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祝 秘密連載再

 しばらく休載していた漫画「秘密」が、この秋に連載が始まるので心待ちにしています。今年の初めに「秘密」を知ったばかりなので、とても嬉しいです。

 主人公の薪さんは天才で超美人、小柄な男性。外見が実年齢より異常に若く、ワーカホリックでえらい人にも容赦なく物申す。事件の捜査では私情をはさまず冷静に検証事実に迫る。若いのに警視長、警察のエリートです。性格は弱者に寄り添う優しさをもちながら、異常な犯罪者の邪悪さを理解し共感する危うい面があります。

 薪さんが警察で立ち上げた「第九」は、M R Iで死者の脳の記憶から証拠を探す画期的な方法で事件を捜査します。そのため世間では死者のプライバシーを暴き尊厳を踏み躙ると忌まわしい印象をもたれています。第九の捜査員は死者の記憶が映し出す悲惨な場面の画像を見続けるため、タフでないと務まりません。薪さんは部下に第九に向かないなら辞めろとすぐキツイ態度をとりますが、異常な犯罪者の脳に引きずられて「あちら側」へいかないように、つまり精神が壊れる前に第九から離れろ、と暗に伝えているのです。

 薪さんの腹心の部下岡部さんは、初対面の印象が最悪で、この人の下で働くのは無理、とすぐ移動届けを書きます。しかし薪さんがほんの一ヶ月前に起きた事件のトラウマに耐えながら真摯に事件を捜査していたことに気付くと一転、薪さんを支えて第九で働く決断をします。 

 公正な判断をするためには被害者の脳の捜査だけでなく加害者の脳の捜査も必要だと言う薪さん。捜査の必要性がないと思われていた加害者の脳の画像には、本人の心痛から発症した認知の歪みが映し出され、事件の動機が大きく修正されます。第九は現場の捜査を軽視すると、文句を言っていた岡部さんが気持ちを変えたのは、目に見えるものだけを証拠にすると、事件の真実に迫れないだけでなく誤った判断をしかねないことを目の当たりにしたからです。

 物語は共に第九を立ち上げた親友や部下を亡くした後、岡部さん達に支えられて第九の室長を務める薪さんと、新人捜査捜査員の青木の出会いから始まります。青木は薪さんの見た目の若さと美貌に驚きますが、すぐに膨大な知識と捜査した証拠を元に優れた洞察力で捜査を進める姿に圧倒されます。そして厳しい薪さんに部下がついていくのは、皆が彼に憧れそのようになりたいからなのだ、と知ります。青木は捜査に夢中になると思ったことをすぐに実行して薪さん達を振り回しますが、結果として事件の解決に繋がる活躍をします。

 最初、薪さんは青木に亡き親友の面影を重ねていましたが、次第に被害者のために捨て身の捜査をしたり、自分を襲った加害者の罪を自分のミスによる事故と報告したりして庇う青木の優しさや人間性に惹かれていきます。
 青木は薪さんを上司として尊敬しずっと一緒に仕事ができると思っていましたが、第九が全国展開するため、第九のメンバー達と離れて自分の担当地域に赴任することになります。薪さんと第九で働いた時間が自分にとってかけがえのないものであることに気づいた青木は、もう一緒に仕事をすることが叶わないなら、プライベートで薪さんと繋がりをもちたいと手紙を出します。秘密の無印最後のエピソード「一期一会」では、その手紙が薪さんに届いた場面で終わります。
 続編のSEOSEN0では、薪さんは手紙を読んでますが返事は出していません。
 
 随分前のインタビューで、清水先生は無印以降は二人の関係より第九で捜査する事件をメインに書きたいとお話しているのをどこかで読みました。清水先生はいろいろな話が書けるから「秘密」を始めたそうです。新章が始まる度に、全く違う内容になるので、いつも新鮮な気持ちで読めるのも魅力の一つです。曽我さんが好きなので、曽我さん担当区で事件が起きて、薪さんが曽我さんをいびりながら遠隔サポートする事件など、読んでみたいものです。

 私の大好きな上橋菜穂子さんの「精霊の守り人」シリーズでは、シリーズの途中で突然主人公のバルサとタンダが付き合いだしていました。二人が思い合っていることはずっと書いてありましたが、そうなるまでの過程は何も書いてないので、大人は察したけど、子供のファンが驚いたそうです。なので、薪さんと青木が突然付き合い?だし、後から小出しにいきさつをだすのもありかなあ、と思います。

 「秘密」は少年法や児童虐待、介護の負担など社会的に問題になっていることが事件の題材になり、いつも読んだ後考えさせられます。年老いた親の介護を一人で負担する家族の苦しさなど、漫画であまり見ないテーマです。清水先生よく取り上げてくれた、と思いました。

 捜査する間に登場人物のそれまでの価値感が揺らぐ場面が出てきて、「悪戯」では、泣きながらM R Iの画面を見る岡部さんに薪さんが、人間が邪悪ですまないと心の中で呟きます。薪さんが人間の邪悪さや弱さを目の当たりにしながら、強靭な精神でひるまず捜査する姿に心を打たれます。

 薪さんは壮絶な生い立ちもあり、人間の醜い有り様を達観し諦めながら、それでも人間を信じようとします。青木が周囲に注ぐ優しさや穏やかさは、薪さんが事件や現実の世界で辛いことを見ても、まだ信じようという気持ちの支えになっていると思います。

 原画展の詳細も分かってきて、楽しみが増えました。清水先生の絵はどれだけ繊細で綺麗でしょう。薪さんファンなので、薪さんが沢山見たいです。

おまけ おすすめのエピソード
1 可視光線
 このお話は無印12巻と創世記のあと読むのがおすすめです。桜木さんが薪さんへ、亡くなった親友や部下たちのために第九を続けたんだろう、と語る場面が切ないです。薪さんが事件を起こした犯人の不幸な境遇によせる思いや、桜木さんへの共感など描かれ薪さんの魅力が詰まっています。お話としても、まとまっていてすごく好きです。薪さんが自分と桜木さんは似ているけど、彼の地獄は分からないと泣く場面は胸がつまります。

2 A  PIECE OF ILLUSION
 薪さんと岡部さんの出会いの話。最後、岡部さんに部下だから敬語はやめてくれ、と言われる薪さんの表情にぐっときます。上の文で書いた事件です。

3 原罪
 薪さんが天才的知能犯タジクに何度も先を越され振り回されますが、青木が身を挺して事件を防ぎます。青木が刺されて大怪我をしたので薪さんが怒り、すごい行動力で事件を解決します。薪さんが青木を好きな理由がよく分かるお話。

4  END GAME
 リアルタイムで読んでいたら、すごく怖かったと思います。事件に巻き込まれた青木の苦悩と薪さんの自責が辛いです。追い詰められた二人が共依存のようになり精神的にギリギリの状態で捜査を進めます。岡部さんが一人で闘う薪さんを「もう誰も犠牲にしないんでしょう?」と説得し、薪さんだけが知るレベル5の秘密を打ち明けさせます。青木は、データを持ち出して逃亡し警察上層部から拳銃の発砲許可がでた薪さんを助けようと必死に追います。事件解決後のエピローグ「一期一会」では、アメリカで再会した二人が描かれ、最後、薪さんはまた守りたいものができた、と涙を流します。

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#漫画感想文


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