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【まじょの小噺】姉を弥生人にした話

こんばんは。PisMaです。

今日はまじょの小噺です。
なんとも言えないけど鮮明に記憶に残っている話を書きます。今回は猪突猛進しすぎて、姉を弥生人にした話。

私は雨が嫌いでした。

若い頃でしたので、移動手段が徒歩しかなく、雨の日でも風の日でも己の足が移動手段だったものです。

雨の日は傘を差して長靴を履くのですが、正直傘を差しても風があると身体の方に吹き込んできますし、傘からリュックがはみ出るとそこだけ濡れる。服も濡れて気持ちが悪い。
靴はちゃんと足の差し込み口をきちんと閉じない限りそこから雨が入ったりします。
当然びしゃびしゃになると色んなところに撥ねますし、普通の靴で雨に降られてしまった日なんて靴が一足死にます。乾かすのにも一苦労でした。

雨の日は移動において最悪だと常に思い続けており、足元はどうにもならないからせめて服だけでも凄まじく乾く服を着たいと思ったのです。

今考えると撥水加工の上下別れたジャージとかを探せば良かったんじゃないかと思うのですが、もはやその濡れた服を脱いだり乾かしたりするのすら煩わしい。その頃の私は何故か既存の素材で「作れないか」と思い、服に詳しい方にわざわざ相談したりしていました。
姉にそんな服を作る予定なんだと相談すると「服を作るならぜひ試着したい」と喜びます。雨で役に立つ服のつもりでしたが、まあ着たいなら着ていいよと承諾しました。姉は服が好きだったので、楽しみにしているようでした。

服に詳しい方からいただいた解答は、「麻は吸水性に優れ速乾ではないもののすぐに乾く」と教えていただきました。その解答をいただいてから私は「麻で服を作らなければ」と思いました。

雨への怨嗟でおかしくなっていたのだと思います。外を歩く日が多すぎて、かつ雨に煩わしい思いをする日が多すぎて、雨に濡れるのを防ぎたい衝動で突き動かされていました。
水に強い服が欲しいだけだったのに、撥水加工もない普通の麻で洋裁初心者が服を作ろうとしている。
これだけで絶対まずいものが出来上がるのに、もはや世紀の発明品を作るくらいの勢いで猛然と動いていました。若さを感じます。

暴走機関車と化した私は麻を買い、糸を買い、知り合いに洋裁を教えてもらいながら縫い続けました。
まさかの手縫いです。ゴリゴリと手で縫い続け、とりあえずそれらしい服が出来ました。
出来上がったのはワンピースでした。

「なに!?作ってた服ワンピースになったの!?着たい!」と、止める間もなく楽しみにしていた服を嬉々として着る姉。

そこには弥生人が立っていました。

昔の人はこういうのを着ていたんだよ、と社会科の授業資料で紹介されそうなほど完璧な麻のワンピースでした。姉が一気に資料館の人形になりました。
姉は縄文顔ではなく弥生顔なんだと謎の確信を得ましたが、何も言えませんでした。

初めての洋裁だったこともあり粗が目立ち、肩周りが非常に動かしにくい模様。硬い麻に身動きを封じられつつもぎこちなく歩こうとする姉。
あのときの微妙を極めた顔を忘れることができません。私を罵倒するわけでもなく、怒るわけでもなかったのがいたたまれなかった。

あの姉の微妙そうな顔で、私はやっと「これ、ちょっと間違ってるかもしれない」と気づいたのでした。

現在は車を扱えるようになったので、微塵も濡れないまま雨風の中を移動できるようになってしまいました。あの己の不快を解消するために生まれた情熱はもう帰ってこないのかと思うと、少し寂しいような、安心するような感覚がします。

雨への復讐心だけで服を作り、結局は成果を得ることが出来なかった私ですが、結構服を作るのは新鮮で面白かったです。あの微妙な顔を見てからはふっと服を作る欲が消えてしまいましたが、突然リベンジしたら姉はどんな顔をするのでしょう。いつか姉が微妙な顔をしない服を作れる日が来たら、結構面白いかもしれません。


長くなってしまいました。ここまで読んだ方がいるか分かりませんが、本日はここまで。

お相手は黄緑の魔女PisMaでした。
家族は弥生人にしてはいけません。

おやすみなさい。

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