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第26章 せんべいアイスでも食べて、元気出して!

美優ちゃんが、山猫軒のドアを開けると、暖かい風とともに、ビーフシチューの香りがプンとした。中はお土産やさん。

マリーは、SLの文鎮を手に取った。フクロウのペン立てもある。どれも、南部鉄器で出来ていて、重厚に黒光りしていた。

「どっちにしようか...」

マリーは迷っていた。ふいに、マリーの肩で風が吹いた。

「界にお土産でしょ」

マリーの肩にとまったポポ子が笑った。

「い、いつのまに?!」

マリーは、ポポ子はマリーの肩にいるのに、仰け反った。

「界、文鎮なんて使う?ペン立てがいいよ!」

ポポ子は、フクロウを指差した。

「SLでいいのっ!」

「何やってるの? 賢さんごっこ? 風とおはなししてるの? 十三さんも!」

美優ちゃんが、マリーの横に立っていた。そして、マリーの肩に顔を近づけると、

「秋に、たんぽぽの綿毛かぁ。なんか、かわいいね!」

と笑った。そして、

「お土産は、あとあと! お腹空いちゃったよ!」と、マリーの手を取って、お土産屋さんの奥にあるレストランへと入って行った。


マリーは、メニューを見ながら、

「入り口に、『どなたも遠慮はいりません』てあったね!」

と、クスクス笑った。美優ちゃんは、テーブルの脇にあった塩の瓶を取って、身体にかける真似をした。そしてまた、2人で、クスクス笑った。

「おすすめはね、ひっつみ定食だよ!」

2人で同じ、ひっつみ定食を頼んだ。レストランの本棚には、宮沢賢治の本だらけ。お料理が来るまで、マリーは、絵本を手に取って、ペラペラめくった。『なめとこ山の熊』。


山猫軒のお土産屋さんで、SLの文鎮を買ったマリー。ポポ子は、「えー!」と、さっきから言うけど。

駐車場の脇から、階段で山を下りていくと、イーハトーブ館があった。ここにも、賢治さん関連の書籍がいっぱい。賢治さんは、花巻をイーハトーブと呼んでいたらしい。ユートピアって意味なんだって。

花時計の前で、美優ちゃんが、

「本当に、ここは、わたしにとっては、ユートピアだよ。いままで生きてきて、初めて、自分が自分でいられる」

そう言って、両手を挙げて深呼吸していた。山の透きとおった空気を全部吸い込むみたいに。そこらの楓がチラホラ紅葉し始めている。

美優ちゃんは、緑とオレンジのグラデーションな楓の葉を触りながら、

「あの赤ちゃん...」

と言いかけた。マリーは、美優ちゃんを見た。美優ちゃんは、あの時の美優ちゃんに戻っていた。マリーは、赤ちゃんの骨は、ちゃんとお寺に持って行って、供養してもらったんだよと言おうとしたけど、美優ちゃんが静かに泣いてる姿を見ていたら、いまはまだ言わない方がいいかなと思って、黙って、楓の葉っぱがサワサワ風に揺れるのを見ていた。

その後、2人で一番下まで下りて行って、道路を渡って、白鳥の停車場で、せんべいアイスを買って食べた。南部せんべいにバニラアイスを挟んだせんべいアイスは、いままでにない、画期的なアイス!って感じだった。

マリーが、美優ちゃんを見ると、美優ちゃんもマリーを見て、

「おいしいね!」

って笑った。

「うん! おいしい!」

マリーのせんべいアイスは、その時、しょっぱい味になっていた。


続く

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