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ゲームの遺伝子 解析記録 vol.15 It Takes Two

 このページにたどり着いていただき、ありがとうございます!ゲームゲノム「1人じゃ気づけないこと~It Takes Two~」を担当しました、ディレクターの植木翔吾と申します。「おとなへの階段~甲虫王者ムシキング/オシャレ魔女 ラブandベリー~」に続いて、この番組2本目の制作回です。さて、番組をご覧いただいたみなさんは、この“究極の強制2人協力ゲーム”に何を感じましたか?「まだ見てない!」という方は、ぜひ「NHKプラス」の見逃し配信でご覧いただけるとうれしいです。
 
突然ですが、みなさんには《信頼のできるパートナー》はいますか?夫婦や恋人に限らず、親友、兄弟、同僚、どんな人でもいいです。その人とあなた…2人でしかできない大事なことを思い浮かべながら、この記事を読んでいただければと思います。

今回取り上げた『It Takes Two』は、2人協力プレイ専用ゲーム。主人公である夫婦・コーディとメイは、離婚危機にあります。2人の不仲を知った1人娘のローズの涙がきっかけで魔法が起こり、夫婦の魂は人形に乗り移ってしまいます。2人は人間に戻ることを目指して、自称・愛の伝道師Dr.ハキムによっていざなわれる、さまざまな試練に立ち向かう物語です。ステージごとに様変わりする協力ゲームの数々は、アクションゲームとして非常に優れているだけでなく、ストーリーと絶妙にマッチしている点も高く評価され、発売年度の世界的ゲームアワードでも最優秀賞を獲得しました。
 
そんな本作は、お互い信頼し、思い合っていると言える2人でプレイしてほしい作品です。ゲームをクリアするころには、パートナーの見え方が変わったり、大切な人に向けての行動が変わったりと現実の人間関係にも影響を与える作品であると実感しているからです。もっと言えば、より一層良好な関係を築きたい誰かとプレイしてほしいと心から思うゲームなのです。というのも、この「ゲームゲノム」を『It Takes Two』で制作するにあたり、最初に一緒にプレイしてくれたのが、入籍から2年経つ僕の妻です。実際に、一緒にプレイしたことで、私たちのきずなにも実生活にも好影響がありました。こんなゲーム、初めてでしたし、それは本作を制作したディレクターのジョセフ・ファレスの「協力しあうことで2人のプレイヤーにより心を通わせてほしい。最後に感じるのが“愛”であってほしい」という狙い通りでもあったわけです。このnoteでは、この「ゲームゲノム」制作にあたっての裏話を書き連ねていこうと思います。


#ディレクター夫婦の『It Takes Two』プレイ体験記

そもそもこの作品を知ったきっかけは、「ゲームゲノム」の総合演出・平元さんから紹介されたことでした。「植木にぴったりのゲームがある。2人協力プレイ専用のゲームで、主人公である離婚危機の夫婦が魔法で人形になってしまうんだけど、そんな2人が協力して人間に戻ることを目指して旅するアクションゲームなんだよね。奥さんとやってみたら?」———「なぜ“僕にぴったり”なのだろうか…。夫婦円満ですけど?」と思いながらも、ゲームの設定自体には非常にかれるものがあり、妻にプレゼンしてみると意外と乗り気に!じゃあやってみようということで、妻と2人でプレイすることになったのです(まさか、そのゲームを「ゲームゲノム」でひも解くことになるとは…)。

僕自身、ゲーム自体は大好きなものの、社会人になってからというものゲームに触れる時間があまり取れずにいたところでした。子どものころは『クラッシュ・バンディクー』や『ラチェット&クランク』のようなアクションアドベンチャーが好きで、『It Takes Two』も操作性が似ていてすぐに楽しんでプレイできました。一方、妻の好きなゲームは、『どうぶつの森』や『マリオテニス』、今ハマっているのは『スイカゲーム』といった感じでアクションゲームはあまりしてこなかったそう。好きなゲームのジャンルも凸凹な2人の旅路が始まりました。

 ①“ゲームを始める前"から協力必須!

本作は2人協力プレイ専用のゲームです。1人じゃクリアどころかプレイすることすらできません。番組でも少し触れていますが、一緒に遊んでくれる人を見つけて説得しなければ成り立たないのです。それだけではありませんよね。交渉が成立したうえで、時間を合わせて、なんならお互いの気分だってあるし、他にもしたいこと、しなくてはならないタスクはたくさんあります。僕たちは夫婦です。一緒に住んでいるんだから、時間合わせてゲームするなんて簡単じゃない?とお思いの方いますか?そんな一筋縄ではいきません。僕たち夫婦は共働きで、僕の帰宅はだいたい21〜22時。お互いクタクタです。でも…ゲームがやりたい!なので2人で家事を分担したり、肩をもんで一息ついたり…そのうえで疲れが残っていなければゲームができるわけです。 “この助け合いやいたわり合いがもっと当たり前にできる夫婦を目指そう”と、ゲームを起動する前から思わされます。

僕は、夫・コーディを選択。妻はメイを選択してプレイしました。序盤、主人公の夫婦コーディとメイの関係値が最悪のところから始まる物語やキャラクターの自己中心的な考えに、プレイしている僕たちの間にもちょっと気まずい空気が流れたり、あるいは「ブー!ブー!」とブーイングしたりして、口から出るのはネガティブなワードばかりです。その一方で、ここまで如実かつコメディタッチに最低な夫婦が描かれることで、プレイしている僕たちが「コイツら嫌いだ!」と同じ感情を抱くことができました。全く同じ感情を抱くことって冷静に考えるとレアじゃないでしょうか?これは、監督であるジョセフ・ファレスの描き方のうまさだとゲームジャーナリストの徳岡正肇さんも舌を巻いていました。

 ②得手不得手があるから、相手の見え方が変わる

『It Takes Two』は本当にさまざまなゲームが詰め込まれたアドベンチャーゲームです。3Dアクションがあれば、ときに格ゲー、謎解き、俯瞰ふかん視点アクション、横スクロール、レース…森羅万象のゲームがここに詰まっていると言っても過言ではありません。

ゲームを進めていく中で、僕がどうしてもイライラしてしまう場面がありました。それが、二段ジャンプ。足場から足場へ、あるいは高い壁を登るときに使うジャンプです。と言っても、僕がうまく操作できなくてイライラしたのではありません。アクションゲームになじみのない妻がよくつまずくポイントだったのです。ジャンプのコマンドを押して、ほどよくジャンプできたタイミングでもう一度同じコマンドを押すだけなんですが、これがどうも苦手。

「リズムで言うとポーンポンって感じで押せばいいのよ。」
 
と言っても、焦ってポポンって押したり、なぜかジャンプ中に方向キーも押してしまって、あさっての方向の谷底に落ちたり。途中、操作を変わってあげようかとも思いましたが、ゲーム後半でその手助けができないシチュエーションもあるかもしれない。心を鬼にしてジャンプに慣れるのを待ちました。
 
一方、妻の気持ちを聞いてみると…。
 
「このゲーム、とにかく焦るのよ…。」
 
僕を待たせていることの申し訳なさによって焦ってうまく操作できないというのですが、それをさらに助長させていた本作ならではのものがありました。それが分割されたゲーム画面です。

本作は基本的には画面が2分割されて、パートナーが今どこにいてどんな行動をしているのかが丸わかりです。常に見られているというプレッシャーは、“まるで学芸会で1人舞台に上げられて、1人演技をしているような気分になる”のだとか。失敗を人に見られるって結構つらい経験ですよね。このおかげで僕は妻にアドバイスができる一方、そのアドバイスの仕方が少しでも間違うと―――結果は言わずもがなですよね。実際に、「ゲームゲノム」スタッフの中にも姉妹で『It Takes Two』をプレイしたことのある人がいましたが、アドバイスから喧嘩けんかに発展し、最後までクリアできなかったとのこと…。

本作を制作したディレクターのジョセフ・ファレスはこうも語っていました。
 
「本作のテスト段階で、あるカップルにプレイしてもらったんだけど、2人はかなり言い合いになってしまったんだよ。僕たちはよくジョークで言うんだけど、このゲームは2人の関係性をテストするのにちょうどいいねって。」
 
そのカップルの関係がその後どうなったのかはわかりませんが、ゲームって結構本性が出るものですよね。もし、今のパートナーと結婚を考えている方がこの記事を読んでいましたら、一緒にプレイしてみて2人の今後を考える参考にしてみるのも良いかもしれません(いや、逆か?うーーーーーん)。
 
このようにアクションに関しては、圧倒的に僕に分があり、妻はツラいだけの体験になるかと思うとそうではありません。先述のとおり、協力ゲームジャンルがシーンごとに様変わりします。

シューティングゲームのスキルを必要とするチャプターでは、僕がド下手で妻にめちゃくちゃ迷惑をかけました。きっと、“何でこんな簡単なことがこいつはできないんだ”と思っていたに違いありません。さらに、妻のストロングポイントとして謎解きが得意というのもありました。僕の仕事終わりに夜中の0〜3時ぐらいまでゲームするというスタイルで進めていたので、僕はそのころにはクタクタで頭が働きません。すると妻がステージのギミックの攻略方法をパッと思いつくのです。頭脳の面では妻はえています。謎解きができなければアクションがうまくても意味がありません。

僕の視点からすれば“ギミックをサクサク攻略する妻、すげぇ”、一方の妻視点では“アクションをスイスイ進める夫、すげぇ”と互いが互いの良いところに目が行き、“この2人じゃなきゃダメ”と関係が深まるのです。この凸凹な2人だからこそ、この体験・旅ができたのです。

 ③強制役割交換がもたらしたもの

ところで、僕は本作をプレイしている間、どうも妻の方が活躍しているように感じていました。しかし、それはお互い様であることに気づき、絆が深まるような体験をしたシーンがありました。ここからは番組ではご紹介していないシーンですので、もしこれからプレイしたいと思っている方がいましたら、次の#ジョセフ・ファレスが語る「キューティ」の意外な真実まで飛んでいただいてOKです。

本作の後半、Dr.ハキム(「愛の本」の妖精で自称・愛の伝道師)によるセラピーでは「情熱」という課題が出されます。本作の主人公夫婦、コーディとメイにはそれぞれ夢がありました。夫・コーディは庭師になるというもの。妻・メイは歌手になるという夢です。互いの情熱を応援し合うことをDr.ハキムは課してくるのです。誘われたのは「庭」。コーディが夢を放棄し、庭には毒された植物たちでいっぱいになっていて、夫婦2人の道をはばんできます。

このステージのボス・ジョイ(コーディが最初に植えた植物)とのバトルでは、メイにはジョウロが与えられ、敵が吐く毒を浄化する能力が与えられます。一方、コーディは野菜や果実となり転がってアタックすることで植物を倒すことができます。

毒に触れるとダメージを食らうため、メイがしきりに毒を浄化し、コーディの攻撃の道を作ってあげることが肝に。いわば、コーディがゴールを決めるための道づくり、アシストをメイがしているという構図です。バトル中、ジョイだけでなく、雑魚ざこ敵もわんさかいて、とにかく地面は毒でいっぱいになります。メイが雑魚敵に囲まれながら道を作っている姿を見ると、とどめをさしているのはコーディかもしれないけど、クリア貢献度を考えたら妻の方がすごくない?と思い始めて、どうしても妻の方が活躍しているように見えます。僕1人じゃ何もできないんだな。そして、感謝の気持ちが湧いてきました。そのことを伝えると、妻はまったく逆のことを思っていたのです。例えば、ここに至るまでの道のりに現れたボス・女王バチロボットとの対戦では、樹液をつけるのがコーディ、火をつけるのがメイでした。

火をつけるメイ(左)と樹液をつけるコーディ(右)

工具箱との闘いでは、コーディがくぎを刺して道を作り、メイはトンカチで南京錠を壊して攻撃するというものでした。

コーディが作った道を進むメイ(左)

これまでは僕がアシストをして、妻がゴールを決めるというシーンが多かったのですが、ゲーム後半にきて急に役割が逆転したことで、パートナーがどんな苦労をしてきたのか気づくことができたのです。番組で、三浦さん、長井さん、徳岡さんも語ってくださっていましたが、相手の役割を担ってみることで見え方がグッと変わる。実生活でなかなか取り組めていないことだったのですが、本作が強制的にもたらしてくれた体験が、僕たち夫婦も互いに“見えない苦労をしているんだ”という気づきをもたらしてくれました。
 
次第に見える景色も自然と変わってきます。「あそこに並んでいるお皿は妻が洗ったんだな」「明日は僕がゴミ捨てよう」「週末、いいレストラン行こうか⁉」―――何度もプレイ中思わされました。こうして僕たち夫婦は『It Takes Two』をプレイしたことで、“この2人じゃなきゃダメ”な2人になれた気がしています
 
僕たち以外にも夫婦でプレイしたことのあるプレイヤーに話を聞いてみると、結婚から数年経った方いわく「新婚以来よ。ゲームの続きをしたいから夫よ、早く帰ってこい!と思ったのは」だったり「こんなに話したのは何年ぶりだろう…」といった、ゲームを通して夫婦関係が深まるという体験を大なり小なりしていました。一貫して“2人の実生活や関係性にも好影響をもたらす”という点がこの作品のスゴみだと確信しています。

#ジョセフ・ファレスが語る「キューティ」の意外な真実

『It Takes Two』を語るうえで、欠かせないキャラクターといえば(メイもコーディもローズもDr.ハキムもそうですが)、キューティじゃないでしょうか?

見た目もそうですし、動きも声もとってもかわいいキャラクターです!プレイしていたとき、こんなかわいいぬいぐるみを〇すなんて酷い所業だと思いました。「トラウマになる」「罪悪感でいっぱいだ」「ゲーム史に残る胸くそ体験だ」などといった口コミがSNSであふれていましたが、みなさんはどう感じましたか?
 
強烈なシーンが故に、“目を背けられてしまわないか”“ただの残酷なゲームだと勘違いされないか?”など取り上げるにあたりさまざまな懸念がありましたが、ジョセフ・ファレスはしっかり狙いを持って作っていました。一方で、このシーンについて、最初に話を聞いたとき耳を疑うような話から始まったのです。

ジョセフ・ファレス「これだけたくさんの“残酷だ!”といったリアクションがあることに驚きました。」
植木「…(おいおいおいおい。マジか…。全部当然の感想だろ。)」
 
さらに続けて…。
 
ジョセフ・ファレス「テスト段階では、もっとたくさん傷つけて、もっとひどい拷問をしていました。これでもかなりの要素をカットしたのです。それでもかなり残酷なものですが。」
植木「…(これ以上の拷問って何があるんだよ!ジョセフさん、人の心ってものがないんですか???)」
 
と話を聞くのが怖くなりさえしました。しかし、彼がこう語るのには理由がありました。ジョセフ・ファレスはこれまで3本のゲームを制作しています。その中の1つに『A Way Out』という作品があります。刑務所からの大胆不敵な脱走に挑む2人の囚人をそれぞれ操作するというこちらも2人協力プレイ専用タイトルです。三浦さんも2BRO.のみなさんも大好きな作品と語っていました。その『A Way Out』の中にも、プレイヤーが拷問する場面が登場するのです。

ジョセフ・ファレス「『A Way Out』では男性が男性を拷問する場面を作りました。彼を拷問する方法が20以上あったと思います。そのシーンに対しては、あまり反応はありませんでした。でも、キューティについては片足と片耳を失ったぬいぐるみに世界中が反応しているのです。ですからものの見方がどうなるのかというのは面白いですね。」
 
と、同じ拷問でも対象によって感じ方が変わるということをまざまざと感じたといいます。私たちも日頃、見た目にとらわれて中身に目が行かないなんてこともありますよね。そんなことの象徴なのかも?もっと本質を見ないと…とさえ僕は感じました。

そのうえで、番組で語ってくれたキューティのシーンに込められた思いというのは、普遍化すれば2人という関係においてだけでなく、イチ個人として生きていくうえで大切なことが感じられる話だと思っています。(気になる方は、ジョセフ・ファレスがしっかり語ってくれていますので、「NHKプラス」でご覧ください!)

ところで、スタジオセットにもキューティが居たのはお気づきですよね?(どアップで撮っておいて何を言っているんだ)ちなみに、「ゲームゲノム」はスタジオセットにも力を入れていて、『It Takes Two』はゲームに登場する各ステージをイメージして作りました。

この構想は制作当初から考えていたのですが、「キューティは僕たちで作るのもなんか違うし、ゲーム映像をキャプチャして画像を置くのは味気なくて絶対嫌だなぁ…」と思っていました。どうしようかと思いながら、スウェーデンでのロケの際、ジョセフ・ファレス本人に話をしてみたところ…。

ジョセフ・ファレス「あるよ!ほら、これ耳も足も取れるんだぜ!結構人気なんだ。」
 
と、ご機嫌にぬいぐるみを譲っていただき、耳や足を取る演出もご快諾いただきました。繰り返しになりますが、この超絶キュートなぬいぐるみに意地悪をすることが面白いわけではなく、このインパクトの裏にあるメッセージに共鳴し、最大のリスペクトをしています。伝えたいメッセージを考えに考え抜き、そのうえでたくさんの人に見てもらえて、気持ちや行動に変化があるような作品づくりができたらと、ジョセフ・ファレスには程遠いですが考えさせられる場面だったのです。

#みなさんがくれた“1人じゃ気づけないこと”

当然ながら番組づくりは、チームで行うものです。だからこそ、さまざまな角度から見ることができて、 “僕1人じゃ気づけないこと”に気づくことができ、深さが生まれます。今回の制作でも例にれず、たくさんの気づきをいただきました。

副音声では2BRO.のみなさんからも、「これゲームの話?普通に夫婦生活の話してない?」というリアクションをいただきましたが、そういう番組にできてとってもよかったと思っています。ゲームは文化であるとともに『It Takes Two』では、ゲームから受け取った価値観をダイレクトに実生活に落とし込める———それがプレイしている最中に感じられる唯一無二の作品であることを強く伝えることができたと思いますし、ゲームの持つ力に気づかせていただきました。

ゲストの長井短さんからは、“私の右は、彼の奥。自分の世界の言葉でしゃべっているだけじゃダメ”という言葉をいただきました。 思いを伝えるとき“言葉”や“視点”、“立場”に思慮深くなることの大切さに気づかせていただきました。

ゲームジャーナリストの徳岡正肇さんには“「わかります」って簡単に言うな。ほんのちょっとでも相手のことをわかるためには、すごいたくさん努力が必要で、相手に本当にちゃんと向き合って、ほんのちょっとわかる。決して簡単なことじゃない”というご自身のモットーを教えていただきました。僕も日頃「わかります」「わかりました」を連発していたと思います。勘のいい奴、スマートな奴、そんな風に思われたいというプライドなのか、反射的に言葉にしていました。逆の視点で考えればそうですよね、“自分のこと、そんなに簡単にわかってほしくない”。ハッとする気づきでした。

そして、三浦大知さん。“向き合うっていうけど、お互いのタイミングがあってお互いの準備があって初めて向き合うということが成立する”―。この言葉にもグッとくるものがありました。「向き合う」という言葉が先行してしまいがちですが、そのためにお互いに準備するものがある。ときに相手の準備を待つことだって必要。カタチだけの独り善がりな向き合い方では、ダメなんだ。人間関係における基本の“キ”に気づかされたような気持ちになりました。
 
さて…番組を見たり、このnoteを読んできて、《仲良しで喧嘩のない関係性が最高であることをうたっている》ように感じるかもしれません。もちろん、理想はそうです。しかし、人間誰しも———ときに大切な人ほど——―傷つけあってしまうこともあります。いつだって人間関係は変化し、だからこそ理想に近づくための方法もたくさんあるはずです。取材時、ジョセフ・ファレスは、「喧嘩や言い合い」の重要性も語ってくれていました。本作には、ステージを進める中でミニゲームが隠されています。「もぐらたたき」や「スケートレース」、「綱引き」…と全25個のゲームです。ストーリー上は2人の“協力”を求められますが、ミニゲームは一貫して“対決”です。まるで喧嘩を誘発しているようですよね。

ジョセフ・ファレス「僕たちは、みなさんに喧嘩もしてほしくてミニゲームをたくさん仕込みました。実際の人間関係でも言い合いをするのは当たり前で、強い信頼や関係性を築くうえでとても重要だと考えています。どんな風に文句の言い合いをするのか、それを考えてもらうことも狙いの一部なんです。」
 
もし、今喧嘩をしている相手がいるとしたら、それは後々の2人にとって必要な過程なんだ。今この瞬間、わかりあえていない2人でも、うれいすぎることはなく、わかろうとする気持ちを持ってさえいれば、最後に“愛”を感じられるかもしれない。そもそも人間2人が愛を感じること自体が、大変で貴重で奇跡的な体験。そして、その奇跡を享受できる幸せやそんな希望を持っていてもいいんだということに改めて気づかされました。
 
『It Takes Two』を通して「ゲームゲノム」を探求した数か月。作品の解釈にとどまらず、複雑で難しくて逃げることができない1対1、2人という人間関係そのものを考える期間でもありました。そのさなかで出会ったみなさんからいただいた言葉や考え方、どれもが今の僕の人生の指針となっています。『It Takes Two』って深い!ゲームって深い!もし、人間関係が“わからなく”なったら———今回の「ゲームゲノム」、『It Takes Two』を思い出してほしいです。きっと、道が開ける“気づき”の数々が待っています。あなたと、あなたが大事に思う、もう1人を。

ディレクター 植木翔吾

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