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【創作怪談】いないひとの名前

あくまで、創作怪談なんです。

フィクションの話。そこを踏まえて、読んでください。





「勝手に知らない人の名前を呼んだらいけない」という話なんですけど──。



その日は妙に熱が籠っていて、寝付けなくって。
特に見るものも無いのにスマホと睨み合い、寝返りを繰り返していました。

友人のうちの1人──中学から一緒で、特に仲良くしていた奴です──。そいつから連絡が来ましてね。

向こうも同じように寝付けないらしく、「ドライブにでも行って夜風に当たろう」って誘ってきたんです。

結構な夜中でしたが、特に断る理由もありませんから、二つ返事で了承しました。


この友人(仮にAとします)と趣味が合い、よくドライブにも行っていました。

この日も、いつものように適当な曲でもかけながら当てもなく走る───という風に思っていました。

事実、いつも通りバカみたいな話や、下らない下ネタ、意味のない言葉などで盛り上がっていました。

運転手を勤めてくれているAは楽しくなってきたのかどんどん口が回って。

正直、運転よりも喋りがメイン、って感じで。──もちろん、安全運転ではありましたが。


で、なんていうか、当時私とAの間では怪談が流行っていて。

ふとしたタイミングでゾッとするような一言や、怖い話みたいなものを言って相手を無闇に怖がらせる、というのをよくやっていました。

二人とも怪談を好むクセしてビビりだったので、心霊スポットなどに行ったこともないし行きたくもないタイプでした。それに、こういう事を言った本人も怖くなってしまうということもよくあって。

意味ないじゃないかって笑い合う事もしばしばあったんですよ。



───すみません。前フリが長くなりましたね。



本題はここからなんです。

その日も、そんな調子でAが言ったんです。

「この前、ドアノブが不調で、内からも外からも開けられなくなっちゃってさァ。」

その話は、私も聞いていました。

Aの家は一軒家なんですが少々変わったつくりになっていて、1階と2階にそれぞれ玄関があるんです。

もちろんメインの玄関は1階にあるのですが、1階は祖父母が住んでいる関係もあり、Aたちは2階の玄関を主に使っていたそうです。

──で、その2階の玄関のドアノブが錆びたかなんかで調子が悪く、回らなくなってしまったと連絡が来たことがあったのです。

何も俺に言わなくても──と思いながらも、一応自転車のチェーンなどに使うサビとりスプレーをかければ多少マシになるんじゃないか、とアドバイスをしたのは覚えていましたが、ずっと疑問に思っている事が1つありました。

「玄関って2つあったよな、その時1階のとこから出ればよかったんじゃねえの?」

そう聞くと、Aは困ったように

「う〜ん…」

と唸り、

「でもさァ、毎回そうするわけにはいかねえし、そこで俺が直さないと他の家族も○△※さんも困っちゃうからな…」

○△※さん──。

上手く聞き取れませんでしたが、女性の名前であるようでした。
さもあたり前かのようにAは言いましたが、そんな人Aの口から聞いた事ありません。

さてはまたビビらそうとしてるのか──。

私はそう思い、

「おい、夜中にそういうのやめろよ! 普通に怖いだろ!」

とビビりながらも叱ると、Aも

「バレたか笑 でも怖かっただろ笑」

とニヤニヤして聞いてきたので、

「怖かった! 謝れ!お前は! 夜中に怖い事言うな!」

と叱りました。

こういった掛け合いはよくしていましたが、この時の私は何故かこのAのビビらせが異様なほど効いていたので、半ば本気で謝って欲しいと考えていました。

Aは、いつもはそういった事を言うにしても、もう少し安直な感じで「今、後ろになんか見えたような…」だとか、「女が見える」みたいな事を言うヤツです。まあ、コレでも十分怖いですが──

そんな私の空気を感じ取ってか、Aも

「いや、俺も自分で言ってて怖かったから。まあ、でも、よくなかったな…」

「謝る、謝るよ!すいませんでした!俺の家にいないひとの名前を言ってすみませんでした!」

いないひとの名前。

これといって特別でない言葉でしたが、この時、なぜか一気に恐怖が湧いてきました。

Aも同じく恐怖を感じたようで、しばらくお互いに無言でした。

無言の時間が長引くほどより一層恐怖が増すため、なんとかこの時間を脱しようと、

「お前、本当に怖いヤツじゃんか!怖すぎるヤツはやめろって!」

などと無理矢理明るく振る舞いました。

その後は特に何もなく、またくだらない話をしてその日は解散になりました。



それで、その後もそのまま友人として付き合いを続けてたんですけど。

数年前の正月に、Aから年賀状が来たんですよ。

珍しいな、って思って。

今まで一度も来た事がなかったんで内心嬉しかったんですけど、

その年賀状、変なんですよね。

いや、変というか。

内容は普通の年賀状なんです。

上半分くらいに家族写真があって。
旅行に行ってきました!とか、色々近況みたいなものが書いてある。

ただ、その写真。

A一家が写っているであろうその写真に。

女性が2人写っているんです。

多分、どちらかがAの母で、もう片方は──


「あ、ダメだ。」


と思いました。

この女性のどっちがどっち、というのを認識したらダメだ──。


それからは怖くなってAと連絡取るのやめちゃって。

その後A一家がどうなったのかはよく分からないんですけど。

どこかへ引っ越した、というのだけは聞いています。



──まあ、勝手に存在しない名前を呼んではいけない、という事ですよね。

もしかしたら、名前を付けたがられている「何か」が寄ってきてしまうかもしれないですから。

皆さんも、気をつけてくださいね。












今も、年賀状は送られてきています。


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