詩 箸さがしのうた

炎天下を歩き通して
コッテージに着いた五人
逆光の枝葉を日よけにして
丸くなって座る
のどが渇いた源次郎
水をがぶがぶ飲んでいると
友たちは弁当を食べ始めた
遅れをとった源次郎
あわてて弁当の包みを開けると
箸がない
「箸がねえや」と大声出すと
返ってきたのは
はあ、へえ、ふうん、あっそ
むしゃむしゃむしゃとうまそうに
食べる友に背を向けて
箸を捜しに行こうと決めた
川沿いを上流へ歩いていくと
あちらもこちらも箸だらけ
キャンパーたちがバーべきゅー
野菜をのせる
肉を返す
口に入れる
地面に落とす
土がつく
拾ってぽきりと半分に折り
ゴミの袋の中にポイ
悔しいけれど人のもの
歯ぎしりを噛んで山道に入る
ザワザワざわと森が鳴る
不吉な風に身をかがめ
地べたをはって進んでいたが
地鳴り 振動 雷鳴 豪雨
もうこれ以上進めない
くるぶしをうずめているのはぬれ落ち葉
妙に親しみわいてきて
へたりへたりと膝を着く
「いたっ!」と叫んで手のひら見ると
刺さっていた枯れ枝二本
何しに来たのか思い出し
痛さを忘れて引っこ抜く
やっと見つけた自分の箸
ふところにしまうと
空が晴れて虹が出た
得意満面源次郎
コッテージにもどると
友たちはまだ弁当を食べている
なぜか二人ははげていて
あとの二人は白髪頭
残り少ない飯粒を
一粒一粒大事そうに
箸でつまんで食べている
「お前も老けたな」と言われ
頭に触れると寂しさが
でもこの年月と引き換えに
やっと得た自分の箸
さてさてやっとありつける
「おれの弁当どこいった?」
友たち四人が一斉に
指した先にはコッテージ
丸木づくりのコッテージ
中には小さな冷蔵庫一つ
開けると見覚えのある弁当箱が
源次郎を待っていた

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