僕が世界の敵になった理由(わけ)。

4.

 家に着くと、途端にボルシチのいい匂いが鼻先を擽った。食欲をそそられ、無意識の内にふんふんと鼻が動く。母アリョーナの得意料理であるそれは、双子もオルゲルトも大好物であった。
「ただいま、母上!」
「今日ごちそう!?」
 バタバタと足音高くリビングに飛び込むと、まだキッチンに立っていた母は笑顔で二人を出迎えた。
「お帰りなさい。お疲れ様、二人共外は寒かったでしょう?」
 ぎゅうっと抱き締めら

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僕が世界の敵になった理由(わけ)。

3.

「えへへー」
「偉い?」
「偉いさ、この数値ならもう実戦でも通用するよ」
 割って入った同僚の声に、オルゲルトは少し顔をしかめて背後を振り向いた。
「セルゲイ、あんまり甘やかさないでくれ。それに、俺はこの子たちに自分の力の使い方や制御方法を覚えて欲しいだけで、別に軍属して欲しい訳じゃあない。この子たちの未来は自分で選べる、そう思ってる」
「だとしても、十二分に優秀だってことさ。さすがはオル

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僕が世界の敵になった理由(わけ)。

2.

 獲物であるラスカーの認知から起動、攻撃に移るまでものの三、四秒。
 普通の人間であれば、それを察したとしても咄嗟に初撃を躱して体勢を立て直し、なおかつ反撃に転ずるなどと言うことはほぼ不可能だろう。ペイント弾をもろに浴びて、ジ・エンドだ。
 しかし、ラスカーは飛び退って距離を取りたいところを逆に懐へ飛び込み、銃身を一閃した。べきりと紙細工のように折れ曲がるそれには目もくれず、返した掌を容赦

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【長編小説】月蝕の鼓動《第8話・帝都ホテルの客》

「ハヅキちゃん。待ってたよ」
 レシーバーから男の声がした。おそらく、客の声だろう。そして、ドタドタと誰かが歩いているような音も聞こえてくる。

「なんか楽しそうっすね」
 そう言うと、須藤もレシーバーに顔を近づけてきた。

「中澤さん。なんか、黒くなってませんか」
 ハヅキの声がした。

「そうでしょ。この前、社員旅行でセブ島に行ってきてね」

「いいですね。どんな所なんですか」

「海が綺麗な

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【長編小説】月蝕の鼓動《第7話・売春婦ハヅキ》

須藤の運転するカローラは乃木坂近くの地下駐車場をでると、国立新美術館のある通りに入った。その道をしばらく直進すると交差点に差し掛った。そこを右折し、六本木通りにでて、またしばらく直進すると、渋谷署の前で国道246に入る。そして、246をしばらく直進すると、目的地である三軒茶屋駅近くまでやってきた。前方には大きなレンタルビデオ屋が見えている。

「この辺のサンダーバードっていう店でまってるみたいです

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僕が世界の敵になった理由(わけ)。

1.

 パシュッ! ヒュン……っ、パシュッ!
 間断なく鼓膜を打つ、消音器(サイレンサー)付きの全自動(フルオート)機銃が弾丸を射出する微かな音と、それが空気を切り裂いてこちらへ迫る気配。
 無論鋼の実弾ではなく、訓練用のゴム製ではあったが、同じ弾速が出るように調整されている。当たればそれなりに痛くはあるだろうが、怪我をするほどではない。もしかしたら痣くらいは残るかもしれないが、数時間もせず消え

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飛鳥クリニックは今日も雨-7

前回はここから

やっぱり気分が違うよな。

てめえの為に商売頑張るのと、どっかの誰かに付けなきゃならねえゼニのためにシノギをするっつうんじゃテンションってやつが全く違う。

「競馬で走らされてる馬もこんな気分だったりするのかな?何しろメシの量は勝っても負けても変わらねえもんな。」

そんなこと考えたもんだよ。

まあとにかく今は目の前のこのあんちゃんに、サンプルを渡して、それでそこから先をどうす

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【長編小説】月蝕の鼓動《第6話・協力者》

「それから、そのアユミって子はどうしたんすか」

「うーん。どうしたんだっけな。それから見てねえからわかんねえな」
 須藤はそう言って首を二度三度捻った。

「そうっすか。なんか、おっかない話っすね」
 井沢はそう言って溜息を吐いた。

「大丈夫。俺もまだ一回しか遭遇してねえから」

「そうっすよね。そんなん、レアケースっすよね」
 井沢は怯えたような目で須藤を見つめた。

「そんな、ビビんなよ。

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【長編小説】月蝕の鼓動《第5話・売春クラブ》

井沢を乗せたタクシーがミッドタウン前の路肩にスルスルと停車した。

 運転手に三千円を渡し、井沢はタクシーを降りた。セイコーの廉価品の腕時計を見ると、針は六時半を指している。約束の時間まであと、三十分だ。

 井沢はミッドタウン内にある喫茶店でキャラメルモカを飲むことにした。そうしている間に酔いも冷め、時間も潰せるだろうと思ったからだ。井沢がキャラメルモカを飲み終え、もう一度、腕時計を見ると針は四

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閃光のバレット3

四.覚醒18

 黒髪切れ長一重の緑眼、顔立ちは東洋系。記憶力はよい方だと自負しているが、閃光は初見だった。無論狙われる理由は思い当たり過ぎて枚挙に暇ないが、今男が殺気を向けていたのはこちらではなくミツキの方だった。
「ダミアンさん……何で、ここに……」
 同じように一応麻酔銃を手にはしていたものの、撃つ気はないのだろう。目を丸くしたミツキがその名を呼ぶ。
「ダミアン? お前……パリスの時の文保局

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