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#062 指導のしない!?生徒指導

 問題行動に対してどのような指導を心がけているだろうか。問題行動といっても、廊下を走る、教室で追いかけっこをするといったものから、重大ないじめにつながる事案まで、さまざまなものがあるため、「〇〇に気をつけている。」と言い切るのは難しいかもしれない。
 しかし、私は「指導しない『!?』生徒指導」を行うように心がけている。『!?』が付いている理由は、生徒指導と言っている時点で、「指導」はしているからだ。ただ、教師→子供へのティーチング的な関わりではなく、子供に寄り添って子供の内在にあるものを引き出しながら行うコーチング的な関わりを意識している。

指導ではなく、支援〜生徒指導提要より〜

 生徒指導提要(R4年12月改訂)「生徒指導の重層的支援構造」から分かるように、生徒指導の土台となる部分は「発達支援的生徒指導」である。

生徒指導の重層的支援構造

「発達支持的生徒指導」は、下記のように記されている。

あくまで児童生徒が自発的・主体的に自らを発達させていくことが尊重され、その発達の過程を学校や教職員がいかに支えていくという視点に立っています。

生徒指導提要 p.20

 ここからもわかるように、学校や教師の役割は「指導する」ではなく「支援する」ことである。そのため、「〇〇はしてはいけない。」「〇〇するべきだ。」と指導するのではなく、子供たちが「〇〇はよくない。」「〇〇しよう。」と自発的な気付きを持つような支援が大切である。
 ただ、自発的な気付きを促す指導と言っても、本人が悪いと「気付いている」場合と「気付いていない」場合では対応が変わってくる。そのため、悪いと「気付いている」場合と「気付いていない」場合の2つに分けて指導の手順を説明する。

〜本人が悪いと気付いている場合〜

 廊下を走る、授業中の私語などの問題行動は子供自身が「いけないと気付いている」とケースが多い。それでも思わず走ってしまったり楽しくなって私語をしてしまったりする。特に、発達段階が幼い子供もに見られやすい問題行動と言える。まさに「発達支持的生徒指導」が必要な場面である。
 分かっているにも関わらず行動できないからこそ、頭ごなしの指導ではなく、本人の気付きを基に、自発的な行動変容が促せるように心がけたい。

①自分で気付かせる。
 気付くチャンスを演出するため、敢えて黙って、ゆっくり見つめ、そばに行く。そのまま、しばらく待って「どうした?」と聞く。
 →多くの場合は、ここで自分の非について話し出す。

②自分で改善の術を選択させる。
「そうなんだ。それで?」と聞く。
 →良くない。改善したい。という主旨の話をする。

③自分で行動変容させる。
「そうなんだ。自分で気付いたのがすごいね。あなたの心で考えたことは正しい。それに気付いたあなたは素晴らしい。そんな素晴らしいあなたが考えたように行動できるともっといいね。頑張れ!」と人格を認め、行動変容に向けて励ます。

⑤自ら行動変容できたことを価値づける。
 しばらく、その子を見取り、行動変容が見られた際には、「すごいじゃん。自分で気付き、行動を変えることができるなんて。」といって言語化して価値付ける。

〜本人が悪いと気付いていない場合〜

 いじめや人間関係の場合、自分自身の行動の何がいけないのか分からずにトラブルに発展している場合が多い。そのため、何がいけなかったのかに気付かせる必要がある。ここでも子供の自発的な気付きを促すことを忘れてはいけない。このような場合、特にカウンセリングマインド(「受容」「傾聴」「共感」)を意識して行う。
 順を追って話を整理していくと自発的な気付きが生まれる。気付きが生まれれば、後は前述した指導「〜本人が悪いと気付いている場合〜」と基本は同じである。

①話の入りは、特に神経を使って行う。
 まずは、受容し傾聴したい。いきなり「あなたが〇〇だ(悪い)。」と問いてしまうと子供は心を閉ざしてしまう。そのため、以下のようにLv,1から順に聞くようにする。

 Lv.1「最近どう?」
 Lv.2「〇〇さんの様子が気になるのだけど、知っていることある?」
 Lv.3「〇〇さんと何かあった?」
 Lv.4「〇〇さんが、あなたに何かされたと言っているんだけど、わかる?」
→何かしら、自分の行ったことを言う。まだ「悪いことをした」認識はない(薄い)。

 気付いていないと言っても気付いていない「ふり」をして、心の中で「ひどいことをしたかも?」と気になっている場合もある。そう言った場合は、Lv.1のような声掛けでも自ら話し出す。一方、本当に自分の非に気付いていない場合はLv.4ぐらいの質問をし、場面を明確にして聴く必要がある。ただ、どちらも自らが行った行動を振り返らせることが重要になるため、教師から「〇〇していたよね?」というような聞き方は避けるようにしたい。

②受容し、理由を傾聴する。
 雰囲気を大事にしたい。問いただされる様に聞いてしまうと子供は話をしたくなくなる。ここでは、あなたの話を聴きたいという思いが伝わるような雰囲気を大切にしたい。
 その点を注意して、「そうか。分かったよ。そのようなことをした理由を教えてくれる?」と問い、傾聴に徹する。

③共感に徹する。
 すぐに指導したくなるが、まずは共感する。ここで気を付けたいのは、同情してないことだ。同情とは、自分も同じ気持ちになっているということになる。「〇〇さんに腹を立てたので、叩いた。」という発言に同情してしまうと「先生でも叩くよ。」と捉えられかねない。あくまで「叩きたくなるぐらい、腹が立ってしまったのだね。」とオウム返し(心理学でいうページング)しながら、「そうなんだ。」「それは嫌だったね。」と切り返す程度で行う。

④一通り話を聞き、共感することができたら、気付きを促す。
 いきなり「あなたの行為の何がいけなかった?」と聞いてしまったら、これまでの努力が水の泡となってしまう。どからと言って、「どう思う?」とだけ聞いて気付きを促そうとしても気付きが生まれない。そこで、ポイントになるのが、一連の流れの事実を一つずつ切り離して質問することだ。
 友達に「嫌なことを言われたから叩いてしまった。」という問題があったとしよう。この場合、「嫌なことを言われた。」と「叩いてしまった。」という事実をしっかりと切り分け、「嫌なことを言われた。」ことに対する気持ちに共感し、「叩いてしまった。」事実に対して「どう思うか?」考えさせる。切り離しても「だって、嫌なことを言われたから、、」という子供もいるが、ここは毅然とした態度で「叩いてしまった。」ことに対して「どう思うか?」を問い続ければよい。多くの場合、このように切り離すと「叩いた」事実に対しては、いけないと振り返ることができる。
 いけないと振り返ることができなかった場合、ここで初めて教師として「叩くことは、いけないことである。」と指導を入れ、教え導く。ここでのやり取りや指導を十分に機能させるためにも①〜③が重要になる。

⑤気付きに対する考えを持たせる。
 事実を切り離し、いけないことであると気付くことができたらここからは、自己の気付きを基に行動を考えることができるように支援すればよい。「自分の何が良くなかったかを自分で気付けたね。素晴らしい。では、どうすべきだった?」「してしまったことに対して、どうしたい?」と問うと「言葉で、思いを伝えればよかった。」「謝りたい。」など行動レベルで何をすべきか子供が答えてくれる。

⑥その考えに沿って、行動させる。
 自ら考え、選択できたことを称揚しつつ、その行動を行わせる。

⑦価値づける
 自ら考え、選択した行動を実行に移せたことをさらに称揚し、価値づける。

まとめ

 生徒指導提要に記されている「発達支持的生徒指導」の観点から軽微な生徒指導問題について、どのように子供達の自発的な気付きを基にした成長を促していくかをまとめてみた。問題が発生している時点で「課題予防的生徒指導」に関わる部分であるという見方もできるが、学校生活におけるこのような軽微な問題は日々起きるもので、「生徒指導の重層的支援構造」の土台となる「発達支持的生徒指導」に関わるものだと考えている。
 日々発生する問題をマイナスとして捉えるのではなく、土台となる「発達支持的生徒指導」が行える絶好の機会だと考えて積極的に取り組んでいきたい。

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