【アイマスSS】みんな違うが、それでいい。
夏休みなんだし視聴覚室でやらない? という杏の提案に、僕と晶葉先生は一も二もなく同意した。
杏の補習に付き合わされているのに随分と偉そうだ、と思わなくもなかったのだけれど、真夏の酷暑には誰も抗えなかったのだから仕方がない。
「一応教室にエアコンを設置するよう稟議は出しているのだが、なにぶん上のアタマが固くてな」
晶葉先生の差し入れてくれたガリガリくんを齧りながら、僕と杏はホワイトボードに描かれた一次関数y=xのグラフに吸い寄せられた。
「原点からX=aまでの、X軸との面積を求めたい。さて、君らならこれを、どうやって解く?」
「どうやって、て」
僕は困惑しながらも、三角形の面積の公式を書いた。
ご丁寧にも、各座標が割り振られている。これを利用しない手はないだろう。
「いやそれだと、汎用性なくない? これが2次関数だの三角関数だの求めろーになったら、大変でしょ。
黙って積分すればいいじゃん。せっかく習ったんだしさ」
杏はy=xを積分した。
「二人とも正しい。そして私は、こんな式を書く」
晶葉先生は、鉤括弧のなかに座標のアルファベットを閉じ込め、2で割った。
僕と杏は目をパチクリさせ、顔を見合わせる。
「そんな顔をするな。行列式だ、夏休み明けに嫌でも目にするぞ? 予習だ予習」
僕たちは、3つの数式を見比べた。
どれもが違う存在のようで、行き着く先が同じであることに、不思議な感動を覚えた。
僕たちは、しばらく、何も語らなかった。
語る必要が、なかった。
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