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ゲームの遺伝子 解析記録 vol.17 NieR:Automata

番組をご視聴いただいた皆さん、いかがだったでしょうか。ゲームゲノム・シーズン2「罪と罰 ~NieR:Automata~」を担当したディレクターの寺下佳孝と申します。

きっと、この記事を読みに来られた方々の中には、本作が放つ予想外の展開の数々に「おのれヨコオ…」と思われた方もいるかと思います。かくいう私も制作者側ではありますが、皆さんと同じように「おのれヨコオ…」という感情を経て、番組作りに至っております(その詳細については後ほどご説明します)。 

ちなみに、まだ番組を視聴していない方が混乱なきように先んじてご紹介すると、下の写真に写っている頭部を模したマスク、この方こそが本作の生みの親であるゲームクリエイター・ヨコオタロウさんです。

ヨコオタロウさん (本作の企画・脚本・演出を担当)

番組では、このマスクが当たり前のように出演者の席に置かれ、当たり前のようにほかの出演者と深い話を交わしていきます。一応の確認ですが、このマスクがヨコオさんご本人というか、本体です。この時点で、どんな番組か少しでも気になった方は、ネタバレを多く含む本記事を読まれる前に、ぜひ「NHKプラス」で番組をご視聴いただければと思います。

そんないつもの「ゲームゲノム」とは一味違うスタジオパートですが、出演者の掛け合いによって生まれるトークも見どころの一つです。ファンの間ではおなじみでもありますが、クリエイティブ・ディレクターのヨコオタロウさんとシニア・ゲームデザイナーの田浦貴久さんによる“めおと漫才のようなシニカルトーク”をはじめ、収録前にセーブデータを全消去してきたと語る(「なぜ?」と思った方…しつこくて恐縮ですが「NHKプラス」でその真相をお確かめください)声優・石川由依さんの“圧倒的ニーア愛”。そして、そのすべてを受け止めながら優しく話を引き出すMC・三浦大知さんの“底抜けの包容力”など、人柄がにじみ出るトークも必見です。

(左から)石川由依さん、三浦大知さん、ヨコオタロウさん、田浦貴久さん

さて、ここからは本題である取材後記をお届けします。まずは、今回、番組で扱わせていただいた『NieR:Automata』について簡単に説明すると…宇宙からやってきた謎の“機械生命体”に支配された地球を舞台に、人類の最終兵器である“アンドロイド”たちが故郷を取り戻すため戦いに挑むという物語です。ゲームのジャンルとしてはアクションRPGに当たり、プレイヤーはアンドロイド兵士である「2B」を操作し、サポート役の「9S」とともに敵である機械生命体を倒していきます。

2017年に発売されて以降、国内はもちろん海外でも高い評価を受け、権威ある国際ゲームアワードでは「ゲーム・オブ・ザ・イヤー(RPG部門)」を受賞。爽快感あふれるバトルアクションと、美しくも退廃的な世界観、そして重厚な物語によって、世界中から人気を集めています。

本作の主人公である2B(右)と相棒の9S(左)

そんな本作を番組では「罪と罰」というテーマをもとに、ひも解かせていただきました。字面だけでも「重そうなテーマだな」と感じた方もいると思います。人の感じ方はさまざま、なんて言われたりしますが、番組の制作に当たった私から言えることはただ一つ。「重そう」ではなく、「とてつもなく重い」のです。

まず企画を進めるにあたって、そもそも“罪とは何か”ということを考えるところから始まり、それは能動的もしくは受動的な行動によって引き起こされたものなのか、その行為の何が罪に当たり、どのくらい罪深いことなのか、そして、その罪はどれほどの罰を受けるに値するものなのか、などなど…一度考え始めるとどんどん深みにはまっていきます。さらに、立場や視点を変えることで、その罪が逆転することもあり、とにもかくにも複雑で難解なテーマなんです。

しかし、この奥深いテーマをひも解いていくうえで、ある問題が発生します。それは、私自身が物事を深く考える行為を大の苦手としているということです。この苦手意識の根本的な原因としては、一つの物事に対する集中力がないといったことに尽きるかと思います(自分で言うのもなんですが…)。正直なところ、分厚い本をすべて読み切るのも苦手な行為の一つで、番組作りの参考にしようと読み始めたドストエフスキー(長編小説『罪と罰』)さえもいまだ完読できずじまいで、本棚にキレイな状態で収納されています(また読めるときに読みます)。そんな個人的な事情も相まって、自らが掲げた壮大なテーマで自らの首を絞めるといった場面が、実は番組制作期間中に何度も訪れていました。

そこで、この記事では本番組の制作に至るまでの経緯をはじめ、さまざまな出来事に翻弄されながらも大テーマである「罪と罰」に向き合い続けた日々を書きつづっていきたいと思います。なお、読みやすさを重視して、ここからは【ちゃぶ台返し編】【粘りのゲーム画面収録編】【ストイック小道具編】の3編に分けてお送りします。

これは、一人のテレビディレクターが犯した罪としかるべくして受けた罰、そしてあがないの先に見えた“希望”の記録です。 

※以下、『NieR:Automata』のゲーム内ネタバレを含みますのでご注意ください。


【ちゃぶ台返し編 ~熱量を問われるゲーム作品選び~】

まず、本番組のテーマに関連する話をする前に、『NieR:Automata』で番組を作るに至ったいきさつを少し書かせてください。タイトルから察する方もいると思いますが、実は本作で企画を進めていく前に、私は“別のゲーム作品”で企画を考えていました。しかし、それを自ら取り下げ、『NieR:Automata』に急転換するという見事な「ちゃぶ台返し」を決めたのです。

これだけの情報だと大したことではないように思われるかもしれませんが、この行為の何が罪深いかというと、すでに前の企画をプロデューサーとともに1か月かけてブラッシュアップしていたというところです。当時は、限られた制作期間の中でベストを尽くしたいと自分のことでいっぱいいっぱいでしたが、今振り返れば、番組制作を始める前から周りの人を巻き込み、振り回すといった罪を背負っていたのだなとしみじみ思ったりもします(ちゃんと反省はしております)。 

しかしながら、なぜ、企画を急に変えるようなことが起きたのか。すべては、「ゲームゲノム」の総合演出を務める平元慎一郎さんの「寺下くん………これって本当に番組にしたいゲーム?」という打ち合わせでのひと言がきっかけでした。平元さんにそう問われた瞬間、ことばに詰まったことは今でも覚えています。 

実際のところ、まさに指摘されたとおりで、“テーマ性が強く、番組として成り立つ”という思いが先行し、ゲームを選んでいたところがありました(これはあらゆる番組作りでよしとされていない考え方だと思います)。その点を見抜かれたうえで、作品に対する熱量を問われたこともあり、改めて自分の中で考え直したときに「この作品ではない…」と思い、ちゃぶ台返しに至ったのです。そこから心機一転、「自らが熱量を持って“ゲノム”をひも解きたいゲームは何か?」と過去の記憶を探る中で思い出したのが、『NieR:Automata』のプレイ体験でした。

当時使用していた「PlayStation 4」と『NieR:Automata』

さかのぼること6年…(個人的な昔話に少しおつきあいください)。当時、大学院生だった私は社会に出る前に、飽きるほどゲームをしておこうと、時間を見つけてはゲームに没頭する生活をおう歌していました。そんな中、ふらっと立ち寄ったゲームソフト専門店で「キレイな絵のパッケージだな」という何ともふわっとした理由で購入したのが『NieR:Automata』でした。そして、いざ始めてみると…見事にドはまり。クセになる爽快なバトルアクションはもちろんのこと、1周目と2周目で主人公が異なり、それによって物語も変化するといった斬新なゲーム性に、当時は一人で声を出すほど衝撃を受けていました。

1周目の主人公2B(左)と2周目の主人公9S(右)

ちなみに、まだ番組を視聴していない方にゲームシステムを説明すると、本作では1周目の主人公「2B」の物語をクリア後、2周目では1周目の主人公に同行していた相棒「9S」が主人公となり、同じ物語を異なる視点でたどっていくシステムが導入されています。これによって、1周目では“隠されていた真実”が次々と明らかになっていくといった点が本作の肝でもあるんです。

そして、ご多分に漏れず私自身もこの周回システムによって、今までの行為のすべてが“幾重にも積み重なる罪と罰”だったことに気づき、その経験がもととなり本作の大テーマ「罪と罰」にたどり着いたのです。

さらに、衝撃を受けたゲームシステムがもう一つ。それは、何十時間もかけて積み上げてきたセーブデータを最後の最後に全消去するというクレイジーなシステムです(最大限の賛辞の意味で)。詳細は番組でも扱っているので割愛しますが、プレイヤーは複数あるエンディングの中の一つで、“全国のプレイヤーたち(見ず知らずの誰か)のゲームのクリアを手助けする代わりに自らのセーブデータをすべて消去できるか?”という選択に迫られます。

「はい」を選んでいくと自分のセーブデータが全消去されるという驚がくのシステム

もちろん手助けを行わない選択肢も存在し、そのルートに進めばセーブデータを消すことなく、ゲームクリアにたどり着くこともできますが、当時の私は「セーブデータが消えるゲームなんて聞いたことがない」、「どうせゲームの物語上だけの話だろう」と正直なめてかかっていました。そんなわけで特段迷うこともなく手助けをする方を選択していくことに。すると…。

まだ残っているゲームのセーブデータ
すべてが消えた瞬間

「本当に全部消えた…」

そうつぶやき、しばらく放心状態に。そして、記事の冒頭でも述べた「おのれヨコオ…」という感情へとたどり着いていくわけです。

何気なく娯楽の一環として遊んでいたゲームによって、罪の意識を感じたり、罰を受けたりすることで自身の考えを見つめ直し、あまつさえ最後にはとんでもない終わり方で感情をぐちゃぐちゃにもされる…。こんなにも心揺さぶられたプレイ体験は、長いゲーム人生の中でも本作しかないと思い、『NieR:Automata』の企画を進めることになりました。

【粘りのゲーム画面収録編 ~最後は気合いと根性~】

堅苦しい身の上話が続いたので、ここからはもう少し番組制作寄りのマニアックな話にシフトチェンジしていきます。

まず番組を制作していく流れを説明すると、最初の工程としてゲーム画面の収録があり、その映像をもとにVTRを作っていきます。そして、完成したVTRを出演者の皆さんに見ていただいたうえで、テーマについて話し合っていくといった収録スタイルになっています。つまり、話のタネとも言えるVTRはスタジオが盛り上がるか否かに直結する非常に重要な要素となっているのです。

こうした理由からどの回もスタジオ収録の時点で、いかにして自らが掲げている番組テーマを分かりやすく、そして、おもしろく伝えられるかということを考えて、ゲーム画面の収録を行っています。それは私も同様で、「罪と罰」というテーマを出演者の方々はもちろんのこと、視聴者の皆さんにもきちんと届くように、何度もゲーム画面の収録を行いました。それはもう粘りに粘り、気合いと根性で生み出したシーンは数知れず…。そこで、ここからは特にゲーム画面の収録に苦労した2つの場面をご紹介したいと思います。

①爽快感あふれるバトルアクションの演出について

本番組のテーマである「罪と罰」を感じてもらうために大事にしていたのが“バトルアクションの爽快感”です。すべての真実を知ったあとに芽生える“後ろめたさ”を際立たせるために、とにかく敵を気持ちよく倒していく場面をVTR内にたくさん入れ込んでいました。

その中でも、特にゲーム画面の収録で苦労したのが、敵を爆発させて倒すカットです。具体的には、1周目の主人公である2B(アンドロイド)が連続で繰り出す攻撃の最後の一撃で敵を吹き飛ばし、その敵が空中で爆発してこっぱみじんになるといったものになります。番組上ではなんてことのない1カットとして登場しますが、実は100回以上、同じ敵(機械生命体)に挑み続けてようやく成功したカットでもあるんです。

100回以上戦った敵(機械生命体)
連続技の最後の一撃で敵を吹き飛ばす
そして、HPゲージが0となった敵が空中で爆破する

そもそもなぜ、100回以上戦わないとこの場面が収録できなかったのか。それは、以下の4つの要素をすべて満たす場面を作り出すのに時間がかかったからです。

1. 複数ある連続技(コンボ)の中から見栄えのいい技を選定するのに苦しむ

2. 最後の一撃で敵キャラクターを倒すためのHPゲージの微調整に苦しむ

3. 最後の一撃で敵が吹き飛んだり、吹き飛ばなかったりするランダム性に苦しむ

4. 吹き飛んだとしても空中で爆発せずに地面に落ちてから爆発するランダム性に苦しむ

このゲーム画面の収録に関しては、成功の兆しが全く見えなかったこともあり、正直何度も諦めようと思う瞬間がありました。しかし、こういった小さな積み重ねが「罪と罰」を伝えるうえでの重みにつながっていくと信じ、何度も挑戦を続けることで、なんとか成功を引き寄せることができたのです。ただ、最後まで敵がどういう条件で吹き飛び、空中で爆発するかは解明できませんでした。

②カメラアングルとカメラ距離による表現方法について

バトルアクションの演出に次いで、苦労したのが“カメラアングル”と“カメラ距離”の微調整です。もともと本作はプレイヤーが操作するキャラクター(主人公)を追う三人称視点を基本としており、あらゆる角度からキャラクターを見ることができるのに加え、設定によってカメラ距離の変更も可能となっています。そのため、ゲーム画面の収録では、キャラクターとカメラの距離感を調整し、それらをさまざまなアングルで収録するといったことを行っていました。

このカメラ位置をどこにするかという選択肢の広さが番組を制作するうえではうれしくもあり、「これでいいのかな?もっといい映像にできないかな?」と迷いを生み出す要因になることも…。

具体的にイメージがしやすいように一例を挙げると、下の写真のように、退廃的な世界を巡っていく主人公たちを表現したい場合、カメラアングルを操作して主人公たちが歩く様子を入れつつ、カメラ距離を遠く(引きの映像)に設定することで背景の水没した建物群も見せることができます(細かいことを言うと歩くスピードなども考慮します)。こういったカット一つをとっても、カメラの調整を何度も重ね、繰り返し収録を行っているので、実は結構な時間がかかっていたりします。

世界観と登場人物を紹介するためにカメラアングルは水平、カメラ距離は遠くに設定

中でも、特にこだわったのが、カメラによる感情表現の演出です。例えば、敵キャラクターでいうと、美への執着にとりつかれていた機械生命体“ボーヴォワール”との戦闘は、なるべくあおり気味のカメラアングルで、カメラ距離は近くに設定。そうすることでボーヴォワールの狂気感や不気味さがより際立ち、相手は倒すべき憎き敵である、という認識を視聴者の皆さんにも持っていただけるように意識して収録を行いました(それが後に“罪”へとつながります)。

機械生命体“ボーヴォワール”
戦闘中、カメラアングルはあおり気味、カメラ距離はなるべく近くに設定  

さらに、敵であるボーヴォワールがなぜ暴走するのか、その真実が明らかになる場面では、何も知らずに敵を倒してしまった後ろめたさを強調するため、真相を語る主人公の顔をアップめに設定。キャラクターデザイン上、顔はほとんど見えませんが、それでもあえて顔にフォーカスすることで、主人公やプレイヤーが醸し出す後ろめたさを前面に打ち出し、その様子から視聴者の皆さんにも“罪”について個々で考えてもらえるように意識しました(細かいニュアンスが伝わっているかは分からないですが…)。ボーヴォワールと主人公の感情表現を重視したこの2カットは、何度も撮り直しを行った末に収録することができた“自分的神カット”でもあります。

主人公やプレイヤーの後ろめたさを表現するためにカメラアングルは正面
カメラ距離は顔が画面の中心になるように設定

ここまで説明してきた爽快感あふれるバトルアクションの演出、そして、カメラアングル・カメラ距離による感情表現は、実のところほんの一部でしかありません。ほかにもさまざまな狙いを持ってゲーム画面の収録を行っていたわけですが、私自身としては「なんとかして壮大なテーマの片りんくらいはつかんでやりたい…!」という気持ちを第一に番組制作に当たっていました。

【ストイック小道具編 ~命が吹き込まれる その瞬間~】

最後にご紹介するのは、スタジオ内の小道具についてです。基本的には、各回共通で決まりのスタジオセット(ゲームゲノム仕様)というものがありますが、出演者の後ろに設置されている棚の中身に関しては、ディレクター自身が考えて用意しています。

本番組では、ゲームの販売元のメーカーさんからお借りした作品の関連グッズをはじめ、各ステージのコンセプトアートや通称・イクラ弾(敵が放つ球状の弾)の色合いに寄せた棒状のライトなど、ゲームの世界観を表現するような物を各棚に配置しました。

出演者の背後に設置された棚飾りでゲームの世界観を表現
総合演出・平元さんからは「もっとヤバくしてください」と言われ続けました

しかし、すべての物がレンタル品や購入品でまかなえるわけではありません。番組のテーマを際立たせるためには、自らの手で小道具を製作しなければならないときもあります。本番組においては、“アンドロイドを模した人形”がその一つでした。

(棚の左側)糸で棚前につり下げられたアンドロイドを模した人形たち
デッサン用の木製人形をもとに製作   

アンドロイド人形を製作しようと考えたのはスタジオ収録のちょうど1週間前。当時、「罪と罰」をより強調するためには何を棚に飾るのが効果的なのだろうと頭を悩ませていました。そんなときに思いついたのが、ボーヴォワール戦を棚一つ分使って再現するということでした。ただ、すべてを再現するとなると時間も労力もかかるうえに、結局何を伝えたいかも分かりにくくなってしまうため、テーマに関連することだけを抽出することに。そうして製作することになったのが、ボーヴォワールが身にまとう仲間のアンドロイドたちです。

しかばねとなったアンドロイドたちを装飾品のように身にまとっている

このしかばねとなったアンドロイドの人形を棚に飾ることで、主人公たちアンドロイドが犯してきた罪やそれに対する罰を表現できるのに加え、視聴者の皆さんが現在ひいては未来の「罪と罰」についても考えるきっかけになるのではないかと思い、製作しました。

そして、もうひとつ、自らの手で生み出した小道具があります。それは、歯車を重ね合わせて作った「ゲームゲノム」の文字板です。最後のスタジオパートで『今回のゲームゲノムは-』という文字テロップの一部として登場します。

この歯車を使った文字板の演出は、総合演出の平元さんのアイデアから生まれたもので、アンドロイドと機械生命体の世界を包括するような小道具となるよう、ほかの業務の合間を縫いながら数日かけて製作しました。

アクリル(合成樹脂)板に歯車を接着させて製作した文字板

「この小道具に数日?」と思われた方もいるかもしれませんが、美的センス皆無な私からすると、これが結構大変な作業で…。もともと色・形・大きさが異なる無数の歯車を何重にも積み重ねて文字を形成しているのですが、その過程で配置や色合いはおかしくないか、文字として読みやすいか、など全体のバランスを逐一確認していく必要があり、その正解のない作業によって考え込む時間も正直結構ありました。そんなふうに一人行き詰まって作業が止まることも多かったのですが、その様子を見かねた平元さんが「ここはこうしたらいいかもよ」と適宜アドバイスをくれたり、ほかの回の先輩ディレクターやプロデューサーも時々声をかけてくれたりなど、完成に至るまでの思い出込みで、私個人としては思い入れ深い小道具の一つでもあるんです。

『パワプロ』回の小道具である“ゲノ高野球部”のユニフォームを身にまとい
監督のように見守る総合演出の平元慎一郎さん

ちなみに、平元さんも英字版の「ゲームゲノム」板を製作しています。スタジオ内の棚の一角に飾ってありますので、ぜひ探してみてください。

「GAME - GENOME」の文字板 作:平元慎一郎

以上、3編にわたってお届けした取材後記を最後までお読みいただきありがとうございます。

今回、「罪と罰」というテーマをもとに本作を深掘りしていきましたが、今振り返っても本当に奥深く、つかみどころのないテーマだったなと思います。壮大でありながらも、日常に潜んでいるような普遍性もあり、それによって私自身迷走に迷走を重ね、結果として多方面にさまざまな迷惑をかけることにも…。ただ、そういった実体験を通して、そもそも生きているかぎり、知らず知らずのうちに誰かに対して罪を犯すことは逃れられないことで、それに対する罰も受けて然るべきなのではないか、と思うようにもなりました。そして、その罪や罰を自覚したときに、どう受け止めて、どう行動するのか、そういった選択の果てに物事の本質が宿っているのかなと放送を終えた今では思います。これは制作者である私個人の一つの考え方ではありますが、本番組を視聴した、もしくはこれから視聴する皆さんが、少しでも日常生活と結びつけて考えるきっかけとなればうれしいです。

改めて、本作を扱うにあたって全面協力してくださったスクウェア・エニックスの皆様、プラチナゲームズの皆様、ならびにスタジオ出演を快諾してくださったヨコオタロウさん、田浦貴久さん、石川由依さんに、この場を借りて御礼申し上げます。
シーズン2も残り数回の放送となりましたが、引き続きお楽しみいただければ幸いです。
第7回「罪と罰 ~NieR:Automata~」は2024年2月29日(木)23:28まで「NHKプラス」で見逃し配信を行っております。

ディレクター 寺下 佳孝

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