見出し画像

「もしトラ」で起きうること

(写真     トランプ氏と38歳の実業家じつぎょうか、ビベック・ラマスワミ氏)

 トランプ大統領再選だいとうりょうさいせん現実味げんじつみびるなか、日本にほんでは人気小説にんきしょうせつをもじり、「もしトラ」(もしトランプ氏が再選さいせんされたら)という言葉ことばっている。日本政府せいふ今後こんご国際政治こくさいせいじ行方ゆくえをシミュレーションしている。
 というのも、トランプ氏は17ねん大統領就任前だいとうりょうしゅうにんまえから「米国べいこく同盟国どうめいこく相応そうおう負担ふたんをしていない」と不満ふまん表明ひょうめいし、日本や韓国かんこく負担増ふたんぞう要求ようきゅうきつけるなど、強硬きょうこう姿勢しせいをとったからだ。
 もしトランプ氏がかえけば、おなじようなことがきるのか……。いや、それどころか前回ぜんかいよりもさらに孤立主義的こりつしゅぎてきで、さらにポピュリストてき傾向けいこうつよまる可能性かのうせいがあることを、日本にほんまえておくべきだ。
 トランプ前政権ぜんせいけんでは、ペンス前副大統領ぜんふくだいとうりょうら、共和党きょうわとう伝統的でんとうてき保守派ほしゅは側近そっきん影響力えいきょうりょくっていた。だが21年1月6日の米連邦議会議事堂襲撃事件べいれんぽうぎかいぎじどうしゅうげきじけんなどをきっかけに、ペンスをはじめ、すでにトランプ氏とたもとをわかった元側近もとそっきんおおい。
 こうしたなか、トランプ氏が再選さいせんされれば、自身じしんに「忠誠ちゅうせい」をちか人物じんぶつ閣僚候補かくりょうこうほにするなど、MAGA勢力せいりょく影響力えいきょうりょくがさらにすことになる、との見方みかたがワシントンではつよまっている。米保守系べうほしゅけいシンクタンク、ハドソン研究所けんきゅうじょ日本部長にほんぶちょうのケネス・ワインスタイン氏は「共和党きょうわとうの(伝統的でんとうてきな)保守派ほしゅははトランプ前政権ぜんせいけんほどの影響力えいきょうりょくつことができず、ポピュリストのちからすだろう」とかたる。そうなれば、日本をふく同盟国どうめいこくへのさらなる影響えいきょうけられないだろう。
 トランプ前政権ぜんせいけんでは、当時とうじ安倍晋三首相あべしんぞうしゅしょうとの緊密きんみつ個人的関係こじんてきかんけいつうじてトランプ氏の対日理解たいにちりかいうながされ、日米関係にちべいかんけいささえたといわれてきた。いまや「トランプ現象げんしょう」はよりひろく、より根深ねぶかくなっている。
 次期じき28ねん大統領選だいとうりょうせんにトランプ氏が出馬しゅつばしなくとも、トランプ氏を中心ちゅうしんとしたMAGA運動うんどうが「ポスト・トランプ」に影響えいきょうあたえることは十分考じゅうぶんかんがえられる。トランプ氏側近しそっきん地位ちいをうかがうラマスワミ氏が主要候補しゅようこうほになることもありうるし、トランプ路線ろせん継承けいしょうするあらたな候補こうほ人気にんきあつめるかもしれない。
 たしかなのは、「トランプ氏の4年間よねんかんをなんとかしのぐ」だけでは、もうまないということだ。
 かつて民主主義みんしゅしゅぎかかげ、圧倒的あっとうてき軍事力ぐんじりょく経済力けいざいりょくで「世界せかい警察官けいさつかん」とばれた米国べいこく国内政治こくないせいじは、いまや国際社会こくさいしゃかいにとってのおおきな「リスク」になっている。トランプ氏に象徴しょうちょうされる孤立主義こりつしゅぎひろがる米国は、国内こくない分断ぶんだんへの処方箋しょほうせんつけられず、くるしんでいるようにわたしにはえる。

 *MAGAはトランプ氏が掲げるスローガン、「Make America Great
  Again(米国をふたた偉大いだいに)」の頭文字かしらもじで、トランプ氏を支持しじする運動うんどう
  を言葉ことばだ。民主党みんしゅとうのバイデン大統領だいとうりょうは「米国べいこく民主主義みんしゅしゅぎ破壊はかいして
  いる」「過激主義かげきしゅぎ」だと、この運動うんどう批判ひはんしてきた。
           (2024年3月2日朝日新聞WORLD INSIGHT清宮涼)


〈ことば〉
もじる…滑稽こっけい風刺ふうしをねらって、よく知られた詩文しぶん文句もんくなどをまねて言い
    かえること。
   (滑稽…おかしかったりばかばかしかったりして笑えること。
    風刺…他のことにかこつけて社会しゃかい人物じんぶつ遠回とおまわしに批判ひはん非難ひなんする
    こと。)
相応…つりあいがとれていること、ふさわしいこと。
負担…自分の仕事しごと義務ぎむ責任せきにんなどとしてけること。
強硬…自分の意見いけんなどをつよ主張しゅちょうしてゆずらないこと。
踏まえる…あるものを判断はんだんかんがええ方のよりどころとする。
たもとをわかつ…なかまと関係かんけいつ。
出馬…選挙せんきょ立候補りっこうほすること。
側近…権力者けんりょくしゃ身分みぶんたかい人のそばにつかえること。
しのぐ…えしのんでなんとか難局なんきょくを切り抜ける。
過激…とてもはげしいこと。
 


1 トランプ氏の政治手法せいじしゅほうを、筆者ひっしゃはどう表現していますか。2つあげなさい。
2 かつてのアメリカは、世界せかいでどのような地位ちいにあったのですか。
3「現実味」の「味」は状態じょうたい程度ていどあらわ接尾語せつびごです。いくつか紹介しま
 す。
 ① 仕事をしっかり覚えればそのおもしろみもわかる。
 ② 温かいものを飲んで、彼女のほおにうっすら赤みがさした。
 ③ 今度の仕事はマージンが大きいので、うまみがある。
 ④ 最近のケーキは砂糖が控えめで、甘みが感じられない。
 ⑤ ハラペーニョは唐辛子tougarasiより辛みが強い。
 


 
*もう一度読んでみよう。

トランプ氏の大統領再選が現実味を帯びるなか、日本では人気小説をもじり、「もしトラ」(もしトランプ氏が再選されたら)という言葉が飛び交っている。日本政府も今後の国際政治の行方をシミュレーションしている。
 というのも、トランプ氏は17年の大統領就任前から「米国の同盟国が相応の負担をしていない」と不満を表明し、日本や韓国に負担増の要求を突きつけるなど、強硬な姿勢をとったからだ。
 もしトランプ氏が返り咲けば、同じようなことが起きるのか……。いや、それどころか前回よりもさらに孤立主義的で、さらにポピュリスト的な傾向が強まる可能性があることを、日本は踏まえておくべきだ。
 トランプ前政権では、ペンス前副大統領ら、共和党の伝統的な保守派の側近が影響力を持っていた。だが21年1月6日の米連邦議会議事堂襲撃事件などをきっかけに、ペンス氏をはじめ、すでにトランプ氏とたもとをわかった元側近も多い。
 こうしたなか、トランプ氏が再選されれば、自身に「忠誠」を誓う人物を閣僚候補にするなど、MAGA勢力の影響力がさらに増すことになる、との見方がワシントンでは強まっている。米保守系シンクタンク、ハドソン研究所日本部長のケネス・ワインスタイン氏は「共和党の(伝統的な)保守派はトランプ前政権ほどの影響力は持つことができず、ポピュリストの力が増すだろう」と語る。そうなれば、日本を含む同盟国へのさらなる影響は避けられないだろう。
 トランプ前政権では、当時の安倍晋三首相との緊密な個人的関係を通じてトランプ氏の対日理解が促され、日米関係を支えたといわれてきた。いまや「トランプ現象」はより広く、より根深くなっている。
 次期28年の大統領選にトランプ氏が出馬しなくとも、トランプ氏を中心としたMAGA運動が「ポスト・トランプ」に影響を与えることは十分考えられる。トランプ氏側近の地位をうかがうラマスワミ氏が主要候補になることもありうるし、トランプ路線を継承する新たな候補が人気を集めるかもしれない。
 確かなのは、「トランプ氏の4年間をなんとかしのぐ」だけでは、もう済まないということだ。
 かつて民主主義を掲げ、圧倒的な軍事力と経済力で「世界の警察官」と呼ばれた米国の国内政治は、いまや国際社会にとっての大きな「リスク」になっている。トランプ氏に象徴される孤立主義が広がる米国は、国内の分断への処方箋(せん)を見つけられず、苦しんでいるように私には見える。

 *MAGAはトランプ氏が掲げるスローガン、「Make America Great 
  Again(米国を再び偉大に)」の頭文字で、トランプ氏を支持する運動
  を指す言葉だ。民主党のバイデン大統領は「米国の民主主義を破壊して
  いる」「過激主義」だと、この運動を批判してきた。

 


〈こたえ〉
1 孤立主義的、ポピュリスト的 (ポピュリストとは、大衆迎合主義と訳さ
 れる)
2 民主主義を掲げ、圧倒的な軍事力と経済力で「世界の警察官」と呼ばれ
 た。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?