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古文頻出語句について考える回~大学受験生応援コラム4月

「さるべき」について考えます


’** 0 はじめに ***

当コラムに目を留めていただき、ありがとうございます。大学受験国語の勉強に資する内容提供を目的として書いています。

主に共通テストを素材に用いて書いているコラムですが、2年目になる今年度は、共通テスト以外の問題も対象に含めていこうかと考えています。実は現在、書いておきたい内容が頭の中にはいっぱいあるのですが、執筆が追いつきません。不定期更新が玉にキズの当コラムですが、気長にお付き合いいただければ幸いです。

*今年も桜の季節がやってきましたね。トップの写真も桜を拝借しました。満開になるのも間近いでしょう。

’** 1 「さるべき」を語源から考える ***

今回は、古文によく出てくる「さるべき」という表現を取り上げます。まずは語源から。

「さる」とは「さ」という副詞に、ラ行変格活用動詞「あり」がついたものです。「さ」は指示語で「そう」くらいに訳します。従って、「さる」は「そうである」と直訳できます(ちなみに、このときの「あり」は補助動詞。ですので「~ある」ではなく「~ある」となる)。

そこに、義務当然の助動詞「べし」が加わります。

「さるべき」という形の場合、「べし」は当然または適当の意味に取ることが多いようです。当然の意味で取った場合は。「そうであるのが当然な」「そうであるはずの」「そうでなければならない」くらいの訳になるでしょうか。

一方、適当の意味と解釈した場合は。「そうであるのが適当な」「そうであるのがふさわしい」「そうであるのがよい」これくらいの訳になるでしょう。

というわけで、「さるべき」を直訳すること自体は、実は語源を考えればさほど難しいことではありません。極論を言えば、訳を覚える必要もありません(本文で見かけたらその都度訳せばいいから)。

なお、助動詞「べし」は終止形接続なのに、直前のラ変動詞「(さ)あり」が「(さ)ある」と連体形になっているのは、「終止形接続の助動詞は全て、ラ変型活用語については連体形接続になるから」(←盲点)ですね。終止形接続の助動詞は「べし」以外にも幾つかありますが、これらの助動詞は全て直前に「u」の音を要求するのです。だから「あり」ではなく「ある」となる。一応確認です。

’** 2 問題は指示語なのです ***

「さるべき」という語の難しさは、その中に含まれる指示語「さ」が何を指すのかという点にあります。指示語である以上、文章によって都度内容は変わります。このチェックをきっちりやらないと、例えば口語訳の問題で失点することになります。

この点を、辞書に載っている用例で確かめてみます。

意味1:そうする(→「そうである」が意訳される)のが最もふさわしい、適当な
用例1:娘をば、さるべき人にあづけて(娘を適当な人と結婚させて)
『源氏物語・夕顔』より
➡この場合、「娘を預けるべき人に預けて」と考えます。このように直後の動詞を指示内容と考えるのが一つ目のパターンです。本動詞を受けるため「さる」は「そうである」ではなく「そうする」と意訳されます。

意味2:そうなる(→ここでも「そうである」が意訳される)のが当然であるような、そうなる運命の
用例2:(桐壺更衣の死を受けて、帝と更衣とは)さるべき契りこそはおはしましけめ(そうなるのが当然であるような前世からの約束がおありだったのだろう)
『源氏物語・桐壺』より
➡まずは用例1のように直後の動詞を当てはめてみます。動詞は「おはします」(「あり」の尊敬語、おありになる)ですので、
「更衣が亡くなったということは、帝と更衣の間にはおありになるはずの前世からの因縁がおありになったのだろう」

となります。なんかよく分かりませんね。理由は動詞「おはします」…「あり」及びその変化形…自体の意味が不明確だからです。

この場合の正解は、

「更衣が亡くなったということは、帝と更衣の間には死別することになるはずの前世からの因縁がおありになったのだろう」でしょう。今度は後ろではなく前の文脈を踏まえて指示内容を確定することになります。

なお、この用法については、以下に引用する説明がベストではないかと思います。

用例2のような場合、「『そうなるはずの前世の因縁・そうなるはずのめぐりあわせ』などの超自然的な意味と考えるのが普通である。…「そう」はその時の状況などをいう」(関谷浩『古文解釈の方法』旧版91頁、駿台文庫)

厳密にいえば、この引用文は補助動詞「あり」が使われた文について説明したものです。用例2の「おはします」は本動詞ですのでその点での差異はありますが、取り敢えずの方策として、「さるべき」の直後の動詞が「あり」及びその変化形(はべり、さぶらふ、おはす、おはしますなど)のときは用例2を疑ってみると良いのではないかと考えます。

*『古文解釈の方法』は個人的には名著だと思います。一冊やり通すのはなかなか骨が折れますが、私自身、最後までやりきったときには、確実に古文の力が身についたと実感できました。自分が使って役に立ったという意味でオススメします(いわゆる「個人の感想です」けどね)。

意味3:相当な、立派な、えらい
用例3:(藤原道長のような)さるべき人は、疾(と)うより御心魂の猛(たけ)く(立派な人は、早くから精神力がおありで)『大鏡・道長』より

➡1,2の延長線上に生まれた用法です。慣用表現として意味を覚えるならこれでしょう。1,2の用法を検討したうえで、どちらも合わなければこの用法を選ぶことになります。

’** 3 今回のポイント ***

「さるべき」の意味は3つ。

(1)そうするのが適当な、ふさわしい…「べし」は適当の意味。「そう」の指示内容は直後にある「あり」(とその仲間たち)以外の動詞。

(2)そうなるのが当然の、そうなる運命の…「べし」は当然の意味。「そう」の指示内容はそのときの超自然的な場面状況。このとき、直後の動詞は「あり」とその仲間たち(補助動詞が基本)。

(3)相当な、立派な、えらい…(1)(2)以外の場合

最後までお読みいただき、ありがとうございました。また次回です。


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