大島紬糸目付計算書

大島紬における糸目付け計算書の理論づけ根拠
 
 大島紬を製造するにあたり、その筬(おさ)密度の違いによる糸目付けの計算方法は確立されていません。ここに糸目付け計算式とそれらを使ったグラフを提示します。
 現在作られている大島紬の種類は13算(よみ)15.5算の二種類が大半を占めており、少数ですが18算の大島紬も作られています。かつて芭蕉布が作られていましたがその筬密度は概ね8算で織られていました。
 大島紬は染色法により泥染め大島紬色大島紬(白大島紬)に大別されます、泥染めはその染色法により糸の増量が起こります、その増量分を予め読み取り糸目付けを細くしておく必要があります。
 大島紬の糸の表示単位は匁(もんめ)が主に使われていますが、計算の都合上メートル法により計算し、その補足として匁を使います。
 
1 大島紬の製造法
大島紬は筬密度によりその糸の太さ(繊度、糸目付け)が決まります、その単位として算(よみ)が使われます。
  * 1算数=40羽――――――――― 全国共通単位
  * 鯨尺(くじらじゃく)――――― 着物に使用する物差し
    鯨尺1尺=曲尺1尺2寸5分(37.9cm)となります
 
 例題 15.5算の1羽の大きさ(長さ)を出します
    15.5算×40羽=620羽 ――――――――――鯨尺1尺5分間の羽数
    1.05尺×38cm=39.9cm≒40cm―――――――布幅の長さ
    620羽÷40cm=15.5羽/cm――――――――1センチ間の筬羽15.5羽
    10mm÷15.5羽=0.645mm/羽――――――― 1羽の大きさ
 
   この例題の式を使い他の筬密度の1羽の大きさを出していきます
   図表 1に筬密度と1羽の大きさを表示します
   
糸目付けの計算方法はこの筬密度を基準として計算します。
 大島紬は13算、15.5算が主に作られていますが、新規な大島紬を作る際の
 参考として8算から20算まで0.5算毎に糸目付け、繊度(デニール)等を出し
 ます。
  
 糸の繊度(デニール)とは
すべての単繊維および連続繊維糸(フィラメント糸)の太さを表す単位、
恒長式番手法(長さを標準にとった糸の太さを表す方法)
標準長450mで単位重量0.05gのときの太さが1デニールである、またその長さと重さを20倍にした9000mで1gの太さが1デニールである。
デニールの略号はdによって表示される。
繭からとった絹繊維の太さは2.5d~3d、ナイロンストッキングの繊維の太さは15~20dが多く、婦人服地の織り糸は50~120dの太さのフィラメント糸が用いられる。――――文化出版局 服飾辞典より
 
  定数 0.277について
上記のデニールの説明より下記の計算式が導き出されます。
例題
    15.5算の糸目付け53.3gの場合のデニールの出し方
    1綛は2500mでありその重さは53.3gとなっています
    1デニール9000mで1gとなります、これらを元に計算すると
    2500m÷9000m=0.277―――定数
    53.32g÷0.277=192.49d(デニール)
   * 恒長式の糸の太さ計算式
    繊度(デニール)=標準長÷単位重量×糸の重さ÷糸の長さ

 
3 定数62とは
これまでの経験則から作られてきた大島紬の糸目付けの絹糸を基準に割り出した数値です。
   例題
    15.5算の場合の糸目付けは40gを使用しています。
    1羽の長さを計算すると10mm÷15.5算=0.645mmとなりますその時
               の糸太さは40gです。
    40g÷0.645mm=62.015となりこれを定数とした。
 
4 精錬前絹糸1.333とは
  生糸を精練して絹糸とする、その際セリシンが25%、フィビロインが
    75%含まれそのセリシンを除去すると精錬率が75%となります。
  なお泥染めに使用する場合は染色工程で石灰処理を行うため、セリシン
    がさらに除去される結果となり糸のケバ立ちの原因となり大島紬の品質に
    重大な影響を及ぼします。
  それらを踏まえ泥染め用の糸は精練率を77~78%前後に抑えて精錬する
    必要があります。
   精錬率75~78%となり、その逆数が1.33と1.28となります。
  100÷78=1.28
    100÷75=1.3333となりこれを定数とした。
  例題
   15.5算の糸目付けは40gです但しこれは精錬済みの絹糸です、
   40g×1.33=53.32gとなります。この糸使いは泥染めを前提としていな    
   い、色大島紬(白大島紬)を作る際の糸目付けです。
    泥染めはその染色工程の関係上絹糸が増量します。 
   絣糸(蚊絣)は20パーセント、地糸は22から24パーセントの増量がみ 
  られます、従ってその増量分を見越して糸の選定をしなければなりませ
  ん。
  大島紬は糸目付けのあらわしかたは匁(もんめ)で表記します。
    * 1匁は約3.75グラムです。
  たとえば10.5匁は約40グラムです従って10.5匁の糸として取引されてい
  ます。
  糸の目付け表示は奄美産地と鹿児島産地では異なり、奄美産地は精錬後
  の目付けで表示し、鹿児島産地は精錬前の目付けで表示されます。
 
 5 大島紬と筬密度について
大島紬は13算と15.5算の二種類が主に作られています。この算数は経糸だけの筬密度を表し、緯糸の筬密度は表していません。13算の大島紬は経糸、緯糸共に13算の筬密度で絣締めされ製織されています。
15.5算の大島紬の経絣締めは14算であり、緯絣締めは15.5算で絣締めされています。
かつては経糸、緯糸も同じ15.5算で絣締めされ作られていました。
昭和30年代の日本の高度成長時代の影響を受け大島紬も好景気となり生産量がうなぎ登りとなり、能率重視の傾向から経絣締めを14算で行う織元が増え業界全体へと伝播していったことが原因だと考えられます。
 この傾向は最近になっても起こっています、それは大島紬の絣は一元(2本)で織ることを前提として設計されています、その一元の絣を片す(1本)の絣として大島紬を作る機屋が現れると、他の機屋もそれに追随する様になってきました。織工としても織りの能率が上がり経絣糸の絣合わせの作業が容易になり歓迎されたのです。
 新商品を開発するにあたり筬密度の決定および「絣糸と地糸の配列」を選定することにより大島紬が作られます。
経絣締め、緯絣締めの筬密度を色々と組み合わせることにより独自の大島紬が作られます。ぜひ工夫してください
6 泥染め用糸の精練について 
 生糸の成分にはセリシンが25%フィブロインガ75%と含まれており精練によりセリシンを除去します、従って絹糸は精練後の重量が生糸の75%の重さとなります。しかし泥染に使用する場合、その染色過程において石灰を使用するため、セリシンがさらに除去される結果となり糸のケバ立ちが目立ち大島紬の品質に重大な影響を及ぼします。
 それらのことを踏まえ泥染め用の糸は精練に注意を要し、精練を78%前後に留めておくことが肝要かと思います。    


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