短編小説 死霊

土手を犬と毎日、散歩する

健康的だと言われるが精神的には

不健康極まりないのだ

歩いても歩いても心は晴れない

犬の散歩が日課だった

今は僕の日課になっている

妻がよそ見をした車に引かれた……

この散歩中に……

だから散歩が僕の日課になった

そして

妻が引かれた時と同じ道を毎日歩いている

なぜ?

分からない

いや、

本当は分かってる

死んだ妻に今もすがっているのだろう

みっともないな

そんなことをぼんやり考えながら歩く

風の音と犬のハッハッという声しか聞こえない

土手を降りて家に戻る道に出たとき

自販機が目に入った

なにか買おうか

自販機を覗くとやたらと黒いジュースが目に入った。

死霊が見えるミエールα
生き霊が見えるミエールz

最近はふざけた名前の商品が多いがこれは炎上しそうな名前だ

「くだらない」

そう言いながら自然とミエールαを買っていた。

理由は分かりきってる。

犬は真っ直ぐ僕を見ている。

ぷしゅっと音がでた。

一息ついてから飲む。

流行りのエナジードリンク系の味で不味くはない。

半分程飲んで、辺りを見回すがなにも見えない。

地面を見つめる。

どれ程、自分が惨めか噛み締めていると

急に強い目眩が起こった。

ふらふらと転びそうになるが、踏みとどまった。

なんだ?

頭を軽く振るっていると

息が止まった。

犬に妻が乗っていた

「えっ!?」

思わず声が出た。

妻はこちらを見て、

見つかった!という顔をしている。

思わず、「バレたじゃないよ」と、突っ込んでいた

昔、犬にのれるかなと聞かれたことがあったなと何となく思い出していた。

そして、いくらゴールデンレトリバーでも無理だし可哀想でしょと返したことも思い出した。

「降りなさい。」と伝えると少しガッカリした顔で妻は愛犬から降りた。

ずっと会えなかったのに自然と夫婦になっていた。

「ずっとそばにいたの?」

そう聞くと妻は頷いた。

「そうだったんだ。ごめんな。」

妻は首をふった。

「家に帰ろう」

そう言って妻の手をつかんだが感触はなかった。

でも暖かい。

そう思った。

帰り道、色んなことを話した。

たくさんのことを話した。

端から見れば大きな独り言を話している人にしか見えないだろうがそんなことは関係なかった。

あと少しで家に着くという時、僕は足を止めた。

妻を見ると妻はわかってるという顔をしていた。

でも、伝えないといけない。

「ずっと逢いたかったんだ」

喉が詰まる

「でも、ずっとそばにいてくれたんだよね。」

声が震える

「僕はもう大丈夫だから」

視界が滲んだ

「ずっと、愛してる」

妻は優しく微笑んで、僕を抱き締めた。

僕は目を擦り、改めて妻の感触のない手を握り、家に帰る。

家の前に着いた時、手の中にいた温もりが消えた。

愛犬は大きく吠えた。

「行っちゃったか。」

「まったく驚いたよな」

「お前に乗っかってるんだもん」

「あいつらしいけど、重かったんじゃないか?」

愛犬はなにも答えない。

僕は泣いた。

大声で泣いた。

家の玄関前にうずくまり、泣き続けた。

そして、日常に戻る。

妻はいなくなってしまったけど

時計に電池をいれたような日常に僕は戻った。

#小説 #短編小説

ちょっとしたエピローグは有料ですのでご了承ください。
あとがきを追記しました。

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