働く人いなければお金の力は消える 田内学さんが語る「不安の正体」
――少子高齢化で、労働力人口が2割減、つまり「8がけ」になると予想される2040年。すでに、様々な分野で働く人の不足が顕在化し始めています。今後、社会が成り立っていくのか、不安は大きいです。
★不安の源泉は、問題を解決する人の不足です。そもそも、私たちの社会は、誰かが働いてくれることで成り立っています。逆にいえば、働く人がいなければお金の力は消えます。
――とはいえ、政府は個人の預貯金を投資に回すことで、老後不安を解消しようとしています。
資産運用立国で日本復活というストーリーは、あまりにお花畑的で心配しています。2019年に『老後資金が2千万円不足する』という金融庁の報告書が出ました。確かに、個人にとってお金は大事ですが、いくらみんなが上手に資産運用してお金を増やしたとしても、将来の不安は解決しません。
――なぜでしょうか。
根本的な問題は、私たちが老後に働けなくなったとき、介護や医療を含めて、必要なサービスを提供するために働く人が減ってしまうからです。社会全体で労働やモノが不足しているときは、お金ではどうすることもできません。
(略)
(少子化対策について)
いまの親たちが他の人に協力を求めるには、お金を払って託児や家事代行のサービスを利用するしかない。その金銭的な支援をする必要があります。税や社会保険料として払ったお金のむこうで誰が働いて、誰が幸せになるかに注目すべきです。
そして何よりも、僕たち一人ひとりが『社会で子どもを育てている』という意識を持つことが必要です。しかし、GDPを伴わない無償の助け合いは経済活動にカウントされず、道徳の領域に追いやられてしまう。人々が助け合って生活するために経済が存在し、お金は助け合う手段の一つに過ぎません。
――各地の現場を取材していると、人口減少や働き手の不足は、ゆっくり進む災害のような気がしています。
災害が起きたとき、多くのボランティアが被災地に入るようになりました。いくらお金があっても、現場で助けてくれる人がいないと目的は達成できない。だからこそ幅広い連帯感が生まれ、僕たちは『日常生活を取り戻す』という目的を共有できるのです。
(2024年1月13日朝日新聞 聞き手・浜田陽太郎 より)
〈ことば〉分野…あるものごとのかかわる範囲。
顕在…はっきり形に表れて存在すること。
源泉…①水や温泉が湧き出るもと。 ②ものごとが生まれるも
と。
投資…利益を得る目的で先に資金を出すこと。
解消…ある状態や関係、決めごとがなくなること。
資産…個人または法人が持つ土地、家屋、金銭などの財産。
資産運用は、そのような財産を投資に使って増やすこと。
託児…乳幼児を預けて世話をたのむこと。
無償…報酬のないこと。報酬は、働いたり物の使用の対価として
もらう金品。
道徳…社会生活の秩序をなりたたせるために、個人が守るべき
規範。
領域…あるものの関係する範囲。
被災地…災害を受けたところ。
1 田中さんは、★「問題を解決する人」について、具体的にどんな人だと言
っていますか。
2 田中さんは、少子化対策を行う際わたしたちが心がけることを2つ上げて
います。 それはどんなことですか。
3 田中さんはお金についてどう言っていますか。次の文の( )に入る言葉
を、文章中から探しなさい。
・( 4字 )の不足は大きな問題だが、それはあくまで個人的なことだ。
・( 5字 )は社会の問題であり、税や社会保険料として払う先にあるも
のに目を向けるべきだ。
・人々が助け合って生活するために( 2字 )が存在し、( 2字 )は助け
合う手段の一つに過ぎない。
*もう一度読んでみよう。
――少子高齢化で、労働力人口が2割減、つまり「8がけ」になると予想される2040年。すでに、様々な分野で働く人の不足が顕在化し始めています。今後、社会が成り立っていくのか、不安は大きいです。
不安の源泉は、問題を解決する人の不足です。そもそも、私たちの社会は、誰かが働いてくれることで成り立っています。逆にいえば、働く人がいなければお金の力は消えます。
――とはいえ、政府は個人の預貯金を投資に回すことで、老後不安を解消しようとしています。
資産運用立国で日本復活というストーリーは、あまりにお花畑的で心配しています。2019年に『老後資金が2千万円不足する』という金融庁の報告書が出ました。確かに、個人にとってお金は大事ですが、いくらみんなが上手に資産運用してお金を増やしたとしても、将来の不安は解決しません。
――なぜでしょうか。
根本的な問題は、私たちが老後に働けなくなったとき、介護や医療を含めて、必要なサービスを提供するために働く人が減ってしまうからです。社会全体で労働やモノが不足しているときは、お金ではどうすることもできません。
(略)
(少子化対策について)
いまの親たちが他の人に協力を求めるには、お金を払って託児や家事代行のサービスを利用するしかない。その金銭的な支援をする必要があります。税や社会保険料として払ったお金のむこうで誰が働いて、誰が幸せになるかに注目すべきです。
そして何よりも、僕たち一人ひとりが『社会で子どもを育てている』という意識を持つことが必要です。しかし、GDPを伴わない無償の助け合いは経済活動にカウントされず、道徳の領域に追いやられてしまう。人々が助け合って生活するために経済が存在し、お金は助け合う手段の一つに過ぎません。
――各地の現場を取材していると、人口減少や働き手の不足は、ゆっくり進む災害のような気がしています。
災害が起きたとき、多くのボランティアが被災地に入るようになりました。いくらお金があっても、現場で助けてくれる人がいないと目的は達成できない。だからこそ幅広い連帯感が生まれ、僕たちは『日常生活を取り戻す』という目的を共有できるのです。
〈こたえ〉
1 働く人
2・働く人が、託児や家事代行のサービスを利用するときの金銭的な支援。
・『社会で子どもを育てている』という意識を持つこと。
3 老後資金、少子高齢化、経済、お金
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