「ふくし」はすぐ目の前に 憲法13条は「日常の支え合い」から
「はじめてのふくし」。愛知県にある日本福祉大学が20年前から毎年、高校生などに向けた学習教材にと作成しています。
「『ふくし』って何だろう?」という問いかけに続く見出しは、「だれもが持っている幸せになる権利」です。もともと「福祉」は「幸せ」の意味で、英語の「welfare」「wellbeing」の言葉のつくりからもわかるように「快適に生きる」ことだと説明しています。
名古屋駅から電車で1時間ほど、知多半島にある美浜町の大学のキャンパスで、地域福祉論が専門の原田正樹学長(58)に話を聞きました。
ひらがなで書く「ふくし」は、全国の社会福祉協議会で30年ほど前から使っているそうです。
「ふ」だんの「く」らしの「し」あわせ
冊子の原点は「他人事の福祉ではなく、自分ごとと考えてもらいたい」との思いにあるといいます。
「知り合いの学校の先生が、子どもたちに『普段の暮らしの幸せをいつ感じる?』と聞くと、『ご飯を食べているとき』『お風呂に入るとき』『遊んでいるとき』と答えたそうです。それってすごく大事なこと。大きな地震や自然災害が起きたり、戦争が始まったりすると、『ふくし』はすぐに失われます。身近にある『ふくし』こそが大切。みんなが『ふくし』を『自分ごと』と感じれば、これからの社会の支え合いは頼もしく、大きく変わっていくと思うのです」
憲法25条は国の責任で、13条はみんなで
原田さんには30年ほど前、重度の身体障害者施設で働いていたときに、施設を出て自立した生活をめざす利用者を支えた経験があります。当時はバリアフリー住宅もなく、不動産会社も公営住宅も冷たい対応で、「共生社会など絵に描いた餅」と思い知らされたそう。政府から押しつけられる地域共生社会ではいけない、そんな思いが根底にあるのでしょう。解説は憲法をもとに続きます。
「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とうたう25条。この生存権は国の責任でしっかり進めるべき「福祉」だそうです。
一方で、13条は「すべて国民は、個人として尊重される」「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」を掲げます。ここに「ふくし」の大切なポイントがあると言います。
「自己実現や生きがいをどう高めていくのかという13条の精神は、個人のボランタリーな活動や市民社会、企業も含めて社会全体でつくりあげていくものだと思います。戦後、日本の福祉制度は25条を出発点に、この80年近く一生懸命頑張ってきました。これからは25条に加えて、幸せの追求を支えていく13条の考え方を専門職や行政だけでなく、みんなで共有していくことが重要になります」
(2024.1.21朝日新聞 伊藤裕香子)
〈ことば〉快適…気持ちよく、すごしやすいようす。
冊子……糸でとじた本。
憲法…日本国憲法
掲げる…①目につくように、高いところに上げる。
②新聞、雑誌などに書いて載せる。
1「25条」「13条」は、日本国憲法の条文です。それぞれどんな文章です
か。ただし13条については続きがあります。わかるところまで取り出して
みよう。
2「憲法25条は国の責任で、13条はみんなで」の段落で、原田さんの思いを
記者が推しはかって(きっとそうだろうと考えて)かいているところがあります。どこですか。
3「絵に描いた餅」とは、実際には何の役にも立たないこと、または実現の見込みがないことのたとえです。同じ意味の言葉を紹介します。
① 机上の空論 例) 山をくりぬいて道路を通すなんて、当時は机上の空論だ
った。
② 砂上の楼閣 例) 当初は素晴らしい計画に思えたが、砂上の楼閣に過ぎな
かった。
③ 畳の上の水練 例) 本を読んでできるつもりになっても、畳の上の水練
だ。実際にやってみた方が良い。
*もう一度読んでみよう。
「はじめてのふくし」。愛知県にある日本福祉大学が20年前から毎年、高校生などに向けた学習教材にと作成しています。
「『ふくし』って何だろう?」という問いかけに続く見出しは、「だれもが持っている幸せになる権利」です。もともと「福祉」は「幸せ」の意味で、英語の「welfare」「wellbeing」の言葉のつくりからもわかるように「快適に生きる」ことだと説明しています。
名古屋駅から電車で1時間ほど、知多半島にある美浜町の大学のキャンパスで、地域福祉論が専門の原田正樹学長(58)に話を聞きました。
ひらがなで書く「ふくし」は、全国の社会福祉協議会で30年ほど前から使っているそうです。
「ふ」だんの「く」らしの「し」あわせ
冊子の原点は「他人事の福祉ではなく、自分ごとと考えてもらいたい」との思いにあるといいます。
「知り合いの学校の先生が、子どもたちに『普段の暮らしの幸せをいつ感じる?』と聞くと、『ご飯を食べているとき』『お風呂に入るとき』『遊んでいるとき』と答えたそうです。それってすごく大事なこと。大きな地震や自然災害が起きたり、戦争が始まったりすると、『ふくし』はすぐに失われます。身近にある『ふくし』こそが大切。みんなが『ふくし』を『自分ごと』と感じれば、これからの社会の支え合いは頼もしく、大きく変わっていくと思うのです」
憲法25条は国の責任で、13条はみんなで
原田さんには30年ほど前、重度の身体障害者施設で働いていたときに、施設を出て自立した生活をめざす利用者を支えた経験があります。当時はバリアフリー住宅もなく、不動産会社も公営住宅も冷たい対応で、「共生社会など絵に描いた餅」と思い知らされたそう。政府から押しつけられる地域共生社会ではいけない、そんな思いが根底にあるのでしょう。解説は憲法をもとに続きます。
「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とうたう25条。この生存権は国の責任でしっかり進めるべき「福祉」だそうです。
一方で、13条は「すべて国民は、個人として尊重される」「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」を掲げます。ここに「ふくし」の大切なポイントがあると言います。
「自己実現や生きがいをどう高めていくのかという13条の精神は、個人のボランタリーな活動や市民社会、企業も含めて社会全体でつくりあげていくものだと思います。戦後、日本の福祉制度は25条を出発点に、この80年近く一生懸命頑張ってきました。これからは25条に加えて、幸せの追求を支えていく13条の考え方を専門職や行政だけでなく、みんなで共有していくことが重要になります」
〈こたえ〉
1 25条…すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
13条…すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国
民の権利(ここから続き)については、公共の福祉に反しない限り、立法その他
の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
2 「政府から押しつけられる地域共生社会ではいけない」
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