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『花椒の味』の話

『花椒の味』という映画を観た。

父親の死をきっかけに、実は自分が3姉妹だということを知り、葬儀で初めて顔を合わせた3人が父親の火鍋店を引き継ぐのだけれど…という話だ。

長女は父親の暮らす香港、次女は台湾、三女は中国の重慶で暮らしている。そして、それぞれが家族の問題を抱えている。

考え方も父親との関係性もまったく違う3人がお互いに支え合いながらも、自らの問題は自分でしっかり向き合い解決していく姿に感動と勇気をもらう。

父親の近くにいたのは長女だけど、ほかの2人に比べて心の距離は一番遠い。でも本当は、次女には母親との、三女には祖母とのすれ違いがある。

近くにいるからこそ素直になれないし、キツく当たってしまう。いつもそこにいて当然だから、つい油断して言わなくていいことまで言ってしまう。お互いに本心が分からなくても、そばにいるからそのことすら見てみぬフリをしてしまう。

だけど、伝えられなかった言葉は時間が経ったからといって心の中から消えてなくなるわけじゃない。伝えるべき相手がこの世を去ってしまえば、それは後悔へと姿を変える。

長女が父親への気持ちを整理する間に、次女は母親との、三女は祖母とのわだかまりを解かしていく。そして、最後には長女も父親への気持ちを言葉にすることができる。

言葉にしないと伝わらないのは分かっているのに、実際にはそれができない。気持ちを素直に表現できる人を見れば羨ましいと思うのに、自分にはそれが難しい。

だから自分の気持ちをごまかすけれど、ごまかし続けると、自分にすら自分の本心が見えなくなる。

見えなくなった気持ちをもう一度見つけるのは難しい。だけど、長女には次女と三女がいて、不器用な言葉をちゃんと受け止めてくれる。元カレや恋人未満な男友達は長女の気持ちに寄り添い、前に進むための言葉をくれる。

物語の端々に散りばめられた言葉がすごく素敵で、涙とともに清々しい気持ちになる映画だ。

どこかのシーンで、元カレが「愛してないは、愛してるの意味だ」と冗談めかして言うけれど、人の気持ちは案外そのくらい曖昧で分かりにくいものなのかもしれない。言葉の裏に本心が眠っていることだってあるだろう。だけど、それを読み取るのは容易ではないし、ましてや読み取ってもらおうなんて期待するのは虫が良すぎる。

だからこそ、素直な言葉を表現できる自分でいたい。自分の気持ちに正直でいたいし、大事な人には優しい言葉で自分の気持ちを伝えたい。

大切な人と向き合い、気持ちに折り合いをつけて、未来に進む3姉妹の姿がたくましくて美しい。3人の背中を追いかけて、自分も前に進もうと思える。

花椒の味が運んできた、人生の辛味と家族の愛情が心を温めてくれる、優しい映画だ。




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