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【書評】会社四季報の達人が教える10倍株・100倍株の探し方 渡部清二

概要

この手法をまとめると、実質的には、そもそもハイリスクハイリターンの新興企業に投資をすれば、たまたまあたりを引いたことが、手法が成功した結果のように見えるということではないだろうか。

また、この方法論を導き出した方法に詳細で述べる通り問題があり、具体的な方法の検証以前にそこが気になってしまった。

詳細

本書を手に取って一番読みたいポイントは、タイトルにもあるように、どうやったら10倍100倍になるような企業を見つけられるか?ということだろう。著者は、そのポイントとして以下の4つを上げている。

  1. 成長性を示す「増収率」が高い

  2. 稼ぐ力を示す「営業利益率」が高い

  3. オーナー経営者で筆頭株主

  4. 上場5年以内

率直に言って、私にはこの4つのポイントが意味のあるものには思えなかった。
そもそも、時価総額の大きな会社が10倍になるほど成長することは簡単なことではない。時価総額1000億円の企業が10倍になれば1兆円ということで、その株価の上昇が業績の裏付けを持ったものならば単純に言えば利益が10倍に増えるということになる。

そう考えると株価が10倍に増える企業の多くが時価総額の小さい小型株であることは驚くような発見ではないと思う。

また、利益が10倍にも増えるということは現状からコストダウンだけで達成されるということはあまりなく、売上の大幅な伸びが伴っているはずである。

営業利益率が低ければせっかく売り上げが伸びて利益の伸びはその分小さくなるのも自然なことだ。売上高成長率と併せて営業利益率が高いことは利益の絶対額を大きくするうえで有利であることは当然のことだ。

自然に考えれば上場を果たすタイミングはその企業にとって勢いのある良い時期と考えても良いだろうから上場から5年以内というタイミングは、売上が大きく伸びていて、時価総額も小さいタイミングとほぼ同じ意味だと思う。

オーナー経営者で筆頭株主という条件も、新規に上場した企業をざっと調べてみたところ、珍しいことではなく、新興企業で上場を果たすような企業なら良くあることだと思う。

上記を踏まえると、著者があげている10倍株を見つける4つのポイントは、単に、勢いのある新興企業を選べと言っているだけのように思うのだ。

また、著者が示した10倍株になった企業からその特徴を導き出すという方法そのものにも問題があり、この方法では生存者バイアスがかかっているように思う。
生存者バイアスというのは成功事例だけを見て判断を行うことによる誤りで、同じ条件で失敗した事例があるのにもかかわらず誤ったパターンを見出してしまうことを言う。

今回の例では、同じ条件を満たしながら、10倍株にならなかった多数の企業があったと考える方が自然に思える。10倍株にならなかったと言っても大きく値上がりした企業もあれば、株価が低調に推移した企業まで幅広く、投資手法として確立するためには、10倍株にならなかった企業の検証が必要ではないかと思う。

総評

先に述べた通り、本書であげられたポイントは、勢いのある新興企業を選べと言っているのとほとんど同じだ。

そうすると、めったに見つけられない10倍株を見つけるということを目的としているためにハズレをしょうがないことと思い込んでしまうのではないだろうか。反対に、この方法で10倍株を見つけられたとすると、たまたまだったとしても、良い手法を使ったからうまく行ったと思い込むということも起こると思う。

率直に言って手法としてうまく行ったのかうまく行っていないのかを判断できないので、手法の優劣を判断できない。

しいて有効な場面を探すなら、新興市場に上場して間もない企業の内、成長性が乏しく、見込みのない企業を取り除くという観点に限られると思う。


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