SDGs AICHI EXPO 2023で聞いてみた!テクノ中部様から見た、中小企業のカーボンニュートラルの現在
こんにちは! 西川コミュニケーションズ(NICO)SDGs広報チーム“つつつ”の、ハッシーです。
NICOと「SDGsの包括的パートナーシップ協定」を結んでいるテクノ中部様が、日本最大級のSDGs推進フェア「SDGs AICHI EXPO 2023」[10月5日(木)~7日(土)]に出展されるとのことで、きたサンと一緒にブースにお伺いしてきました。
テクノ中部様の展示の中でも、特にNICOと関係が深いのが、企業のカーボンニュートラルの取り組みをサポートするコンサルティング事業。
そこで今回は、テクノ中部の担当者様にインタビューして、企業がカーボンニュートラルに取り組む必要性や現状、気を付けるべきポイントなど、気になるお話をたっぷりお聞きしてきました。さらにはSDGsの事業化のヒントもいただいた、テクノ中部様ブースの訪問レポートをお届けします!
SDGs AICHI EXPO 2023とは
テクノ中部様のブースにお伺いする前に、まずは会場内をぐるっと見て回りましょう。
このSDGs AICHI EXPO 2023は、「多様な力で実現するサステナブルな未来」をテーマに開催されたSDGs推進フェア。愛知県内を中心に企業や自治体、NPO、学校など約120の団体が出展しており、いろいろな立場の、いろいろな世代の人たちが集まって、サステナブルな未来を目指していくことを主目的としています。
イベント内容も盛りだくさん! 各ブースで出展者のさまざまな取り組みが紹介されているのはもちろん、講演やシンポジウムなどSDGsを学べるプログラムも充実していました。
ワークショップやクイズラリーなど、SDGsを楽しみながら学べるイベントも実施。
そのほか、会場内に設置されたスタンプを集めるスタンプラリーや、各家庭で使い切れない未使用食品を寄贈するフードドライブの受付なども。盛りだくさんのイベントには三日間の合計で14,000人ほどの来場者があったとか。特に私たちがお邪魔した7日(土)はファミリー向けの内容になっていて、会場内には家族連れの姿も目立つ楽しいイベントとなりました。
テクノ中部様のブースに訪問
会場をひととおり見て回ったあとは、この取材の本日のメイン、テクノ中部様のもとへ! ブースでは数あるテクノ中部様のSDGs関連事業のうち8つのメニューが展示されており、多くの人で賑わっていました。
NICOはテクノ中部様と「SDGsの包括的パートナーシップ協定」を結んでおり、「ゼロエミッション印刷」の実現、および「安心・安全な工場づくり」に向けて、相互支援の取り組みを開始しています。
テクノ中部様と「SDGsの包括的パートナーシップ協定を締結」のお知らせ | 西川コミュニケーションズ株式会社
カーボンニュートラル社会の実現に向けた、脱炭素コンサルティングとは
この日の展示内容のうち、中でもNICOと関係が深いのが、企業のGHG(温室効果ガス)の排出削減をサポートする脱炭素コンサルティング事業です。
脱炭素とは、つまり地球温暖化の主な原因となるCO2の排出量を実質的にゼロにすること。カーボンニュートラルもほぼ同じ意味で、排出した分と同じだけ吸収、または除去することで、差し引きゼロにすることをいいます。
日本では、2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指すことが、2020年に宣言されています。
以来、さまざまな取り組みが進み、例えば現在ではプライム市場※1の上場企業はTCFD※2の提言に沿った「財務に影響のある気候関連情報」の開示が求められています。
※1 プライム市場:東京証券取引所の株式市場のひとつ。2022年4月の市場区分の再編により運用が開始。
※2 TCFD:気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)
企業は今、自社の企業活動でどのくらいのGHG(温室効果ガス)を出していて、今後、何年かけてどのくらい減らしていくのか。
地球温暖化の抑制に効果が見込める数字を、しっかりとした根拠をもとに出していくべき、という時代になっているのです。
昨年、NICOが認定を取得した「SBT認定」も、この排出削減に関するもの。
NICOでもカーボンニュートラルの取り組みが始まっており、テクノ中部様にもサポートをしていただいています。
そこで今回は、この脱炭素コンサルティング事業について、テクノ中部営業部の北村さんに詳しいお話をお聞きしました。
「脱炭素コンサルティング」の概要について
―――まず事業の概要から教えてください。
北村: GHG排出量の算定から、削減目標の設定、削減対策の提案など、脱炭素化の支援を一貫してサポートするサービスです。
主な流れは以下のとおり。
①サプライチェーン排出量の算定支援
②脱炭素ロードマップの策定支援
③脱炭素化へ向けたソリューションの提案
となります。
なお、①のサプライチェーン排出量とは、企業の活動で排出されたすべてのGHG排出量のこと。Scope1〜3に分類されていて、そのうちScope1、2は自社内で消費する燃料や電気からの排出。Scope3はサプライチェーンの上流と下流、つまり他社から購入する原材料や、廃棄物からの排出などのことを指します。
GHG排出量削減は、このサプライチェーン全体で考えることが求められているのです。
ただこの算定が難しいんですよね。そもそもどのくらい出てるのかわからない。大企業なら自社のリソースのみで算定できるのですが、中小のサプライヤーとなると皆さんなかなか苦労されています。
そこで、排出量を算定してどの部分がGHGをたくさん出しているのか把握したうえで、どこをどのように減らしていけばいいのかまでサポートしますというのが、この脱炭素コンサルティングです。
―――これまでどのようなサポートをされてきましたか?
北村: 昨年は生コンクリートを製造する生コン会社のサポートをさせていただきました。
コンクリートの材料であるセメントの製造過程では、大量のCO2が排出されます。生コン会社にとってはScope3にあたるこの排出量が、生コン会社のサプライチェーン排出量の大部分を占めているんです。
事前にそれは予測されていたものの、実際に算定したところ、セメントの排出分が約9割という予想を大きく超える数字が出てきました。
では、これをどう減らしていくのか?
削減方法のひとつが、「フライアッシュ」という石炭灰をセメントの代替品として使うことです。
石炭灰とは、石炭火力発電所で石炭を燃やした際に出てくる灰のこと。細かい「フライアッシュ」と粗い「クリンカアッシュ」にわけられ、どちらも幅広い用途で利用されています。実はこの石炭灰の販売は弊社の事業のひとつであり、そのご縁もあって生コン会社のサポートをすることになったという経緯があります。
セメントをゼロにすることはできませんが、一部をこのフライアッシュに変えてコンクリートを作ることで、Scope3を大幅に減らせるんです。
―――フライアッシュは製造時にCO2を出さない素材なんでしょうか?
北村: フライアッシュはあくまで廃棄物なんです。フライアッシュが生成される際に出るCO2は、発電のための排出量として計算されます。結果、フライアッシュ自体のCO2排出量はゼロとなり、運搬時の排出量くらいしか計算されないため、Scope3が大きく減らせます。
もちろんCO2排出量を減らす方法はこのフライアッシュだけではありません。排出量が多い箇所はどこなのか、効果的に減らせるのはどの部分なのかを考えながら、さまざまなご提案をしています。
必要なのは、取り組んでいる姿勢を見せること
―――さまざまな企業のカーボンニュートラルの取り組みをご存知かと思います。多くの企業がつまずきがちな部分などがあれば教えてください。
北村: 先にもお話ししたように、特に中小のサプライヤーさんはサプライチェーンの算定に苦労されています。中でも難しいのが、Scope3の算定ですね。これはどの業界の方でもなかなか苦労されています。
―――どこが難しいポイントでしょう?
北村: 普段からCO2の排出削減という目線で流通管理をしているわけではないというのが大きいです。
例えば車で輸送するものだったら、CO2の排出量をどうやって測るのか。輸送距離なのか、使用燃料なのか? 排出量を測りたいのならそのためのデータをとっておく必要がありますが、どんなデータが必要なのかなんてこと、最初はなかなかわからないですよね。
―――確かに、NICOもSBT認定の際に排出量を算定していますが、担当者はかなり苦労していました。電気・ガス・ガソリンなどの支払いの資料は残っているものの、使用量まではわからなかったりして。それらをあとから調べるのは大変なんですね。
北村: そうなんですよ。私どもがコンサルティングさせていただく際、これから一年分のあれとこれを測りたいのでこういうデータをとってください、とお願いはできるんですが、過去一年分のあれとこれの数値を遡って出してください、となると難しいことが多いんですね。
私たちは計算の仕方はフォローできますが、その計算の元となる数値を出すのはやはりお客様にしかできません。そこは皆さん苦労されています。
ただ、一度やってみればいろいろとわかることがあります。難しくはあるけれど、とりあえずやってみるということが大事だと思います。
―――なるほど。難しいからといって尻込みしていてはいけないわけですね。
北村: そもそもサプライチェーン排出量の算定には、現時点では正解というものがありません。どうやって測るのかといった基準がまだないんですね。だからこそ難しいのですが。
だからといって自社に都合のいいようなやり方をしていいわけではなく、試行錯誤しながらやっていくことが重要です。今の時点では、厳密な数値を出すというよりは、いかにちゃんと取り組んでいるのかという姿勢を見せることが大事なんですよ。
―――いずれは正解が作られていくんでしょうか。
北村: そうでしょうね。いま、中部電力ミライズなどが設立した「炭素会計アドバイザー協会」という団体が、GHG排出量をいかに測るかの基準を作ろうと活動しています。
これは民間で作っている団体ですので、また別の民間団体でも同じような活動が始まるかもしれません。日本全体で、さらには国際的に標準化していこうという流れもあると思います。
大企業の取り組みが進み、これからは中小へ広がる
―――標準化がこれからと考えると、カーボンニュートラルの取り組み自体はまだ始まったばかりなんですね。
北村: カーボンニュートラルが話題になり始めたのも、まだここ数年の話ですからね。今は大企業が苦労して取り組んでいる段階だと思います。
ただ、大きな企業では自社の排出であるScope1、2はもう可能な限り減らしていて、次に減らしていくのはScope3、つまり仕入れ先で排出されるCO2だというところまできています。
となると、仕入れ先に削減をお願いするしかない。それができない仕入れ先は受け入れられませんとなっていきます。それが近い将来、中小企業の死活問題になる可能性があります。
―――NICOもそうですが、中小企業がGHGの排出削減に取り組まなければならない理由というのは、まさにそこなんですね。
北村: そうなんです。TCFDのような投資の話は中小企業には直接関係ないのですが、投資家の動向を気にする大企業から選ばれなくなってしまうことで間接的に影響してくるのですね。特に大企業の大きな生産ラインに乗っている会社ほど、影響が大きくなります。
―――では、中小企業の取り組みはこれから増えていくのでしょうね。
北村: そうでしょうね。大企業の下請けでも、一次や二次の大きな企業はもう取り組み始めています。そしてそれらの企業がScope1、2を減らせるだけ減らしたら、次に削減を求められるのはそのさらに下請けをしている中小企業です。もうじきにそこまで来ると思いますよ。
認識の浸透と、パートナーシップが取り組み成功の鍵
―――では、これから排出削減を始めるとなったとき、企業はどこに気を付けていけばいいのでしょう?
北村: 経営層に排出削減の必要性を認識していただくことがまずひとつです。そして、それを従業員一人ひとりに浸透させること。
排出量の算定だとか、削減対策だとか、実際に動くのは従業員です。どうしてこんなことをやるんだって、大変な仕事になればなるほどどうしても思ってしまいますからね。認識の浸透は重要です。
―――直接的に売り上げになるわけでもない仕事ですから、意識をどこに持っておくかは重要ですね。
北村: そうなんです。環境に配慮した企業であることを社会的に求められる時代になったということを、しっかり考えていただかなければなりません。
一方で、中小企業が自社だけで取り組むのは難しい部分もあると思うんです。例えばScope2は電気、熱・蒸気からの排出ですが、大半の発電方法はCO2が出るんですよ。風力などの再生可能エネルギーでの発電を進めない限りは、CO2は大きく減っていきません。
かといって、どんどん再生可能エネルギーに切り替えていけばいいのかというと、そう簡単な話ではない。再生可能エネルギー自体が環境に負荷を与える可能性もあって、反対意見もあります。そこは行政がきちんと道筋をつけてくれないと、民間企業だけで解決できる話ではなくなってきます。
さらにいうと教育面も必要です。今の若い方たちは環境や再生可能エネルギーについてよく勉強されていますよね。自然環境に対する影響なども含めて、今後、私たちは将来どういう発電方法を選んでいくのか。そういう教育も含めてやっていかないと、なかなか2050年のカーボンニュートラル実現というのは難しいだろうと思います。
―――だからこそ、NICOとテクノ中部様のようにパートナーシップ協定を結んで、協力していくことが重要になるのですね。
北村: まさにそうです。大企業なら専門部署を作って自社内であれもこれもとできるだけのリソースがあるのですが、中小企業は自社だけですべてに取り組むのは難しいですよね。
弊社の事業はいずれも環境に結びついたものですので、これらを通じてさまざまな企業をサポートし、SDGs達成に貢献していきたいと考えています。最近ではさらに環境教育(ESD※3)にも幅を広げて、社会貢献的な分野にも幅を広げているんですよ。弊社の技術でできることで、皆さんのお役に立てたらうれしいです。
※3 ESD:Education for Sustainable Development。持続可能な開発のための教育
―――ありがとうございました! NICOもテクノ中部様のサポートをいただきながら、カーボンニュートラルの取り組みを進めていきます。
環境教育の取り組みから学ぶ、SDGs事業化のヒント
北村さんのお話に出てきた環境教育はブースでも紹介されており、こちらはSDGsの事業化という点でもとても興味深いお話を聞くことができました。
「環境教育には助成金も出ていて、学校でも積極的にやりたがっているものの、教えられる人が少ないんですよ」と、説明してくださったのはテクノ中部企画部の陸田さん。
この事業のベースになったのは、環境アセスメントの一環として行われていた遺伝子解析。川の水などに含まれているDNAを抽出・精製して解析し、そこにどんな生き物がどのくらい生息しているのか、捕獲することなく確認できるという調査です。
この調査結果を報告するのと同時に、遺伝子解析とはどういったものか、その原理や調査方法を説明してほしいと求められることも多かったのだとか。
「そこで弊社の従業員が先生役になって、講義のようなものをしていました。そのうち、これは事業になるのでは、と考えるようになったんです」と陸田さん。
実際に学校向けにWeb講義をしてみたところ、これが大好評。そこから、ホタルの観察会や星空の観察会といった、子どもから大人まで参加できる多様なプログラムの開発に至ったそうです。
現在では他社や環境保全団体にもお声がけして外部のイベントも取り込み、コンテンツの充実を目指しているとのこと。
陸田さんは「どの企業でも、自社の技術や知見といった何か誇れるものを持っています。それが教育商材になるんですよ」とおっしゃいます。
この視点がとても新鮮で、思わず「なるほど」と声を上げてしまいました。
企業のSDGsは事業活動と結びついたものでなくてはならないとは、よく言われること。利益が出ない社会貢献活動だけでは継続していくことが難しく、それは持続可能な社会の実現を目指すSDGsの理念からは離れるからです。
とはいえSDGsの事業化はなかなか難題で、NICOでも試行錯誤している現状があります。技術や知見そのものが商材になるという視点は、SDGsの事業化を考える上で新たなヒントになるのではないでしょうか。
その後は海底の藻場の再生事業や洋上風力発電事業支援、ドローン調査、石綿(アスベスト)の事前調査といった、テクノ中部様の豊富なメニューをご紹介いただき、ブース訪問を終えました。
カーボンニュートラルの現状からSDGsの事業化まで、さまざまな気づきを得ることができたイベント訪問になりました。テクノ中部様、ありがとうございました。
なお、優れたブースに対する来場者投票で、テクノ中部様のブースは6位に選ばれたそうです。充実した内容で訪れる方も多かったので、納得です!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?