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友と呼ばれた冬~第13話

 もし故意にSDカードの記録が消されていたのなら、大野の失踪時の記録を消したかった以外の理由は無いように思えた。

「走行記録は残っていましたか?」
「そっちはあった。簡単に書き換えられるものでもないからな」

 確かに、走行記録を消すとなるとSDカードの抜き差しのようにはいかない。

「実はな、大野の走行記録を見てみたんだがどうもおかしいんだ」

 梅島の声のトーンが落ちた。

「大野は芝浦ふ頭に行く前に横浜に行っているんだが新宿から迎車で移動しているんだ」

 無線室から予約が入ったり、自分のお抱えの客を迎えに行くときメーターを迎車にして向かう。ただ、俺たちの区域は23区と武蔵野市、三鷹市以外で営業してはならないことが法律で定められている。
 乗車場所と降車場所のいずれかがそのエリア内であれば問題ない。例えば横浜に迎えに行って港区の芝浦ふ頭で降ろすことは可能だが、横浜で乗せて千葉で降ろすのは区域外営業で違反になる。

「横浜へ迎車で?」
「そうだ。初台南から首都高速に入って東神奈川で降りている。その後、瑞穂ふ頭で一時間ほど止まったままだ。そこからまた東神奈川から首都高速に入って芝浦で降りているんだがその区間は回送で走っている。何をやってたんだ?あいつは」
「迎車で行ったのにキャンセルになって回送で都内へ戻ってきた可能性はありますが、瑞穂ふ頭で一時間も客を待っていたっていうのは考えにくいですね」
「車内映像が残っていればな」

 梅島の悔しそうな顔が目に浮かんだ。

「意図的に消されたとしか思えないですね」
「大野がやったのか?」
「それはわかりません。大野がSDカードの存在と場所を知っていたのか。もし知っていたとして自分の意思で車内映像を消したのなら失踪も自分の意思だと考えられます。大野以外の誰かが消したのなら、大野の失踪には第三者が絡んできます。これまでに大野に事故やトラブルは無かったですか?」

 俺は自分がSDカードの位置を知った経緯を梅島に話した。

「詳しくは調べてみないとわからないが、クレームが一回あった記憶がある。ただお前みたいに大野がカードの位置を知ったかどうかはわからないな」
「そのクレームを調べられますか?」
「過去のクレーム記録を見れば分かるはずだが、俺はコンピューターってのが苦手でな。明日、事務員に聞きながらやってみるがあまりおおっぴらには出来ないな。少し時間をくれ」

 売上金がそのままで車内が荒らされた様子がなければ警察は事件性を疑わないだろう。大野の遺書など自殺を想起する物も見つかっていない今は、捜索願を会社が出す理由はない。

「トランクの私物はどうでしたか?」
「大野の鞄がそのまま入っていたが道路地図と日報のファイル以外は何も入っていなかった」
「財布や携帯電話は車内に置くのが普通ですが無かったんですよね?」
「あぁ。だが売上の入った釣り銭箱は見つかっている。中の金も無事だ」
「そうなると、財布も携帯電話も大野が制服に入れていたと考えられますが」

 大野の携帯電話は何度かけても繋がらず電源が入っていないとアナウンスが流れるだけだった。大野の携帯電話の電源が入った時、着信記録は遡って記録されているのだろうか?

 キャリアによっては電源が入った時に着信記録がSMSでまとめて届くかも知れない。そうなると大野が失踪したあとにかけた俺や千尋からの着信履歴が通知され、大野の携帯電話を持っている第三者に番号を知られることになる。

 大野の携帯電話を持っている第三者?
 俺はなぜそう思ったのか?そう思う理由はなんだ?何かを掴みかけたと思ったが梅島の言葉に思考は霧散した。

「所長は出来れば大事にしたくない様子だが、お前と話をしたいと言っている。乗務員たちが騒ぎ始めているから形だけでも説明をしたいんだろう。まぁ、警察が来て大野の車をあれこれ調べているのを見れば騒ぐのは無理はないが」
「所長と話す必要はありますか?」
「そう構えるな。ただ信用するな。こんな小さな営業所に飛ばされてきた男だ」
「梅島さんは違うんですか?」
「バカ野郎、俺は栄転だよ」
「わかりました。明日の午後にでも伺います」
「公休か?」
「はい。休みの日に新宿には行きたくないですが」
「好きなんだろ?この街が」

 梅島の問いには答えずに情報をくれた礼を言って電話を切った。時計を見ると21時になろうとしていた。


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