブル」の子どもは、統計のある1987年から2016年まで累計で496,664人に上っている。少し注意深く見渡せば、私たちは、スポーツや文化、学術界など様々な領域で、彼/彼女らの活躍を目にすることができるであろう。

つまり、「移民」受入れは将来の課題などではない。すでに日本には、多様な国籍、民族や文化をもつ人々が暮らしているのである。たとえ現政権が「移民政策ではない」*10)  と主張しようとも、彼/彼女らを、日本社会の構成員として迎え入れるための政策は必要なのである。

*10)経済財政諮問会議「経済財政運営と改革の基本方針」、2014年6月。

3.外国人/移民が直面する不平等

1) 労働市場における不平等
では、日本政府は、外国人/移民をどのように処遇しているのであろうか。

この続きをみるには

この続き:7,286文字/画像2枚

日本における多文化共生社会の構想ー「ちがい」と「同じ」という2つの視点 鈴木 江理子(国士舘大学)

DEAR

100円

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

3

DEAR

"教育系" note まとめ

"教育系" noteのまとめです。
1つのマガジンに含まれています
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。