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働く人いなければお金の力は消える  田内学さんが語る「不安の正体」


ゴールドマン・サックス証券の元トレーダーで、「社会的金融教育家」として活動する田内(45)さんの近著(東洋経済新報社)。10万部を突破した。

 ――少子高齢化しょうしこうれいかで、労働力人口ろうどうりょくじんこうが2割減わりげん、つまり「8がけ」になると予想よそうされる2040年。すでに、様々さまざま分野ぶんやはたらく人の不足ふそく顕在化けんざいかはじめています。今後こんご社会しゃかいっていくのか、不安ふあんは大きいです。
 ★不安の源泉げんせんは、問題もんだい解決かいけつする人の不足です。そもそも、わたくしたちの社会しゃかいは、だれかがはたらいてくれることで成り立っています。ぎゃくにいえば、働く人がいなければおかねちからえます。
 ――とはいえ、政府せいふ個人こじん預貯金よちょきん投資とうしまわすことで、老後不安ろうごふあん解消かいしょうしようとしています。
 資産運用立国しさんうんようりっこく日本復活にほんふっかつというストーリーは、あまりにお花畑的はなばたけてき心配しんぱいしています。2019年に『老後資金ろうごしきんが2千万円不足する』という金融庁きんゆうちょう報告書ほうこくしょました。たしかに、個人こじんにとってお金は大事だいじですが、いくらみんなが上手じょうず資産運用しさんうんようしてお金をやしたとしても、将来しょうらいの不安は解決かいけつしません。
 ――なぜでしょうか。
 根本的こんぽんてき問題もんだいは、私たちが老後ろうごはたらけなくなったとき、介護かいご医療いりょうふくめて、必要ひつようなサービスを提供ていきょうするためにはたらく人がってしまうからです。社会全体しゃかいぜんたい労働ろうどうやモノが不足ふそくしているときは、お金ではどうすることもできません。
                (略) 
(少子化対策しょうしかたいさくについて)
 いまのおやたちがほかの人に協力きょうりょくもとめるには、おかねはらって託児たくじ家事かじ代行だいこうのサービスを利用りようするしかない。その金銭的きんせんてき支援しえんをする必要ひつようがあります。ぜい社会保険料しゃかいほけんりょうとして払ったお金のむこうでだれが働いて、誰がしあわせになるかに注目ちゅうもくすべきです。
 そしてなによりも、ぼくたち一人ひとりが『社会しゃかいで子どもをそだてている』という意識いしきつことが必要ひつようです。しかし、GDPをともなわない無償むしょうたすけ合いは経済活動けいざいかつどうにカウントされず、道徳どうとく領域りょういきいやられてしまう。人々ひとびとたすけ合って生活せいかつするために経済けいざい存在そんざいし、お金は助け合う手段しゅだんの一つにぎません。
 ――各地かくち現場げんば取材しゅざいしていると、人口減少じんこうげんしょうはたらの不足は、ゆっくりすす災害さいがいのようながしています。
 災害がきたとき、おおくのボランティアが被災地ひさいちはいるようになりました。いくらお金があっても、現場げんばたすけてくれる人がいないと目的もくてき達成たっせいできない。だからこそ幅広はばひろ連帯感れんたいかんまれ、ぼくたちは『日常生活にちじょうせいかつもどす』という目的もくてき共有きょうゆうできるのです。      
       (2024年1月13日朝日新聞 聞き手・浜田陽太郎 より)


〈ことば〉分野…あるものごとのかかわる範囲はんい
     顕在…はっきり形に表れて存在そんざいすること。
     源泉…①水や温泉おんせんき出るもと。 ②ものごとが生まれるも
        と。
     投資…利益りえき目的もくてきさき資金しきんを出すこと。
     解消…ある状態じょうたい関係かんけいめごとがなくなること。
     資産…個人こじんまたは法人ほうじん土地とち家屋かおく金銭きんせんなどの財産ざいさん
        資産運用は、そのような財産を投資とうしに使ってやすこと。
     託児…乳幼児にゅうようじあずけて世話せわをたのむこと。
     無償…報酬ほうしゅうのないこと。報酬は、働いたり物の使用しよう対価たいかとして
        もらう金品。
     道徳…社会生活しゃかいせいかつ秩序ちつじょをなりたたせるために、個人こじんまもるべき
        規範きはん
     領域…あるものの関係かんけいする範囲はんい
     被災地…災害さいがいを受けたところ。
 


 
1 田中さんは、★「問題を解決する人」について、具体的ぐたいてきにどんな人だと言
 っていますか。
2 田中さんは、少子化対策をおこなさいわたしたちが心がけることを2つ上げて
 います。 それはどんなことですか。
3 田中さんはお金についてどう言っていますか。次の文の( )に入る言葉ことば
 を、文章中ぶんしょうちゅうからさがしなさい。
  ・( 4字 )の不足は大きな問題だが、それはあくまで個人的なことだ。
  ・( 5字 )は社会の問題であり、税や社会保険料として払う先にあるも
   のに目を向けるべきだ。
  ・人々が助け合って生活するために( 2字 )が存在し、( 2字 )は助け
   合う手段の一つに過ぎない。
 
 



*もう一度読んでみよう。

  ――少子高齢化で、労働力人口が2割減、つまり「8がけ」になると予想される2040年。すでに、様々な分野で働く人の不足が顕在化し始めています。今後、社会が成り立っていくのか、不安は大きいです。
 不安の源泉は、問題を解決する人の不足です。そもそも、私たちの社会は、誰かが働いてくれることで成り立っています。逆にいえば、働く人がいなければお金の力は消えます。
 ――とはいえ、政府は個人の預貯金を投資に回すことで、老後不安を解消しようとしています。
 資産運用立国で日本復活というストーリーは、あまりにお花畑的で心配しています。2019年に『老後資金が2千万円不足する』という金融庁の報告書が出ました。確かに、個人にとってお金は大事ですが、いくらみんなが上手に資産運用してお金を増やしたとしても、将来の不安は解決しません。
 ――なぜでしょうか。
 根本的な問題は、私たちが老後に働けなくなったとき、介護や医療を含めて、必要なサービスを提供するために働く人が減ってしまうからです。社会全体で労働やモノが不足しているときは、お金ではどうすることもできません。
                (略) 
(少子化対策について)
 いまの親たちが他の人に協力を求めるには、お金を払って託児や家事代行のサービスを利用するしかない。その金銭的な支援をする必要があります。税や社会保険料として払ったお金のむこうで誰が働いて、誰が幸せになるかに注目すべきです。
 そして何よりも、僕たち一人ひとりが『社会で子どもを育てている』という意識を持つことが必要です。しかし、GDPを伴わない無償の助け合いは経済活動にカウントされず、道徳の領域に追いやられてしまう。人々が助け合って生活するために経済が存在し、お金は助け合う手段の一つに過ぎません。
 ――各地の現場を取材していると、人口減少や働き手の不足は、ゆっくり進む災害のような気がしています。
 災害が起きたとき、多くのボランティアが被災地に入るようになりました。いくらお金があっても、現場で助けてくれる人がいないと目的は達成できない。だからこそ幅広い連帯感が生まれ、僕たちは『日常生活を取り戻す』という目的を共有できるのです。 


〈こたえ〉
1 働く人
2・働く人が、託児や家事代行のサービスを利用するときの金銭的な支援。
 ・『社会で子どもを育てている』という意識を持つこと。
3 老後資金、少子高齢化、経済、お金



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