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小説「転職王」第十話 ロングドラッグ

ドラッグストアと女性視点

加奈(健二)が立てた中期経営戦略は高い評価を受け、JMRグループの中核会社ロングドラッグの執行役員・経営改革部長の辞令が出されました。
加奈は新たな役職に対する期待と緊張を感じつつも、これまでの経験を活かして自分の力で会社を変革していく決意を固めました。
和久田 経営企画室長と橋口 人事部長に感謝の意を述べた後、加奈はロングドラッグへの出向をポジティブに受け止め、新たな挑戦へと進んでいきました。

経営改革部長・執行役員

女性がメイン顧客であるドラッグストア事業において、唯一の女性経営幹部ということになれば、女性の視点を求められることになると、高橋加奈(佐藤健二)は考えました。

配属前に女性目線でドラッグストア事業を分析する手法を模索する中で、まずは一次情報を得ようと自社・競合の店舗を女性客として50店舗視察しました。

結果として、以下のことに気づきました。
男性時代にはドラッグストア自体がシャンプーや風邪薬の購入以外で来たことがなかったので、新たな気づきが多いことに驚きます。
女性客に支持されている繁盛店は以下の特徴がありました。

  1. 化粧品の品揃えが豊富であること

  2. メイクアップツールの取り扱いが多いこと

  3. スキンケア製品のカテゴリーが分かりやすく分類されていること

  4. 生理用品コーナーが男性が通りにくい場所に設置されていること

  5. 女性用シェービング用品が充実していること

  6. 女性向けのサプリメントや健康食品が充実していること

  7. ヘアアクセサリーやヘアケア製品が豊富に揃っていること

  8. トライアルサイズの化粧品やスキンケア製品が用意されていること

  9. 授乳室やベビーカー対応のトイレが設置されていること

  10. 女性スタッフが多く、丁寧な接客が行われていること

  11. オーガニックやナチュラルな製品が充実していること

  12. カウンセリングコーナーが設置され、スキンケアや健康に関する相談ができること

加奈(健二)は、ロングドラッグで女性向け商品の分析を行うため、ID-POSデータを活用して調査を始めました。
彼女はまず、売上データを見て、化粧品、スキンケア、ヘアケア、生理用品などの女性向け商品の売れ筋や需要を把握しようとしました。

彼女はデータを丁寧に分析し、特に売上の高い商品やカテゴリーをリストアップしました。
その後、トレンド分析を行い、現在の消費者の嗜好やニーズを把握しようと努めました。

加奈は、SNSやインフルエンサーが紹介している化粧品やスキンケア商品の影響も考慮し、どのような商品が注目されているかを調査しました。
また、季節やイベントによる商品の需要の変化も分析しました。

さらに、女性向け商品の購入者層を調査し、年代別やライフスタイル別のニーズを分析しました。
例えば、若い女性にはトレンドに敏感な商品が人気であり、働く女性には機能性や手軽さが求められる商品が好まれることがわかりました。

この調査を通じて、加奈はロングドラッグの女性向け商品の強みや改善点を見つけました。
彼女は、これらの分析結果をもとに、より女性顧客にとって魅力的な商品の取り扱いや陳列方法を考案し、女性客の満足度を高めるための施策を立案することにしました。
いずれも佐藤健二時代には思いもつかなかった施策です。


経営会議

経営会議が開かれ、加奈(健二)は社長の赤松 継矢、専務の有馬 利光、常務の板谷 和朋、執行役員の岡島 由紀夫IT部長、そして部下である鬼頭 迅瞬と一緒に会議室に集まりました。
加奈(健二):「社長、専務、常務、岡島役員、そして鬼頭次長、本日はお忙しい中、この会議に参加いただきありがとうございます。私たちのドラッグストア事業では、女性客が主要顧客であることから、女性目線が欠かせません。そこで、私が提案したいことがあります。」

赤松社長:「高橋部長、それではどうぞ提案をお聞かせください。」

加奈(健二):「まず、女性顧客の声を収集するために、アンケートやインタビューを通じて、女性顧客のニーズや要望を把握し、改善策を検討したいと思います。」

有馬専務:「確かに、女性顧客の意見を直接聞くことは重要ですね。どのように進める予定ですか?」

加奈(健二):「まずは、店舗でアンケートを実施し、オンラインでも意見を募集します。そして、得られた意見をもとに、改善策を検討し、実施していく予定です。」

板谷常務:「それは良いアイデアだと思います。しかし、経営陣も女性の意見を取り入れるべきだと思うのですが、どうでしょうか?」

加奈(健二):「おっしゃる通りです。私たち経営陣は男性ばかりで、女性の視点が不足しています。そこで、今後は経営陣にも女性幹部を積極的に登用することを提案します。」

岡島役員:「確かに、経営陣に女性が加わることで、よりバランスの取れた意思決定ができると思います。」

有馬専務:「確かに、女性の意見や視点は重要ですが、経営陣に女性を登用することが必ずしも適切な解決策とは限らないと思います。具体的な実績や能力がある人物を登用することが最優先であるべきです。」

加奈(健二):「有馬専務、その点はもちろん重要ですが、同時に女性の視点も大切だと思います。女性幹部を登用することで、私たちの経営陣がより多様化し、女性顧客に対しても適切なサービスや商品が提供できるようになると考えます。もちろん、能力や実績も重視しますが、経営陣の多様化も重要な要素だと思います。」

赤松社長:「高橋部長の意見も理解できますし、有馬専務の意見も重要です。では、まず女性の意見を取り入れる方法として、高橋部長が提案したアンケートやインタビューの実施を進めましょう。そして、女性幹部の登用については、実績や能力を重視しつつ、中期的に経営陣の多様化を目指していく方向で検討しましょう。」

会議の結果、加奈(健二)の提案が承認され、女性顧客のニーズや要望を把握し、改善策を検討するためのアンケートやインタビューの実施が決定されました。
また、経営陣の多様化についても、実績や能力を重視しながら検討が進められることとなりました。


数週間後、加奈(健二)はアンケートやインタビューの結果を経営陣に報告しました。

加奈(健二):「アンケートやインタビューの結果から、女性顧客は特に美容や健康に関する商品やサービスに強い関心を示しています。
また、女性スタッフによる丁寧な接客や、女性向けのキャンペーンやイベントも好評でした。」

岡島IT部長:「それは興味深いですね。では、これらの情報をもとに、どのような改善策を考えていますか?」

加奈(健二):「まず、女性向けの商品やサービスを強化し、店舗のディスプレイやキャンペーンも女性顧客を意識したものにすることが重要だと思います。また、女性スタッフの教育や研修を充実させ、接客スキルを向上させることも大切です。さらに、女性幹部の登用についても進めていくことで、経営陣の多様化と女性顧客への理解が深まると考えます。」

赤松社長:「なるほど、具体的な改善策が見えてきましたね。では、高橋部長、これらの改善策を実行するためのプロジェクトチームを立ち上げ、全体の進捗管理をお願いできますか?」

加奈(健二):「はい、もちろんです。プロジェクトチームを立ち上げて、女性顧客により良いサービスや商品を提供できるように取り組みます。」

こうして、加奈(健二)はプロジェクトチームを立ち上げ、女性顧客のニーズに応えるための改善策を実行に移していくことになりました。
また、経営陣の多様化についても検討が進められ、徐々に女性幹部が登用されるようになりました。
ロングドラッグは女性顧客の支持を受け、業績も向上していくこととなりました。

様々な問題

調剤部門におけるDX停滞

古谷 心尋エリアマネージャーは、DX推進により薬局での業務が効率化されているものの、堀之内店で技術格差による情報共有の問題が起きていることに気づきます。
薬局長の和泉 麗央はデジタルツールを駆使して業務をこなしている一方、薬剤師の長田 達彦はデジタルツールをなんとか使っているのがやっとでした。事務員の及川 かおりはデジタルツールの使い方に苦戦していました。

デジタルツールの導入が進む中、新しい業務の習得が遅い及川 かおりは業務がアップアップになってしまいました。
このため、及川はレセプトコンピューターへの処方箋情報の入力を誤り、調剤過誤が発生してしまいました。
幸い、和泉薬局長がダブルチェックで気づき、患者の樋口 正一に連絡をして謝罪しました。
しかし、一歩間違えば健康被害を受けていた樋口の怒りが収まらない状況でした。

古谷は、和泉に対して全職員がデジタルツールを使いこなせるような環境整備の重要性を伝え、サポートを要請しました。
和泉は古谷の意見を受け入れ、長田 達彦と及川 かおりにデジタルツールの使い方を教えるための研修を計画しました。

研修では、デジタルツールの基本操作や情報共有方法を学び、及川は少しずつ使い方に慣れていきました。
和泉は彼女がデジタルツールを使いこなせるようになるまで、丁寧にサポートを続けました。

徐々に及川もデジタルツールを使いこなすようになり、情報共有の問題が解決されていくことがわかりました。
古谷エリアマネージャーは、和泉薬局長が職員のサポートに取り組んだことを評価し、他の薬局にも同様の取り組みを広めることを提案しました。

この経験を通じて、和泉薬局長は職員間の技術格差や情報共有の重要性を再認識し、積極的に職員の研修やサポートを行うようになりました。
また、古谷エリアマネージャーも、他の薬局に対してデジタルツールを活用した効率化と職員の技術向上に取り組むよう指導を行いました。
次第に、ロングドラッグの調剤部門では、デジタルツールを活用した効率的な業務遂行が進み、職員もデジタルツールを使いこなすようになりました。
また、技術格差による問題が解消されることで、薬局内のコミュニケーションも改善され、顧客満足度も向上していきました。

加奈(健二)は、デジタル活用による経営改革が効果を発揮し始めたことを確認し、引き続き積極的に、自身が立てたDX戦略の推進に取り組んでいくことを決意しました。

労働環境と炎上

ロングドラッグのOTC部門では、通常薬剤師は1名体制で勤務しているため、昼休み中に第1類医薬品を希望するお客さんがきたときには接客できるように事務室に待機せざるを得ない状況でした。
それに対する不満は各店舗がもっていました。

橋本 一貴は、ロングドラッグの蒲田店で働く薬剤師でした。
ある日、彼は昼休み中に第1類医薬品を希望する顧客が来店し、休憩時間にもかかわらず対応しなければならない状況にイライラしていました。

橋本一貴(薬剤師):(また昼休み中に顧客が来るなんて…いつものことだけど、正直疲れるな。)

その夜、橋本は同僚の薬剤師である石川 和子と飲み会で話をしていました。

橋本一貴:「今日も昼休み中に顧客が来て、また休めなかったよ。カップラーメンはいつも伸びるし。」
石川和子:「大変だよね。でも、仕方ないよね。薬剤師は1名体制だから。会社に言ってもウチの会社だと睨まれるだけだし…」

橋本一貴:「うん、分かってるけど、無給で働かされるのはどうかと思うよ。他の店舗でも同じ問題があるんじゃないかな?」

石川和子:「確かにそうだね。でも、どうしようもないんじゃない?」

橋本 一貴は、その日の夜、SNSに自分の不満をつぶやいてみることにしました。
kazukazu(SNS投稿):”昼休み中にもかかわらず、第1類医薬品を希望する客が来ると、無給で働かされる。薬剤師は大変だ…。”

この投稿が短時間で多くの共感を集め、炎上状態になります。
コメントA:"それ、本当に大変そう。労基に行くかやめるか。"
コメントB:"無給で働かされるのは違法じゃないの?"

ロングドラッグでは、この炎上事件を受けて、労働環境の改善を検討する必要が生じました。
社内では、経営幹部が集まり、今回の炎上事件に対する対策と今後の労働環境改善について話し合いが行われました。

加奈(健二)も、この問題に取り組むことになり、以下のような提案を行いました。

  1. シフト制度の見直し:薬剤師のシフトを見直し、昼休み中に別の薬剤師が対応できるようにする。

  2. 非常勤薬剤師の活用:非常勤薬剤師を雇用し、ピーク時や休憩時間帯に対応できるようにする。非常勤薬剤師の時給で見合わない時間帯であれば、謝罪の上で一切の販売をお断りする。

  3. 第1類医薬品の購入方法の変更:オンラインでの購入や予約制度を導入し、顧客が来店するタイミングを調整できるようにする。

  4. 労働時間の見直し:無給で拘束されている時間に対する適切な報酬を支払うようにする。

経営陣は、加奈(健二)の提案を受け入れ、実際にこれらの改善策を実行に移すことを決定しました。
これにより、薬剤師たちの労働環境は徐々に改善されていきました。

また、ロングドラッグは、社内外に対して今回の問題に対する謝罪と改善策を公表しました。
これにより、顧客や社会からの信頼回復につながり、炎上事件を収束させることができました。
信頼回復は意外な副産物を生みました。慢性的に不足していた薬剤師の離職率が低下し、中途入社が増加したのです。
中途入社した薬剤師にヒアリングしてみると、同じように社員への一方的な負荷をかける企業で働いていて、どこも同じと諦めていたところに変化の兆しを感じたとのことでした。

加奈(健二)は、この問題を解決することで、経営改革の一環として労働環境の改善にも取り組むことができました。副次的に採用コストを抑えることにもなりました。

不明ロス

ドラッグストア事業2000店舗のうち、上位1%に入る繁盛店ロングドラッグ渋谷店は、商品の不明ロスが最も多い店舗で社内で問題になっていました。
防犯カメラを増やしても、一部店舗で化粧品中心にロス率が上がっていることから、経営改革室になんとかしてくれという社長指示が出ました。

長塚(城西地区エリアマネージャー): 「塩沢店長、渋谷店の不明ロスについて最近どうですか?経営改革室が導入したAIを用いた映像解析システムと3Dカメラを導入した結果はどうなっていますか?」

塩沢(渋谷店店長): 「長塚さん、店内の商品のロスは減少しています。特に、化粧品コーナーでの盗難が目立って減っています。ただ、バックヤードにある高級化粧品「White」のロスが減少しないんですよね。」

井関(渋谷店化粧品担当): 「そうなんです、塩沢さん。店内の商品は確かに盗難が減っていますが、バックヤードの商品はまだ問題が解決していないようです。」

長塚AM: 「そうですか…。3Dカメラで死角が減ったはずなんですが、それでもロスが減らないとは…。もしかしたら、内部犯行の可能性もありますね。」

塩沢店長:「 その可能性も考えられますね。従業員全員に対して防犯意識の向上を図る研修を行った方が良いかもしれません。」

井関: 「それに加えて、バックヤードの出入りを厳しく管理するようにすると、内部犯行を防ぐことができると思います。従業員の出入りを記録し、不審な動きがあればすぐに察知できるようにした方が良いですね。断定できないんですけど、パートで入っている5人のうち2人はちょっと怪しいんです。」

長塚AM:「 いい提案ですね、井関さん。それでは、塩沢さん、渋谷店で従業員向けの研修を実施し、バックヤードの出入りを厳しく管理するようにしてください。また、不明ロスが減少するかどうかを継続的に確認しましょう。」

塩沢:店長 「了解しました、長塚さん。早速実施に移し、状況を報告いたします。」

長塚AM: 「塩沢店長、渋谷店の不明ロスについて、バックヤードにもカメラを増設した結果はどうでしょうか?」

塩沢店長:「 長塚さん、カメラを増設したものの、残念ながらロスは減らない状況です。」

高橋加奈(健二): 「そうですか…。それでは、新たなプロジェクトを提案します。監視カメラやセンサーからのデータを一元的に管理し、分析することで、従業員や顧客の行動パターンを把握しましょう。」

長塚AM: 「それは良いアイデアですね、高橋部長。では、そのプロジェクトを開始しましょう。」

(数週間後)

加奈(健二): 「長塚さん、AIを用いた分析の結果、犯人が特定できました。驚くべきことに、塩沢店長が犯人でした。」

長塚AM:「 えっ、本当ですか?どのような手口でしたか?」

加奈(健二): 「塩沢店長は一人で残業している時に、商品を段ボールに詰めて自身のロッカーに保管していました。その後、営業中に宅配便で自宅に送る手口でした。」

長塚AM: 「そんな手口が…。では、塩沢さんにはどのような対応をしましょうか?」

加奈(健二): 「まずは塩沢店長に事情聴取を行い、その後適切な処分を検討しましょう。また、今回の事件を受けて、出退勤マニュアルの見直しと従業員への教育強化が必要だと思います。」

長塚AM:「 そうですね。今回の事件を教訓に、全店舗で防犯対策を見直しましょう。」

高橋加奈(佐藤健二)のドラッグストア経営改革が効果を挙げることに、経営陣の信頼も増していきました。

結果として、ロングドラッグにきて1年後には1000店舗を展開するスーパーマーケット事業であるサクラマーケットの取締役(IT管掌)として、栄転しました。

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