会話

「ドラマとか見る?」
「そんなには見ないかな。何で?」
「なんかさ、ドラマとか映画でさキャラクターが会話してるシーンあるじゃん?」
「うん。」
「あの会話の中でさ、本筋とは関係ない思想を語ったりしてることあるじゃん。結婚観とか。」
「あー、あるね。」
「あれ、何か作り手の姿がうっすら見えてイヤなんだよな。作品のキャラクターに思想を主張させてるっていうか。」
「別に普通じゃない?作品を通してモノを言うのがクリエイターなんじゃないの?」
「でも、普段の日常会話でそんなこと話さないと思わん?」
「それは人によりけりでしょ。それにそういう何気ないシーンとか台詞がのちのち伏線や対比となって活きてくる展開、好きでしょ?」
「まぁ、それは確かに好きだけどさ。」
「ほら。」
「でも、俺たちも自分たちの意思で喋ってんのか、作者に喋らされてんのかわかんないよな。」
「そういうメタ的な台詞は嫌いな人もいるから辞めなよ。」
「そうそう、キャラクターで思い出したんだけど。」
「何?」
「俺、あれも嫌いなんだよな。『キャラが勝手に動いて話を作ってくれました。』ってやつ。」
「あー、よく言うよね。そんなに嫌とは感じないけどなぁ。」
「俺だって面白ければいいと思うよ。でも、俺がそれ聞いたやつは引き延ばしの末に展開とキャラが破綻と崩壊しまくったやつでさ。その末に『キャラが勝手に動いてくれました~』だぜ。いや、確かにお前の中ではキャラが勝手に動いたのかもしれないけど、結局それを発信してるのはお前じゃねぇか!作り手としての責任から逃げんじゃねーよ!みたいな。」
「別にそういう意図での発言ではないでしょ。お話作るのってすごく大変なことだし。」
「分かってるけどさー。あ、そうそうお話といえばさ。」
「話がころころ変わるね。」
「思い出したんだからいいじゃん。俺こないだ最近話題になってた小説読んだのよ。」
「へー、なんてやつ?」
「なんかこないだ本屋大賞取ってたやつ。いやー読んだんだけど。面白かったよ。面白かったんだけどさー。」
「だけど?」
「何か自分的には世間で評価されてるほどの面白さか?みたいに感じちゃって。なんか展開重視じゃなくてキャラクター重視だったからかな。キャラクターはね、クセのある感じでよかったんだけど。話はそんな面白いか?もっと面白いやつあるけどなーみたいな。」
「それ、逆張りってやつ?」
「ちげぇよ。言っとくけど俺は逆張りじゃないから。応援されてない少数派の方を応援したくなっちゃうだけだから。別に多数派の方のアンチしたりしないし。それとこれとは話が別!」
「あー、はいはい。」
「なんか文体も特に何が起きるでもなくのったりとした感じでさ。こんなんなら俺も書けんじゃね?みたいに思った。」
「それこそさっきの話でしょ。人に評価される小説書くのなんて簡単にできることじゃないよ。それに劇的な展開がなくて評価されるなんてそっちの方がすごいんじゃない?」
「だよなー。まぁ、この話もそう思った作者が何も思いつかなかった末に書いてるものだしな。」
「だから、そういうメタいこと言うのはやめなって。」
「あっ、そうそう小説で思い出したんだけど。」
「今度は何?」
「俺、こないだ叙述トリックものの本読んだんだよね。映像化するっていうから。」
「あー、あれね。」
「叙述トリックってすごいよな。小説ならではの面白さっていうかさ。」
「わかるわかる。で、大体そういうのって『映像化不可能!』って謳い文句がついてなんだかんだで映像化するんだよね。」
「ありがちだよな。でも、叙述トリックなんてほんとよく思いつくよな。」
「ほんとだよね。どんな頭してんだろうね?」
「例えば、今俺たちが実はオンラインのテレビ会議で話してるっていうのも叙述トリックになんないかな。」
「もうメタ的なこと言うなって。それに、ただの会話が実はオンラインでやってたやつでも別に驚かないでしょ。」
「確かになー。」




「ふー。」
僕は画面を見続けて疲れた目をこすりながら息を吐きだす。
ここまでの会話は書けたので、ここからどう話を進めるか頭を動かす。
二人のキャラクターに好き勝手喋らせてはみたものの、その後の展開はなかなか思いつかなかった。
「小説を書くのって大変なんだな…。」
僕は椅子にもたれかかり天井を見つめながら呟いた。

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