詩 うしろむき

前向きじゃないと
人は多くそう言うけれど
前には濃い霧がたちこめていて
どこを見ればいいのか分からない
180度体の向きを変えれば
景色はなんて鮮明なのだろう
遠くにフォーカスすると
石を欠いて獲物に投げつけている人間が
土をこねて器を作っている人間が
薄い水晶体を透かして
小さな泡のように浮かんで見える
毛様筋をゆるめると
人間は大きくなり
ひしめき合って
互いの場所を奪い奪われ
殺し殺され
そんなすべてをなかったことにする
火と黒煙に
目が開けていられず
それでも指でまぶたをこじあけ
流れる時間に
逆らえないのだから
せめて厚ぼったい過去に
胸を押されながら
後ろを向いたままで
進もうと思う

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