見出し画像

小説「転職王」第九話 高橋 加奈

目覚め

長い夢から目覚めた佐藤健二は、見慣れないワンルームの部屋で目覚めました。
彼は目をこすりながら、自分がなぜここにいるのか思い出せませんでした。車に轢かれた記憶もウッスラしています。

不安にかられながらも、彼は起き上がりました。
すると、以前と違って体が軽く感じられました。

佐藤は戸惑いながら部屋を見回し、壁に掛かっていた鏡に目が留まりました。

その鏡に映った姿に、彼は驚愕しました。

鏡に映っていたのは、彼が知っている自分の姿ではなく、若い三十代半ばに見える女性でした。彼は何度も鏡を見て自分の姿を確かめましたが、どう見ても女性の姿でした。鏡を通さずに目に入る手指や足を何度見ても女性のそれでした。しかし、どうしてこんなことになったのか、そしてこれからどうすればいいのか、彼には全く分かりませんでした。

彼女はオートロック付きマンションに一人暮らしをしていましたが、部屋は散らかっていました。
几帳面な佐藤健二(?)は手がかりを探しながら気になる部分を片付けました。
手がかりを探そうと部屋の中を探して回った結果、免許証や社員証、健康診断記録などを見つけ、徐々に自分(?)の情報が判明していきました。
高橋加奈 35歳のB型、JMR経営企画室次長であり、狭心症を患っていること等が分かりました。
スマホの交友関係を見ると、仕事人間で友達は少なそうです。

彼女はこれまでの佐藤健二としての経験から、JMR経営企画室のことは知っていました。そこで、まずは出勤して和久田 豊 経営企画室長に話を聞きに行くことに決めました。

しかし、女性の服を着ることやメイクに要領を得なかったため、出社の準備に手間取ってしまいます。慣れない女性の服装に苦労しながらも、加奈(健二)はなんとか出社の準備を整えようと試みましたが、結局時間がかかりすぎて、出社は明日にすることに決めました。

そうこうしているうちに、スマホが鳴りました。
高橋加奈の上司である和久田 豊 経営企画室長です。加奈(健二)は、連絡が遅れたことを謝罪した後に、体調がすぐれず今日は欠勤することを伝えます。
なぜか、和久田室長はすんなりと欠勤を認めてくれました。
加奈(健二):(心臓悪いみたいだし、休みがちなのかも)

加奈(健二)はその日のうちに、自分の新しい身体や生活に慣れるために必要な情報を集め、女性としての生活スキルを習得しようと努力しました。

まず、洋服の選び方やコーディネートについて調べました。彼女はネットで流行のファッションをチェックし、自分に似合う洋服を選ぼうとしましたが、男性時代の感覚が抜けないため、なかなか選ぶことができませんでした。

次に、パンストを履こうとしましたが、不慣れなためうまく履けず、伝線してしまいました。何度も失敗を繰り返しながら、最後の1枚でようやく上手に履く方法を習得しました。
パンストが足りなくなったので、コンビニで急遽買うことにしましたが、女性ものを買うことに動揺が走りました。

化粧も全くの初心者で、どの化粧品をどのように使うのかわからなかったため、インターネットでメイク方法を検索し、チュートリアル動画を参考にしながら化粧を練習しました。
最初は上手くいかないことも多かったですが、徐々にコツを掴んでいきました。
男にはわからない苦労が、女性の美しさを支えていることに関心しました。

また、髪のセットも苦労しました。ロングヘアに慣れていないため、髪の絡まりに困りましたが、ブラッシング方法や髪型のアレンジ方法を学んで、徐々に上達しました。

生理用品の使い方や選び方、健康管理についても学びました。

そんな加奈(健二)は、一日が終わるころには、自分の新しい身体や生活に少し慣れることができました。新しい人生に不安は残るものの、少しずつ女性としての生活スキルを習得し、自分の新しい人生に自信を持ち始めました。

翌朝、加奈(健二)は新たに習得した女性としての生活スキルを活かして、自分を整えました。洋服のコーディネート、化粧、髪型のセットと、佐藤健二とは別人のような美しい姿に変身しました。
彼女は自分の変化に驚きつつも、少し緊張しながら出勤の準備を整えました。

加奈は、佐藤健二の記憶を隠して、高橋加奈として振る舞うことにしました。オフィスに到着し、一日の仕事に取り掛かります。
彼女は経営企画室の業務についてさりげなく理解しようと努力し、周囲の同僚とコミュニケーションを取りながら、新しい環境に慣れていくことに専念しました。

昼休みになり、同僚たちと一緒にランチに行くことになりました。
その時、彼女は佐藤健二の記憶が役立つことに気付きました。
同僚たちとの会話の中で、彼女は自然とビジネス経験や知識を共有し、それが好印象を与えることになりました。
しかし、彼女は佐藤健二であることを明かさず、高橋加奈としての役割を続けました。


JMR 経営企画室次長

加奈(健二)が調査を進める中で、それまで無遅刻無欠勤だった高橋加奈が突然無断欠勤を1日していたことを知りました。
それは、佐藤健二が転生した初日のことでした。この事実に興味を持った加奈(健二)は、さらに調査を進めました。

高橋加奈が通っていたクリニックに通院してみると、医師から加奈が無難なプランを出すと経営陣から評価されず、ドラスティックに変革すると各部署からの批判にさらされる中期経営戦略立案業務に対して、ストレスを強く抱えていたことを聞かされました。

加奈(健二):(和久田室長は高橋加奈がストレスを抱えていたのを知っていたから急な休みをあっさり承認してくれたのか)

帰宅して残薬を見ると、狭心症の薬に加えて、臨時処方された精神安定剤を過量服用していたことがわかりました。加奈は、心停止していた可能性が高かったようでした。

この事実を知った加奈(健二)は、加奈自身が抱えていたストレスや苦悩を理解し始めます。
そして、佐藤健二としての経験を活かし、加奈の立場で仕事に取り組むことで、彼女がかつて直面した問題やストレスを克服しようと決意します。

高橋加奈(中身は佐藤健二)は、経営企画室次長としての立場を利用して、かつての自分である佐藤健二について調べ始めました。
まずは、社内の人事部や役員に近い人物から情報を得ようとしますが、適切なタイミングで話題に出すのは難しく、なかなか情報が得られませんでした。


しかし、ある日、社内報に佐藤健二の訃報が掲載されることを知りました。
記事によると、佐藤はある交差点で子供を助けるために命を落としたということでした。
加奈(健二)はショックを受けると同時に、自分が助けた子供が無事であることに安堵しました。

加奈(健二)は、佐藤健二としての自分の死に対して複雑な感情を抱えつつ、同僚や部下から慰めの言葉を受けながらも、高橋加奈としての自分の立場でどのように対応すべきか悩みました。
しかし、佐藤健二が亡くなったという事実を受け入れ、自分が今は高橋加奈として生きていることを改めて認識し、これから先の人生をどのように過ごすか考えました。

決意

加奈(健二)は、JMRの社長が3年後に交代することを思い出しました。
一社に縛られず転職を繰り返してきた佐藤健二ですが、文字通り一度死んだ気になって高橋加奈として大手小売業グループのトップに立つことを目指すことにしました。

息子の功に再度会えるかはわかりませんが、少しでも尊敬される社会的地位になりたいという気持ちも後押ししていました。
貴子との結婚時にSOSOに転職したのは給与が目的でしたので、健二がスキル獲得ではなく、出世を目的にするのはこれが初めてでした。

中期経営戦略

加奈(健二)は、中期経営計画の立案に苦労しました。
市場調査や社内リソースの分析など、多くの情報を整理し、複数の選択肢を検討していきました。
そして、いくつかのアイデアを組み合わせて、デジタルトランスフォーメーションを推進し、オンライン・オフラインの融合を図ることで、顧客の利便性を向上させることを目指す中期経営計画を立案しました。

この計画を各部署に提示すると、予想外に多くの反対意見が出てきました。
営業部門は、オンライン・オフラインの融合による顧客対応の複雑化を懸念し、開発部門は新技術の導入に伴うコスト面やスケジュール管理の難しさを指摘しました。
また、経理部門はデジタルトランスフォーメーションによる経費増加が懸念されると指摘しました。

加奈(健二)は、これらの反対意見に対して理解を示しながらも、中期経営計画の重要性や実現可能性を説明しようと努力しますが、なかなか納得させることができませんでした。

そんな中、橋口人事部長は高橋加奈が各部門を説得しようと熱意を示す姿を見て、亡くなった元部下の佐藤健二を思い出していました。
橋口人事部長は、加奈の立案内容から、佐藤健二が自身のスキルを生かして立案するとしたらこういうものになると感じ、積極的に協力してくれるようになりました。

かつての上司の協力により、気持ちが楽になった加奈(健二)は各部署を周り、粘り強く話をしました。

営業部長: 「オンラインとオフラインの融合は顧客対応が複雑化するだけだと思います。それに、顧客はどちらか一方のサービスだけを求めているわけではありませんよね。」

加奈(健二): 「確かに、一部の顧客はどちらか一方を好むかもしれませんが、オンラインとオフラインの融合によって、顧客により選択肢を提供できることで、幅広いニーズに対応できると考えています。また、顧客対応の効率化やタイムリーなサポートが可能になります。」

開発部門の課長: 「新技術の導入はコストがかかりますし、スケジュール管理も難しいです。それに、失敗するリスクも高いですよね。」

加奈(健二): 「確かにリスクはありますが、新技術の導入によって競争力を維持・向上させることができます。また、長期的な視点で見ると、新技術による利益や競争力の向上が、導入コストを上回ると考えています。」

経理部門の係長: 「デジタルトランスフォーメーションによる経費増加は避けられないと思います。それに、新たな収益源の創出も確約できません。」

加奈(健二): 「デジタルトランスフォーメーションによる経費増加は一時的なものですが、新たな収益源の創出によって相殺できると考えています。また、企業の成長に伴い、継続的なデジタル化が必要不可欠であることを理解していただければと思います。」

これらの会話を通じて、加奈(健二)は、各部署の反対意見に対して説得し、納得させることに成功しました。
結果的に、中期経営計画は社内の合意を得て、承認されることになりました。

高橋加奈が成し遂げられなかった仕事を、佐藤健二が成し遂げたのです。

↓↓↓  続き ↓↓↓




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?