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小説「転職王」第三話 日用品メーカー月王

初めての転職

佐藤健二は磯野商事から大手日用品メーカー・月王に転職し、新商品開発部門に配属された。
残念ながら、旧知の和久 隆男は営業本部に異動して大手ドラッグストア担当となっていたため、月王では知らない人々と新たな関係を作る必要があった。

上司は50代の矢村 太一部長でガリガリに痩せていた。髪の毛の薄さを気にしているという噂を入社初日に聞いた。
同僚は30歳の先輩社員加古 明と、佐藤健二と同年齢の26歳派手なメイクの町田 孝美がいた。

初日の朝礼で、矢村部長は帽子をかぶりながら話し始めた。
矢村部長:「佐藤君、ようこそ月王へ。ここで素晴らしい成果を上げて、会社に貢献してほしいね。」

佐藤:「はい、矢村部長。ありがとうございます。一生懸命頑張ります。」(髪の薄さを隠すための帽子かな…)

プロジェクトが始まり、チーム内での会議が行われた。今回の目標は、これまでにない画期的な食器洗剤の開発だった。
加古は発言の歯切れが悪く、町田は使えないアイデアを矢継ぎ早に出していった。

決められない男とエキセントリックな女

町田:「じゃあ、こんな感じで洗剤が泡立つ仕組みはどう?それとも、香りが変わるタイプがいいかな?」
「環境にも配慮したり、見た目も可愛くしたり…」
「洗ったら食器棚に入っているとかも斬新よね。」
「音波で汚れを浮かせる超音波洗剤とかどう?」
「食器洗いをすると花が咲くような見た目の洗剤って可愛いかも。」
「無限に続く泡を作り出す食器洗剤も超ヤバいよね。」
「無重力空間でのみ使用可能な食器洗剤とか世の中にないよね。」

町田のアイデアがかなりエキセントリックで現実味がなくなってきたところで、佐藤健二は斬新かつ実現性の高いアイデアを3つ挙げた。
佐藤:「どうでしょうか、これらの案は。1つ目は、新たな天然成分を使って洗浄力を高める方法。2つ目は、食器洗いが完全に終わると自然に香りが広がる洗剤の開発。そして3つ目は、食器に貼るだけで汚れが落ちるシール型の洗剤は持ち運びに便利なものです。」
(どう考えても俺の方が良いよな。1つ目は無難で、2つ目は主婦の家事が楽しくなるアイデア、3つ目は市場調査して目がありそうなら新しい市場が作れるかも)

加古:「えっと、その…どれもいいと思うんですけど、どれが一番いいんでしょうか。もう少し検討した方がいいかもしれませんね。」

町田も実現可能性の高い佐藤の案が良いと感じていたが、加古が決めきれないため、部長も入れた月1回の定例会まで何も決まらないまま月日は流れた。


(会議室でのチームミーティング)
矢村部長:「皆さん、今日はこの食器洗剤の開発プロジェクトについて話し合いたいと思います。」

加古:「はい、部長。」

佐藤:「かしこまりました。」(今日も帽子か)

町田:「了解です!」

矢村部長:「それでは、町田さん、何か新しいアイデアはありますか?」

町田:「ええと、今まで言ったアイデアの他にも、こういうのはどうでしょう?食器洗いが終わると、食器がキラキラ輝くようになる食器洗剤とか!」「そうだ!泡が出る度に違う動物の形になる食器洗剤はどうかな?子どもたちも楽しめるし。」

加古はうんざりした表情で首を振り、佐藤に目を向けた。
加古:「佐藤くん、君はどう思う?」

佐藤は内心ため息をつきながら、自分のアイデアを提案した。
佐藤:「それでは、私からも提案させていただきます。先日挙げたアイデアの「食器洗いが完全に終わると自然に香りが広がる洗剤」についての消費者調査を行いました。
調査結果によると、食器洗いをどこまでやれば安心なのかがわかって嬉しいという評価をいただいて、既存商品よりも30%高い購入意向を獲得できています。
製造原価は20円上がりますが、今までにない商品ですので価格競争に巻き込まれずに済むと予測します。」
(さすがにここまでやれば決まるだろう)

町田:「おお、それってすごくいいかも!」

加古は目を細めて悩んでいた。
加古:「うーん、今までにない商品というのはリスクが大きいし、製造原価も20円上がってしまうのか…」

矢村部長:「加古さん、決断を下してください。このプロジェクトはあなたがリーダーですから。」

加古:「はい、部長。もう少し考えさせていただきます…」

佐藤と町田は顔を見合わせ、どちらも心配そうな表情を浮かべた。このままでは、プロジェクトが進まないことは明らかだった。

会議は何度も続けられたが、チームは具体的なアイデアに決まらず、新商品開発の進捗が遅れ始めた。矢村部長はますますイライラしていった。

矢村:「このままでは新商品開発の提案期限が間に合わなくなる。加古くん、どうにか決断を下してくれ。」

加古は焦りを感じながらも、決断できずにいた。
加古:「すみません、部長。もう少し考えさせてください…」

町田は佐藤に同情の目で見た。
町田:「佐藤くん、ごめんね。私のアイデアが多すぎたんだ。君の案が一番いいと思うよ。」

佐藤は苦笑いしながら町田に答えた。

佐藤:「いや、別に君のせいじゃないよ。ただ、もう少し早く決めないと、プロジェクトが失敗するかもしれないんだ。」(部長の髪の毛も減る一方だし、流石にヤバいよな)

プロジェクトの失敗

ついに、新商品開発の提案期限が迫ってきた。チームは焦りながらも、加古が決断を下せずにいた。矢村部長は怒りに震えた声でチームに対して厳しい言葉を投げかけた。

矢村部長:「もう時間がない!加古くん、今すぐ決めろ!」

その言葉に耐えかねた加古は、会議室を飛び出してしまった。チームは無言で加古の後ろ姿を見送った。

加古の決断が下されないまま、提案期限が過ぎてしまった。結局、新商品開発プロジェクトは破綻し、佐藤たちの努力も報われない結果となってしまった。


失敗に終わったプロジェクトを受け、チームメンバーは会議室で反省会を開いた。矢村部長は皆の表情を見つめ、声を荒げて言った。
矢村部長:「このプロジェクトの失敗は誰のせいだ?」

皆は黙って頭を下げた。加古は目に涙を浮かべながら謝罪した。
加古:「すみません、私のせいです…。」


プロジェクトの失敗が確定した夜、佐藤は山内玲奈と一緒に居酒屋で飲みながら、自分の気持ちを打ち明けた。
佐藤:「今回の失敗、悔しいよ。せっかくいいアイデアがあったのに…」

玲奈は優しく微笑んで佐藤を励ました。
玲奈:「大丈夫、次こそは成功させようね。私のできることはなんでも言ってね。一緒に頑張るから。」

佐藤はうれしそうに玲奈に頷いた。

数日後、チームは解体された。佐藤は月王の中では閑職のデータ分析部門への異動が決まった。
新しい職場でのチャレンジに胸を膨らませ、佐藤は改めて玲奈に電話をかけた。
佐藤:「玲奈、異動が決まったよ。データ分析部門だって。」
玲奈:「それは良かったね!新しい職場で頑張ってね。」

佐藤はデータ分析部門での仕事をスタートさせ、新しい職場での人間関係や業務に慣れるために努力した。彼はこれまでの失敗を糧にし、未来への決意を新たにしていた。

山内玲奈


佐藤と玲奈は、それぞれの職場で頑張りながらも、お互いに支え合い、恋愛関係を深めていった。
仕事が終わると、二人はよくディナーを共にし、お互いの一日を語り合った。
佐藤:「今日はデータ分析で難しい問題があって、なかなか解決できなかったよ。」
玲奈:「大変だったね。でも、健二くんならきっと解決できるよ。私も今日はプレゼンで緊張したけど、頑張ったよ。」
佐藤:「そうだね。考え抜いて解決するよ。」

次のデート
佐藤:「こないだのデータ分析で難しい問題があったんだ。
学校の例で例えると、100人の生徒がいるクラスで、男子と女子それぞれの平均身長を調べたんだ。
でも、データに何人かの生徒の性別が記入されていなくて、そのままでは正確な平均身長が計算できなかったんだよ。」
玲奈:「なるほど。それは困ったね。」

佐藤:「解決方法はね、まず性別が不明な生徒の数がどれくらいか確認したんだ。
それから、他のデータを見て、性別が分かるような情報がないか探したんだ。
例えば、運動会の記録や部活動の参加者リストなどさ。」

玲奈:「なるほど、そうやって性別が特定できた生徒がいたのね。」

佐藤:「そうなんだ。幸い、ほとんどの性別不明の生徒の性別を特定できたよ。
それで、性別別に平均身長を計算し直して、より正確なデータを得られたんだ。
最後に、性別が特定できなかった数人分については、全体の平均値に近い値を使って、最終的な結果を導き出したんだ。」

玲奈:「すごいね、健二くん。そのおかげで、正確な平均身長が分かったんだね。」

佐藤:「うん、そうだよ。大変だったけど、解決できてよかった。これからも、どんな問題があっても頑張っていけそうだよ。これも玲奈のおかげだよ。」


二人は困難な状況にも負けず、共に成長し、幸せな未来を築くことを目指した。ある日、佐藤は玲奈に自分の気持ちを伝える決意をした。
佐藤:「玲奈、これからもずっと一緒にいたい。どんな困難なことがあっても、お互いを支え合って生きていこう。」

玲奈は目に涙を浮かべながら佐藤に答えた。
玲奈:「私もそう思ってる。これからもずっと一緒に頑張ろうね。健二。」
二人は抱き合い、これからの未来に向けて力強い決意を新たにした。佐藤と玲奈はそれぞれの道で成功をつかみ、お互いを支え合いながら、幸せな人生を歩んでいくことになった。そして、その絆は永遠に続いていくことを誓い合った。

佐藤が婚約指輪をどれにしようかと検討を重ねていた時に、この幸せが急変を迎えました。

山内玲奈の父親である山内大樹が会社で大きなトラブルを起こし、会社から解雇されることになりました。
家族を支えるため、玲奈は以前から磯野商事から打診のあった課長待遇でのニューヨーク勤務を受けることを決意しました。
この決断は玲奈にとって非常につらいものでしたが、家族を守るためには仕方がないと考えました。

ある夜、玲奈は佐藤に海外へ行くことを告げます。
玲奈:「健二くん、私、実はアメリカに行くことになったの。父が会社でトラブルを起こしてしまって、家族を支えるために私が行かないといけないの。磯野商事が課長待遇のオファーをしてくれたので、大きなチャンスなの。」

佐藤は驚きのあまり言葉を失いましたが、やがて冷静になり、玲奈を支える言葉をかけました。
佐藤:「大変だね、でも、玲奈が家族を支えるために頑張る姿は素晴らしいと思う。どんなことがあっても、僕は君を応援しているよ。」

遠距離恋愛は難しいと分かっていた二人は、お互いの幸せを願いながら悲痛な表情で話し合いました。
玲奈:「私たち、遠距離恋愛を続けることが難しいと思うんだ。
だから………お互いの未来に向かって頑張ろう。」

佐藤は涙をこらえながら、玲奈の言葉に同意しました。
佐藤:「分かった、玲奈。でも、君がいつか帰ってくることを信じて、僕もここで頑張るよ。」

二人は、それでもお互いを大切に思い続け、遠く離れた場所でそれぞれの人生に向かって歩んでいくことになりました。
そして、心の中ではいつかまた巡り会えることを願い続けていました。
しかし、その時は訪れませんでした。

再会は思いもよらなかった形で訪れたのです。


初の部下と需要予測

佐藤健二はデータ分析部門で、市場環境の変化に伴う需要予測の課題に取り組んでいました。
彼は、市場の様子が急速に変わる今日の世界で、予測の精度を向上させる方法を見つけなければならなかったのです。山内玲奈との別れの辛さを紛らせるかのように、健二は仕事に没入していきました。

大手メーカー月王が必要とする需要予測における課題は大きく3つありました。
課題1:季節性やイベントによる需要変動の予測
分析手法:時系列分析やARIMAモデルを用いて、過去のデータから周期性やトレンドを抽出し、将来の需要を予測する。また、外部要因(天候、イベントなど)を考慮した回帰モデルを構築し、需要予測の精度を向上させる。

課題2:新製品の需要予測
分析手法:アナロジー法やベースモデル法を用いて、類似製品や市場の歴史データから新製品の需要を予測する。また、機械学習手法(ランダムフォレストや勾配ブースティングなど)を用いて、特徴量(価格、特徴、プロモーションなど)と需要との関係をモデル化し、新製品の需要予測を行う。

課題3:市場環境の変化に伴う需要予測の精度低下
分析手法:リアルタイムな外部データ(SNSやウェブ検索データなど)を取り込み、需要に影響を与える市場環境の変化を捉える。機械学習手法(ディープラーニングや強化学習など)を用いて、市場環境の変化に柔軟に対応する需要予測モデルを構築する。

佐藤健二には初めての部下ができました。
新卒採用2年目の田中義則が、熱心にメモを取りながら、質問も積極的に行う姿を見た佐藤は、田中義則が素直で向上心がある部下だと感じ、彼の成長が楽しみになりました。

ある日、佐藤は部下の田中に説明しながら、新しいアプローチについて話しました。
佐藤:(難しい言葉を極力使わずに教えていかないとな)「ねえ、田中くん、君はインターネットで検索したり、SNSを使ったりしているよね?」

田中:「はい、佐藤さん。毎日インスタグラムをチェックしています。」

佐藤:「それは良い。実は、そういったSNSやウェブ検索データを使って、市場の変化をリアルタイムで把握し、需要予測の精度を上げる方法があるんだ。」

田中義則は興味津々で聞きました。

佐藤:「例えば、ある人気の飲み物が急にSNSで話題になったら、多くの人がそれを試したくなるでしょう。そんな時、私たちはその飲み物の需要が急上昇することを予測しなければならないよね。」

田中:「なるほど、SNSのデータを使うことで、そのような急な変化にも対応できるわけですね。」

佐藤:「そうだ。それに加えて、最先端の技術であるディープラーニングや強化学習などの機械学習手法を使って、市場環境の変化に柔軟に対応できる予測モデルを作るんだ。」(これで機械学習にも興味を持ってくれるだろう)

田中:「すごいですね!それで、需要予測の精度が高まるんですね。」

佐藤:「まさにそうだ。それでは、さっそくこの新しいアプローチを試してみよう。君も一緒にやってみたいか?」

田中は目を輝かせてうなずきました。二人は、市場環境の変化にも対応できる、画期的な需要予測モデルを作るために、一緒に取り組むことにしました。

佐藤と田中は、市場環境の変化に対応する需要予測モデルの開発に励んでいました。彼らは、SNSデータやウェブ検索データを収集し、それらを解析するためのプログラムを作成し始めました。

佐藤:「田中くん、このデータを使って、どのキーワードが最近話題になっているかを見つけ出そう。それから、そのキーワードに関連する商品の需要がどれだけ増えるかを予測する方法を考えよう。」

田中:「了解です、佐藤さん!」

数週間が経ち、彼らの努力のおかげで、新しい需要予測モデルがだんだん形になっていました。しかし、まだ最後の仕上げが必要でした。

佐藤:「田中くん、モデルの性能を評価するために、過去のデータを使ってテストしよう。そして、うまくいったかどうかを確認しよう。」

田中:「分かりました!」

田中義則は、過去のデータを使ってモデルをテストし、予測の精度が向上していることを確認しました。彼らは、自信を持ってこのモデルをマーケティング部門に提案することができました。

提案が承認されると、佐藤と田中のモデルは会社全体で採用されることになりました。
それは、市場環境の変化にクイックかつ柔軟に対応できる需要予測モデルであり、多くの同僚から称賛されました。


異動とやりがい

佐藤はデータ分析部門での経験を活かし、次の異動でリスクマネジメント部門に配属されることになりました。
当初は新たな職種に対する期待と興味が高まり、業務に意欲的に取り組んでいました。

しかし、次第にリスクマネジメント業務の繰り返しに飽きてきた佐藤は、30歳を迎えた自分のキャリアに対する不安を抱え始めました。
さらに、大企業で同じように働き続ける仲間たちの中で、自分の存在意義や成長の目処を見いだせず、佐藤の心は次第に転職へと向かっていきました。

ある日、佐藤はインターン時代の知人から物流の3P企業モンド物流でプロジェクトメンバーとして働くチャンスを紹介されました。物流システムの導入や改善プロジェクトに携わる仕事であり、佐藤は自分のスキルを活かして新たな分野に挑戦できることに興味を持ちました。

慎重に検討した結果、佐藤は現職を辞め、物流の3P企業への転職を決意しました。

↓↓  第四話 ↓↓


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