消毒液の話

皆さまはじめまして。私は大学院で化学系の研究をしている者です。名前は二ヒコテとでも呼んでいただけると嬉しいです。国語は苦手なので文章作成にはあまり自信がないですが優しい目で気楽に読んでいただければ幸いです。

疑惑コロナで危うく死にかけていたので更新が遅れ、大変失礼しました(検査では一応陰性でしたが、高熱が数日引かず大変でした・・・)。なので今日は消毒液の話をしていこうかと思います。今更ながらですが、新型コロナには十分気をつけてください。

まず新型コロナで大いに注目されたのはエタノール。エタノールは有機化学はもちろんのこと、理論化学でも頻繁に登場します(蒸気圧辺りでは特に)。エタノールの示性式はC₂H₅OHと書きます。このーOHヒドロキシ基と言い、この官能基があることによって、アルコールの特徴を示します(前のC₂H₅ーは炭化水素基で、Cの数が変わると微妙に性質が変わります。でもーOHがある以上はアルコールとしての性質は共通です)。

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ーOHで注目すべき点は、O原子とH原子間で水素結合を形成するということです。水素結合は分子間力(ファンデルワールス力など)と比べて強力な結合となります(共有結合などには及びませんが)。水素結合があることによって同じ炭素数の別の有機化合物と比べて沸点が上昇する傾向があります(エタンC₂H₆の沸点は-89℃に対し、エタノールC₂H₅OHの沸点は78.3℃もあります)。理由は簡単で、本来液体を気体にするため(分子間力を振り切る)のに必要な熱エネルギーにプラスして、ヒドロキシ基内の水素結合を振り切るために余計に熱エネルギーを要するからです。

ではなぜエタノールで消毒できるのか?それはエタノールがウイルスの細胞膜(タンパク質の一種)を破壊することができるからなのです。そもそもタンパク質内には水素結合が多数あります。エタノールのもつヒドロキシ基がタンパク質内の水素結合を破壊するのに重要な役割を果たします。

ここで電気陰性度の話が絡んでくるのですが、Oは電気陰性度は非常に大きい元素です(Fの次に大きいです)。O原子は電子を非常に受け取りやすいので(電子求引性があるという言い方をします)、タンパク質内の水素結合から積極的に電子を奪うことができるのです。この電気陰性度の違でタンパク質内の水素結合がエタノールのもつヒドロキシ基によって破壊され、タンパク質が変性(外部からの作用によって構造が変化)し、やがて失活(作用を失う)します。失活すれば毒性を失うので、無事消毒完了となるわけです。

ならヒドロキシ基があれば別にエタノールじゃなくてもいいのでは?理論上は確かにそうなのですが、エタノールが一番身近なのでエタノールを使用するのが一般的です。ちなみにメタノールCH₃OHにも消毒作用はあります。でもメタノールは消毒目的で使うにはあまりにも危険です。メタノールの正式名称はメチルアルコール。その恐ろしさは文字通り「目散る」です。目に入れば本当に失明します。体内でホルムアルデヒドHCHO(ホルマリン溶液の原料やシックハウス症候群の原因となる物質)やギ酸HCOOH(アリのもつ毒成分)という有害な物質ができてしまうからです。最悪の場合は死にます。メタノールは劇物認定されているほど毒性の強い物質です。なのでこんな物質を消毒に使おうなんて考えない方がいいです。

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他に消毒液として注目されたのは次亜塩素酸ナトリウム。次亜塩素酸は安価だし作るのも簡単です(塩素を水に溶かすだけです)。次亜塩素酸が消毒に使える理由はただひとつ。それは次亜塩素酸がもつ酸化力の高さです。高い酸化力がウイルスの活性を抑制します。次亜塩素酸水は日持ちしないので次亜塩素酸ナトリウムとして保存するのが一般的です。次亜塩素酸ナトリウムは長持ちしますし、次亜塩素酸水と同様の効果があります。

先程登場したホルムアルデヒドも体内では有毒ですが、消毒作用があります。用途の大半はホルマリン溶液(濃度37%のホルムアルデヒド水溶液)です。ホルマリン漬けという言葉もありますが、目的は標本物が腐るのを防ぐためです。腐らせる原因となる菌や微生物から守る為の消毒なのでまたエタノールとは用途が異なります。アルデヒド系の消毒剤は人間にとっては有毒なことが多いのですが、フタラールグルタラールは内視鏡の消毒に使うので、医歯薬系の方には馴染みがあるかと思います。

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最後に吉村知事の黒歴sh・・・失礼しました、であるポビドンヨードはヨウ素系の消毒剤となります。新型コロナに対して有効かは不明ですが、喉の消毒に効果があるのは間違いありません。これもヨウ素の持つ高い酸化力を利用して殺菌を行います。殺菌消毒剤ではあまり効かない細菌や微生物にも効果が一定の効果があるとされています。

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まだまだコロナの収束は遠そうですが、感染症予防は引き続き行うようにしていただけると嬉しい限りです。

皆さまとの出会いに感謝、略してC₁₀H₂₂です!

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