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失敗が資産になる。(と思いたい)

思い返してみると本当に恥ずかしいが、僕が会社にジョインして、新しいビジネスを作ろうと動き出した時、最初にしたのが「3ヶ月間考えること」だった。

正確に言えば、「3ヶ月間ずっと考えていよう」とは思っていなかったのだが、「1週間に2回、2時間ずつランチをしながらディスカッションの時間を取りましょう。大体2ヶ月ぐらいで新しいビジネスのコンセプトを出しましょう。」と言った時点で勝負が決まっていた。ただ週2回ディスカッションするだけで3ヶ月が過ぎた。全く何も手を動かさず、ただ競合の研究やコンセプトメイクだけで3ヶ月が過ぎた。

今後の事業をどう広げていこうか、この事業が世界に提供している価値とは何だろうか、我々が目指す世界とは。こういったテーマで議論するのは楽しい。青臭いことを語るのが好きなベンチャーで働く人であれば尚更。だが結局実戦なくして何も進まない。転職したばかりの僕はそんな基本的なことを忘れていた。

状況を打開したのは、エンジェル投資家候補としてミーティングしたYさん。「理念をどうこう言うよりまずはお金を稼ぎなさい。武器をどうこう議論するより素手で戦えるようになりなさい」という一言。そこから、ようやく実際の事業開発が動き出した。


一年間で学んだこと

僕が一年間に学んだことは、どれもスタートアップを少しでもかじった人なら聞き慣れた話ばかり。それでも経験してみないとわからない。簡単に落とし穴にはまっていくし、味わってみないと生きた教訓にならなかった。

技術を尖らせろ、でも技術を磨く前に売れ

尖った技術がなければ、競合が現れた時に何ともできなくなる。人が真似できない技術を磨き込むことが大事。とはいえ、実はそんなに大事じゃなかったりもする。競合が近くにいなければ、ちょっと尖っているぐらいでお金はもらえる。どうやってお金をもらって、もらったお金でさらに尖らせていけるかの方が重要。

自分たちの武器は何だろう?とうんうん頭の中で考えているより、感覚的に体で強みだと感じていることで短期間でも収益化する。それができたら、まずビジネスが回る。「尖らせる戦略」は後から考えればいい。

ディールを作り切る力が最重要

思い浮かぶのはPR担当として入ってもらったKさん。ベンチャー企業のPRの経験がほぼなかったのにもかかわらず、自らドットライフに売り込みをかけてきた。最初の方はこちらも半信半疑でトライアルベースで一緒にやり始めたものの、どんどん追いついてバリューを発揮するようになり、実績を積み重ねていった。

今持っている実力や実績から多少ビハインドしていてもディールを作ってしまうことが大切。実績のないベンチャーはディールをまず作り、自分たちの力を追いつかせるような動きがあって、初めて次につながる。逆にディールが取れないことには、何も前に進まない。

ベンチャーで失注から学ぶことは何もない。アイディアはよかったんだけどね、とか、いいと言ってくれる人がいるんだけどね、とか、もう少し改善したら売れるはずだよね、とかいう話は全く意味がない。自分たちの実力に対して多少のビハインドがあっても、まずはディールメイクすること。

大企業のようにディールを選んでいる暇はない。どんなディールでもまずは受けてみる(だからこそ、軌道に乗るまでのベンチャーは本当に苦しい。)。どれだけ優れたものを持っていても、ディールを決め切る力のないベンチャーは絶対に成長しない。逆に少しでも競合と同等か少しでも勝る技術があり(むしろ競合より多少劣っていたとしても実用可能な技術があり)、実際にお金のやりとりがある中で技術を磨き、実績を作れるのであれば、ディールを作ることから会社は伸びていく。

人との関係を大切に

人脈がなくてもどうにかなるぐらいの実力があれば良いが、お願いできる&本音で話してくれる人をどれだけ持てるかで生き死にが決まることもある。チャンスをもらえる&死の淵から救われることが多々ある。いいメンターとの出会いも重要。Yさんの一言がなければ、確実に迷走していた。

キャパシティの認識

ベンチャーと大企業で戦い方が違う。同じキャパシティでできると思っていると足を掬われる。理想的なリソースがあればプロジェクトが成立するはず、はほぼ成立しない。僕自身も、「優れたデザイン力があれば売れるはず」とか「一定の数の消費者にリーチできさえすれば、自然とバズるはず」という理想を描いていたが、実際には、売れるデザインを作る力も、多くの人にリーチし続ける会社の体力もなかった。

理想的なリソースを持っているという仮定の上で、仮説検証を追いかけてしまうと、大方のベンチャーでは、理想を追いかけて四苦八苦した挙句に時間切れ=資金ショート、となる。まずは、限られたリソースでできるプロダクトの売り方からスタートすること。足場を地道に固めることが重要(もちろんAmazonのように、深いJカーブを描ける資金調達力があれば話は別だが。)。

ベンチャーは早さが命。考えている暇はない。

新規事業の立ち上げは「やってみる、捨てる」のサイクルをどれだけ早く回せるか、で決まる。

早く回すと言っても、きちんと仮説検証のサイクルを一周させなければいけない。瞬間的に全力を投入して結果が出るまでサイクルをひと回しして、ダメならすぐ捨てるor変える。ひと回しし切らないうちに止めてしまっては果実を得られないし、サイクルを回すのに時間をかけ過ぎてもいけない。そのためには、全力を出す期間や全力の出し方、「捨てる・変える」時期の見極めが肝になる。

「瞬間的に全力&すぐ捨てる、変える」の見極めをするために、準備しておくことが重要になる。業界の知見や世界の動き、自分のキャパシティを知る、蓄えるを日々積み重ねていく。小泉元首相曰く、「相撲の立会い」。「瞬時の判断力は相撲の立ち合いと同じ。立ち合いのとき、右に回って上手を引いて、次に・・なんて力士は考えていない。『一瞬の判断』。その為に稽古しているんだ。」(小泉純一郎)。一々立ち止まって考える暇はない。日々の時間の中で考え、イメージを積み重ねて、一瞬の判断力を養っておく。

孫正義のモットーに「10秒以上考えるな」と言うのがあるらしい。言葉の真意と合っているかはさておき、やたらと考え込まず素早く次の行動に移れるようにするために、日々の積み重ねが重要と思う。

洞察力を磨き続ける

優れた判断の前提として、必要なのは洞察力。もちろん判断の材料になるKPIは存在するが、そもそもKPIの設定を間違えるのが「新規事業あるある」。Lean startupをどれだけ読んだとしても、どれだけ方法論を学んだとしても、KPIの設定を一発必中させることはできない。更に言えば、設定すべきKPIは状況に応じて変わっていく。KPIではなくて、数字や客の表情の裏側にあるものを読み取る力が必要になる。

技術をどういう形で活かすのかを決めるのも洞察力。常に深く深く、とことんまで考えること。裏の裏を見るような気持ちでいること。

なんとなく数字が出ているからいいよね、とか、お客さんが喜んでくれているからいいよね、はほぼ失敗する。考えに考え抜いて(もちろん一々立ち止まらずに)、これが提供しているバリューだ!少しずつでもここの数字が伸びていけばイケる!と確信したものは成功する。これも当たり前のことなんだけど、「なんとなくイケてそう」なプロダクト設計で何度失敗したことか。。

モチベーションは自分管理。

モチベーションのコントロールには相当苦労した。やりたいことをやっているからどれだけやっても疲れないでしょ?なんて思われるかもしれないが、そんなに簡単ではない。スタートアップでは誰もモチベーションをコントロールしてくれない。壁にぶち当たった時に声をかけてくれる優しい先輩はいない。入れ込みすぎて生活のバランスを崩していても誰も止めてくれない。今やっていることに少しでも疑問を抱いてしまうと、どんどん際限なくデモチベーションが渦巻き始める。

特に、所謂ノマドワーカーとして、どこでも仕事できる(=オンオフが切り替えられない)状況にある人は、どうやって「完全オフ」を作れるかが大事。僕にとっては先輩が連れて行ってくれたサーフィンがブレークスルーだった。空と海しかない空間で次に来る波のことしか考えない時間が、事業運営に入れ込みすぎていた頭をリセットしてくれた。

「経営」は本当に大変。

株式をもらって経営陣の一角として会社運営に携わったが、いざ「経営」するとなると、身につけること、やることが無数にある。経験のない若い経営者が決断するためには、日々の勉強と、自分の能力を超えた所で手を動かし実戦経験を積むことの両方が必要。もちろん、サラリーマンであっても日々の勉強と業務が必要であることには変わりないが、切迫感や責任感が全く違う。

経営は面白いけど大変。大変だけど面白い。サラリーマンと比べて、ポジティブ・ネガティブの+ーでトントンぐらい。「楽しさが苦労を上回る」なんて、とてもじゃないけど言えない。ただ、毎日の楽しさの幅が違う。ジェットコースターのように毎日上下する。挑戦と経験が好きな人には間違いなくプラス。


最近思っていること

自分が「変態」であることを意識しよう

これは、先日ある人から言われた言葉。大企業からベンチャーに飛び込むような人は、多かれ少なかれ、人の常識とは離れたところにいる「変態」であると。資格を持っていてセーフティネットがあるから、とか、今まで積んだ経験はどんな業界でも活かせるから、とか、ベンチャーに飛び込むことに色々な理由づけはできるけれども、最終的には、単に面白いことがしたい、とか、他の人が思っても見ないようなことをやってみせたいから、という単なる変態的な欲求が行動の源だったりする。

ロジカルな理由をつけるよりも自分が変態であるということを意識することによって、どういう変態なのか、ということを深掘りしていける。ベンチャーに飛び込むという行動や事業家になりたいという将来像は、変態的欲望の発露だと気づけば、無用な使命感を感じずに済む。

ベンチャーで働くことはサーフィンと同じ

安定した大企業からベンチャーみたいな不安定なところに行ってよく怖くないね、とよく言われる。でもまずは海に入らないと波に乗れるようにならない。もちろん、波に乗れるようになるまでは何度も波に飲まれる。周りから見れば、わざわざあいつはなんでこの歳になってサーフィンに挑戦してるんだと思われることもあるだろう。

でも、波に飲まれて痛みを味わって次第に成長していく。浜の近くの方だと波は立つけど沖まで出れば意外と波に飲まれることはない、とか、でかい波にはあえて頭から突っ込んでいった方が楽に波をかわせるとか分かってくる。波に乗るためには、サーフボードにしがみつかずに重心を自分の体でコントロールすることが大切だ、とも。砂浜=安定した地べたにいれば波に飲まれることはないが、海で自由自在に動けるようにもならない。潮が変わって今いる砂浜が海に変わるかもしれない。

もちろん、ずっと荒波の中にサーフボード一枚で波に乗り続ける必要はないが、いつ何時海に放り出されても大丈夫だという自信を持っていると、大きな船や砂浜にいる時のできることの自由度も大きく変わってくると思う。人生に一度ぐらいはサーフィンをやってみてもいいんじゃない、とも思う。

企画する人になれ

なんだかんだ言ってFounder CEOが一番エラい。一番優秀だとか、リスクをとったからとか、最後は株式を持っている社長のいうことを聞かざるを得ないから、とかそういうことではない。やっぱり、自分でこれと決めて始めた人にはなんかよくわからないけど敵わない。

大上段に構えると、これからの時代は、会社名や役職名に変わって、自分がどういう社会課題を解決したいのかということが肩書きになる。と、あるイベントで聞いた(アクセンチュアの加治さんから)。今まで大会社にしかなかったインフラが、全て簡単に外部サービスで揃う時代がやって来る。インフラで差がつかなくなった時、競争優位性を持つのは、自ら企画する力。自分の取り組むミッションを定めて一直線に走れる人にはどんなスキルを持った人でも敵わない。

残念ながら、今の僕にはこれと決めたことは明確にはない(もちろん社会をこういう方向に持っていきたいという考えはあるけれども、自分の取り組むミッションだとは見定めきれていない)。

自分で何かを始めることをしなければ、いつか限界が来ると思う。スキルアップや成長で満足するのでなく、はね返されてもいいから、自分でこれと決めたことを少しずつでも取り組んでいきたい。

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