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『新潟市西区のむかしばなし』第1話「ふたりの姫様」

このお話を新潟で育ったみんなに捧げます。

【はじめに】

僕は、一万年以上前に新潟市西区で暮らしていた。

そのころはまだ、新潟市西区という区分けも無く、五十嵐、寺尾、上新栄町、小針、坂井という地名も無かった。

五十嵐は大きな砂の丘で、寺尾はその砂の丘のさきの、小さな山。僕はその山のすそので、ふたりの姫様とみんなで楽しく暮らしていた。

上新栄町には、だんだんの丘がひろがっていて、ウミドリの浜辺があった。

西川は今よりも大きくて、坂井の川辺にはイネが生い茂っていた。

寺尾の山のすそのは、西川へむけて、右はウサギの野原、左は緑のはらっぱがひろがっていた。

僕たちは、寺尾の山のてっぺんと西川をまっすぐにつなぐ、ながいながい道をつくった。

今ではもう、道の大部分は無くなってしまったけれど、幸いなことに、道のあたまとしっぽだけは残っている。

あたまは寺尾神社の参道

しっぽは大曲ポンプ場

一万年以上たった今でも、まだ残っている。

ほかにも、あちこちに、僕たちの暮らしたあとが残っている。

君に、見てほしいんだ。

今から僕は、君の体にもぐり込む。

君は僕になって、一万年以上前の、僕の記憶を知ることになる。

今から僕が、おかしな言葉で数字を いち から じゅう まで 数える

数え終わったら

きみは ぼくだ

いくよ













開く

海のね

大きな山

ごつごつ岩

小さな浜辺の

ひとつも 無い

えんえん つづく

あまた の せきこ

ようやくみつけた砂浜 に

船をひきあげた僕たち は

日暮れと ともに ねむりに 落ちた

海 の お と を ゆ り か ご に

【第1話】ふたりの姫様 

《行動範囲》五十嵐一の町 上新栄町 寺尾上一丁目 寺尾

春の あかりが 船にさし込む

めをさました僕たちは ひとり またひとりと 砂浜へ足をはこぶ

ねむいまぶたをこすりながら 深呼吸をする

しおっからい空気が からだじゅうにしみ込む

からだがおきる

あたまがさえる

め が ひらく

僕たちは だだっぴろい金色の砂浜の上にいた

金色の砂浜のむこうに 金色の砂の丘がみえる

遠くまでつづく ながい ながい 金色の砂の丘

あまりのすごさにみとれていると

ふたりの姫様が 船から ぱふり と おりてきた

砂に 小さくて可愛い 足あとがつく

ふたりの姫様は めをまあるくして 金色の砂の丘に みとれていた

僕たちは砂の丘を駆けあがった

砂の丘のさきに 緑でおおわれた 小さな山がみえる

背丈もそれほど高くない 僕たちにちょうどいい 小さな山

僕たちは ふたりの姫様と 砂の丘の上を歩いて 小さな山へむかった

ふわふわの砂 気持ちいい

少し 歩きづらいけど 気持ちいい

草が ひとり ふたり 僕たちをみあげている

僕たちは はじめまして と 挨拶をする

草も はじめまして と 僕たちに挨拶をする

気がつくと 砂が 土になっている

とても歩きやすい

僕たちの足どりは 土にたすけられ かるくなり あっという間に 小さな山についた

緑がいっぱいだ

それに ずいぶんと見晴らしがいい

ウミドリたちの声がする

海のほうにめをやると そこには だんだんの丘 が ひろがっていて ウミドリたちが遊んでいた

ふたりの姫様が いちもくさんに駆けおりた

だんだんの丘を ぴょこん ぴょこん と はねおりて ウミドリたちのほうへとむかっていった

僕たちはあわてて ふたりの姫様をおいかけるのだけど ウミドリたちが 僕たちをにらみつける

ふたりの姫様が ぷっ と 笑い ウミドリたちを やさしく 撫でる

ウミドリたちが 飛んで行く

僕たちは ひとまず安心して だんだんの丘の下の砂浜についた

小さなカニが歩いている

可愛い

海はあさく 海水はすきとおり 色とりどりのサカナたちが泳いでいた

カイもいる わんさかいる ゆめのような浜辺だ

ふりかえると だんだんの丘が僕たちをみおろしている

緑と土でできた両手をひろげて おおらかに笑っている

ウミドリたちが 誇らしげに空を舞う

ふたりの姫様が 砂浜まで てちてち おりてきた

みんなで 海で遊んだ

びちゃびちゃになって カイやサカナをつかまえた

ほとんどのカイは ウミドリたちにあげた

サカナは 日が暮れたらみんなで焼いて食う

だんだんの丘にすわり みんなで海をながめた

西の空で 太陽が手をふっている

そろそろ 日が暮れる

そのまえに 山の中をみておこう

僕たちは丘の上にもどり 山に入った

緑が生い茂っている

たくさんの木が いる

たくさんのヘビが いる

ひきかえそう

山のすそのに 野原がひろがっていた

夕日に照らされて

とても綺麗だ

僕たちは 夕日のゆびさすとおり すそのへくだり そこで火を起こし 夜を過ごした

サカナが おいしかった


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