グッモーニンラブホテル

死ぬ前に、一番嫌いだったものはなんですかと聞かれたらたぶん。朝のラブホテルと答えるだろう。
冷房をつけるかつけないか、ききすぎるか無風の二択、極端なものは恐ろしい。
そうしてたいていシャワーの後やセックスの後というのは暑いもしくは熱いのでクーラーをつける。どうしてか私と寝る男は寝相の悪いやつばかりなので寒くて夜中に目がさめる。足元に追いやられたり独り占めされるぺらぺらの布団。心の拠り所にしてはいつも頼りないのだ。
トイレの灯りだけ点けて寝るので、室内はいつだって仄暗い。裸の足裏に張り付くぺたぺたして不潔な床。馬鹿みたいに少女趣味な壁紙で囲われたトイレさえよそよそしい。
もう一度滑り込んだベッド 枕元のリモコンで空調の温度を上げる。男から布団をひったくる。

そしてきたる朝。暗い。窓はぴったりと閉ざされていてそれでも壁との隙間から強い陽光がうようよ這い出してくるのを見ると辛くなる。とても悪いことをしているような気分になって隣を見ると愛おしくもない熱い物体。寒いし酷く喉が渇いている。空々しい。からっぽなのだったと思いだす。カラカラのからっぽ。私の喘ぎ声が大きいのは空のバケツほど大きな音を立てて転がるとかいうそんなようなものだからだ。
急いで服を着る。夏にはホテルを出たときの暑さにクラクラして世界に身体が馴染まない感覚をザラザラと舌の上で味わうことになる。
ラブホテルで迎える朝は最低の最悪、だけど記録を塗り替えるほど最低の最悪がもしかしたら老人になったりしたらあるかもしれないとおもうと俄然歳をとるのが恐ろしくなる。

#ラブホテル #朝 #小説

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