少年にとって「お姉さん」とは解き明かさなければならない謎である

どうも。
我ながら気持ち悪いタイトルを付けたと思いますが、どうかドラえもんのように温かい目で見守ってくださいますと幸いです。

さて、去る10月4日、藤近小梅先生の「隣のお姉さんが好き」が最終回を迎えました。

更新のたびにワクワクしながらページをめくり、心愛さんとたーくんという二人が織り成すほんのり暖かな日常にニヤニヤし通しでした。
そんな大事に大事に読んできた作品の最終回を読み終えた時、僕はある感情に包まれました。

それは、「やっぱ、少年が年上のお姉さんに恋をする話はえぇ…。」です。

古来より、少年がお姉さんに恋をして「お姉さん」を解き明かしていくと共に主人公自身も成長していくという物語は人々を悶々とさせ続け、今もなお多くの人間の何らかのナニカを満たしています。

そこで今回は、そんな少年がお姉さんに恋をする話で僕が特に好きな四作品についてまとめてみました。ぜひ、読んでいただけると幸いです。


水は海に向かって流れる


水は海に向かって流れる 1巻(田島列島・講談社)

好きなクリエイターさんの記事でも紹介した田島列島先生の「水は海に向かって流れる」。高校入学を機に叔父さんの住むシェアハウスに越してきた主人公・直達とシェアハウスの同居人で26歳OLの榊さんの間にはある因縁があり…というところから始まる物語です。
まさしく川の流れのような物語で、基本は登場人物の感情さえもさらっと流れるように進んでいきますが、ときおり大きな流れのように感情の漏れを見せる部分もあって、つらつらと読み進めるうちに最終的に海のように爽やかな読後感にいきつく。そんな漫画だと感じています。

少年枠:直達くん

小さくてすみません

 この漫画の主人公である直達くん。作中でも榊さんから評される通り「いい子」です。捨てネコの新たな飼い主を見つけようとしたり、榊さんのしゃっくりを止めようとしたりと善行をあげようとするとキリがありません。
 そんな直達くんの一番のいい子ポイントはわがままを言わないところです。ただ、それはある種の諦めでもあり、例えそれが「いい子」にされるとしてもそれは大人にとって都合の良い「いい子」でしかありません。そんな「いい子」の直達くんですが、榊さんとの出会いを通して変わっていきます。自分がどういう人間なのかということを彼なりに気づいていくと同時に、ちゃんと自分がどうしたいかも言えるようになる。こういう変化が見ていて気持ちいいなと思います。

お姉さん枠:榊さん

うーん、無表情

 そんな直達くんに対して榊さんはというと、感情が表に出ない人です。表情があまり変わらないからどう思ってるのかわからないというのももちろんありますが、中盤までモノローグすら出てきません。それもあって、榊さんという人はすんごいミステリアスかつ魅力的に読者には映るわけです。はいここ、「年上お姉さんポイント①~感情が読めない」!テストに出るよー。  
 じゃあ何で感情が表に出ないんですかっていうと、これは僕の勝手な憶測になりますが、榊さんという人がある時からずっと心のうちに眠らせ続けている感情があるからじゃないかなぁ、と。それが何なのか、どういうきっかけなのかといったことはぜひとも読んでいただけたらと思います。

アオのハコ


アオのハコ(三浦糀・集英社)

 「週刊少年ジャンプ」にて連載されている三浦糀先生の「アオのハコ」。ジャンプらしからぬど真ん中ド直球ど青春漫画になっています。バド部高校1年の主人公・大喜くんとバスケ部高校2年の千夏先輩がひょんなことから同居するお話で、二人とその周りの人が織り成す青春が描かれています。
 もちろんラブもありますが、部活・スポーツ漫画の要素も半分近く入ってるのでまさに青春の全てを堪能できる作品といえます。青春という時間にしか無い特有の熱さ・若さがとにかく眩しくて、それでいて「好き」という感情を全肯定してくれる、生きとし生ける人皆に読んでほしい漫画ですね。

少年枠:大喜くん

2話から

 バド部の大喜くん。とにかく真っすぐで突っ走ってしまうこともしばしば。練習熱心気遣いやさん。それでいて年ごろの男の子らしい部分もあるので非常に共感しやすくて応援したくなるザ・主人公だなという感じ。千夏先輩と同居することになったときも「こんなの耐えられるか!」とドギマギする一方で、家族と離れて一人日本に残った千夏先輩のことを考えて「俺と恋愛してくださいなんてもう言えないよ。」と言って自分もインターハイを目指すようになります。このあたり非常にバランスが上手いなという感じ。  
 千夏先輩が頑張る原動力になっているのは確かですが、それ以上にバドミントンが楽しくて好きなんだろうなぁと部活や試合の様子を見ていて思いますね。

お姉さん枠:千夏先輩

ヴッ

 そんな大喜くんの想い人・千夏先輩。バスケ好きで部活熱心かつ負けず嫌いと大喜くんと似ているポイントが多いです。そんな千夏先輩、とにかく可愛いです。自分の可愛さに自覚があるのかないのか、数々の思わせぶり行為によって同居中の大喜くんおよび読者を悶えさせます。大喜くんを応援する姿は「お姉さん枠」の名に恥じないお姉さんっぷりだといえます。そして、彼女を「お姉さん枠」たらしめるもう1つのポイントが心の内が読めないところです。先輩自身が天然で不思議ちゃんだからというのもありますが、大喜くん視点なのもあってモノローグが少なく、あってもその真意が分からない感じになってます。こういう部分を想像するのも楽しいですよね。
 いやー、この二人の関係はとにかく良きですよね。詳細はぜひとも漫画を読んでほしいんですが、お互いがお互いを支え合う関係は堪らんですね。

ペンギン・ハイウェイ


ペンギンハイウェイ(森見登美彦・角川文庫)

 3つ目は小説になります。こちら、森見登美子先生の「ペンギン・ハイウェイ」は第31回日本SF大賞受賞作であり、アニメ映画化もされています。「小説なんて読めない!」という方は(特に改変はないので)アニメでも楽しめますが、できたら小説から読んでほしいな、と僕的には思います。
 主人公は小学4年生の男の子・アオヤマくん。ある日、彼の住む街に突然ペンギンが現れます。研究熱心なアオヤマくんは謎について研究していくのですが、その事件に彼が興味を持っていた歯科医院のお姉さんの不思議な力が関わっていることが分かり…というのがあらすじになります。

少年枠:アオヤマくん

映画のアオヤマくん

 このアオヤマくん、今回紹介する8人の中で一番最年少かつ一番変な子です。変な子とは言ったものの、クラスに1人はこんな子いたなぁという位の感じ。「ぼくはたいへん頭が良く、しかも努力をおこたらずに勉強するのである。」と豪語するアオヤマくんはいろんなことを知っていて、いろんなことを研究しています。川の流れ、宇宙、クラスのガキ大将…。世界の全てが不思議に映る探究者にとっては近所の「お姉さん」だって例外ではありません。毎日ほんの30分ぐらいはおっぱいのことを考える(本人談)アオヤマくんの見栄っ張りでませている年相応な可愛さについ「ふふっ」となってしまいます。あと単純に頭がいいだけじゃなくて良いことも言います。

実物を見るのは大切なことだ。百聞は一見にしかずである。

他人に負けるのは恥ずかしいことではないが、昨日の自分に負けるのは恥ずかしいことだ。

どちらもアオヤマくんが言ったことになります。見習いたいですね。
 そんなアオヤマくん、ペンギンハイウェイ研究を通して”世界の果て”、そして”お姉さん”について知っていくことになります。少年のひと夏の成長ってやつですね。うーん、好き。

お姉さん枠:歯科医院のお姉さん

映画のお姉さん

 お姉さんです。名前が明かされないのでお姉さんとしか言えませんが、まごうことなきお姉さんです。紹介している8人の中では一番大人かつ一番ミステリアスです。何てったってペンギン作りますから。感情が読めないどころの話じゃないっていう。あとえっち。誰に対しても気さくなお姉さんは、アオヤマくんにとっていろんなことを教えてくれるまさしくお姉さんであり、憧れ、不思議、いろんな感情を抱かせる存在になります。何を考えているのか全く読めず、何かこうのらりくらりとした感じ。それは彼女がそういうキャラクターなのもありますが、彼女の存在そのものが超然としたものだからですね。果たしてペンギンを作り出すお姉さんは何者なのか、そしてアオヤマくんの成長にどう関わるのか。注目してほしいです。

隣のお姉さんが好き


隣のお姉さんが好き(藤近小梅・秋田書店)

 さて、そんなこんなで最初に触れた「隣のお姉さんが好き」になります。
主人公の中学生男子・佑くん(以下、たーくん)とそのお隣さんの高校生・心愛さんが一緒に映画を観る漫画です。
 ラブコメではありますが、僕は二人のコミュニケーションを描いた作品だと思ってます。”自己肯定感の高いたーくん”と”自分に自信のないしあさん”、”しあさんと一緒にいるために映画を観ているたーくん”と”映画が好きなしあさん”、”相手に好かれようとしすぎるたーくん”と”相手に嫌われようとしすぎるしあさん”というどこまでも対照的だった二人が、コミュニケーションをしていく中で段々と自分、そして相手のことを見れるようになっていく、その過程が丁寧な心理描写、漫画表現によって描かれている。そんな漫画です。

少年枠:たーくん

苗字はつぎはらです。

 主人公のたーくん。毎週水曜日にお隣さんのしあさんと映画を観る約束をしますが、映画に関してはまだ幼いのもあってあまり理解できません。彼が見ているのは映画ではなく、映画を観るしあさんの妙に大人びた表情。それこそが、彼がしあさんを好きになったきっかけでもあります。そんなたーくんですが、とにかく若いなぁという感じ。やんわり告白を断るしあさんに諦めずに攻めていきますし、しあさんの言動を頑張って理解しようとしてみるけど上手く言語化できなかったり、持ち前の素直さで「わぁ…」ってなっちゃうところまで言っちゃうとか。あと、かっこいい漢字をノートに練習してたり。
 とにかく、若さ故の”知らない”ということが彼の自信やコミュニケーションをミスしてしまうことの起因であり、物語のスタート地点でした。でも、そこからたーくんは映画に慣れたりすることで”知って”いくんですよ。そして、成長する。やっぱり、この成長が少年×お姉さんの醍醐味ですね。

お姉さん枠:心愛さん

実はハーフです。

 映画が好きで脚本家を目指す高校生のしあさん。巷では”めんどくさ”なんて呼ばれる、ちょっと面倒くさい女の子です。根暗・自分のことを深く知られたくないと思っている・たーくんに対して変に大人ぶろうとする・されど独占欲は強い、とかたーくんじゃなかったら逆に付き合ってくれないんじゃないか?って感じです。外面よく見せようと仮面被って愛想笑いするとか、もうまさにミステリアスなお姉さんっぽいですよね。でも、どんどんメッキ剥がれてくんですけどね。はっはっは。
 まぁ、メッキが剥がれるのもありますけど、やっぱりしあさんもたーくんと同じようにコミュニケーションの中で彼女なりに成長していくんですよ。それは、あまり評価されなかった脚本が賞を取るのもそうだし、愛想笑いが減るのもそう。人を遠ざけようとするんじゃなくて、相手のことを慮ったコミュニケーションをするようになります。お互いに変わっていくってことですね。
 あと彼女について特筆すべきことは、ときどき周囲に黒枠を発生させることですかね。僕はこれ、しあさんの心の壁を表してると思ってたんですけど、さて正解は如何に…っていうところで本編読んでほしいですね。
 ついでに言うと、「隣のお姉さんが好き」を読む前には「ラ・ラ・ランド」を見て、全部読んだら髭男の「115万キロのフィルム」を聞くのがいいと思います。


おわりに
 どうでしたでしょうか。こうやってまとめてみると、意外と共通点があるんだなぁという印象です。やっぱり、少年とお姉さんの組み合わせには特有の良さがありますよね。”お姉さん”という自分よりも大人な人間に対して、少年は憧れを抱き、”お姉さん”について知ろうとする。その過程で努力したり、気づきがあったりして成長する。そこが良いんだろうなと、今回改めて思いました。
 願わくばクロスオーバーじゃないですけど、少年枠どうしとお姉さん枠どうしで話し合ったりしてほしいですね。「うちの子はこういう子で~」「そっちも大変そうですね」みたいな。
 ぜひ、紹介した作品の中でまだ読んだことない・興味が沸いたものがあれば読んでいただけると幸いです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。楽しんでいただけたなら嬉しいです。

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