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「作家の時間」を始めよう!

年間を通して、書いて表現することを授業する「作家の時間」。この春、5年目の実践をスタートさせました。今回は作家の時間を始めるときに私が気をつけていることをまとめました。

「作家の時間」とは何かについて知りたい方は、昨年の実践記録をお読みいただければと思います。

3学期は実践記録をまとめられず心残りですが、他のやることで手一杯だったので書けませんでした。
3学期は、クラス全体で作品集を作り、製本しました。とてもよい記念になりました。

「作家の時間」の下準備

今年度は4年生の担任です。昨年度担当していた学年の子どもたちを引き続き担任しています。(ただし、クラス替えがあるため、全ての子がそのまま持ち上がりというわけではありません。)
作家の時間をスタートさせるには、いろいろな下準備が必要です。

①学年の先生たちに伝える

「作家の時間」は、学校が出している年間予定には入っていないカリキュラムなので、勝手にやると面倒なことになります。「作家の時間」という実践があること、それをやってみたい理由、「通常の国語のカリキュラムを妨げずにできる」という見通しを学年の先生に伝え、理解を得ます

学年の先生も一緒にやることができたらとても良いですが、なかなか難しいと思いますので、まずは自分でやってみることができる環境を整えることに注力し、「やってみたい」という人が出てきたら、一緒に取り組んでいくのがいいと思います。

②年間のカリキュラムを見通す

「作家の時間」を公立小学校で行っていくには、時間の捻出が大事なポイントになります。一番取り組みやすいのは2年生です。国語が週に9時間も取れるので、その1時間を「作家の時間」に充てても、他の授業に支障が出にくいです。3・4年生も比較的取り組みやすいです。上手にカリキュラムマネジメントして、週1時間程度捻出したいところです。

5・6年生は、国語の時数が少ないので、毎週1時間取るのはとても難しいのではないかなと思います。ただ、定期的に書くことの授業を行うことで、その楽しさに気付き、空き時間などに取り組む子も出てくると思うので、チャレンジしてみる価値はあると思います。

どの学年で行うにしろ、大事なのはカリキュラム全体を見通し、計画を立てることです。私は、国語のカリキュラムだけでなく社会科や理科、総合などのカリキュラムもじっくりと見て、他教科と共通で時数を確保できるものを探します。例えば、「新聞」を取り扱う単元があったら、社会科の時数として一部を社会で取れないかと考えます。国語の授業だけで新聞を取り扱うとそこに多くの時間が割かれてしまいますが、社会科の学習とうまく組み合わせると、国語的な説明以外は、社会科として時数カウントできます。

ちなみに、「新聞」は「書くこと」に重点を置いた学習なので、作家の時間で取り組んでもよいのですが、作家の時間では、全員が新聞を書くとは限りません。そのため、その学年に新聞を書くことを取り扱う単元があった場合、学年の他のクラスと合わせて、新聞を作家の時間以外の時間に全員に書かせ、それを評価対象とします。他クラスと足並みをそろえるためには、そのような調整は大切です。

とは言え、新聞の授業に配当される時間をすべてその通りには行いません。全体で共通で書かせる単元では、質の良いモデルを提示し、それを参考に取り組めるようにすることで、書く力を高められるようにしています。一般的な書くことの授業は、作家の時間より自由度が低く、創造性を発揮する機会も少ないので、子どもたちの中には「書かされている」という感覚に陥る子もいます。そのため、あまり長時間をかけずにそれはそれとして取り組み、作家の時間の捻出に充てるようにしています。

最終的には、学習指導要領の内容から外れていないかどうかということで判断します。学習指導要領を読むと、教科書に沿っていなくても、その内容を押さえた授業を組み立てることは可能であることが分かるはずです。学習指導要領を参考に、「この部分は学年共通課題として一斉に取り組もう」「この部分は作家の時間の作品提出課題として設定しよう」などとカリキュラムを組み、説明できるようにしておくとよいと思います。

時間の捻出に不安がある場合や、その学年を初めて担当する人は、作家の時間を無理にカリキュラムに入れ込むことで、他の学習を圧迫し、自らの首を絞めることになる可能性もありあす。その場合は、授業期間を1年間とするのではなく、2学期からスタートしたり、3学期のみの取り組みとするのもよいかと思います。1年間しっかり取り組めば、作品の質も上がってくることは確かですが、忙しくなりすべてが中途半端になっては元も子もありません。1学期は漢字の配当時数も多いし、授業内容も多く予定されています。運動会や個人面談で通常の授業がカットになることもあります。先が読めない状況で無理にやるのは難しいので、無理のない計画を立てるようにしてください。

③保護者に説明する

作家の時間について、保護者会などで説明します。私は今まで5年間取り組んできましたが、批判の対象となったことは一度もありませんでした。1年が終わるころには「書く力がついたとか」「書くことが好きになった」という好意的な声が寄せられます。

でも始める際は、もしかしたら「よく分からない授業に時間を割いて、他の国語の授業は大丈夫なのか」と心配になる保護者がいても不思議ではありません。作家の時間という授業でどんな力が付くのかということを説明しておくと安心だと思います。通常の国語授業もしっかりとやった上で作家の時間にも取り組む旨を伝えておき、保護者の質問に筋道を立てて答えることで信頼して任せてもらえるはずです。

保護者が自分の子を見て「ああ、本当だ。書く力がついたなあ」といった実感がもてるように授業を進めていけるとよいです。子どもの姿を見て納得してもらうのが一番ですよね。

授業のスタート

①教室環境を整える

作家の時間の授業に必要な用紙を揃えます。私は、自由に子どもが使える引き出しを用意し、そこに原稿用紙・横罫の紙・縦罫の紙・白紙・裏紙を入れておきます。子どもが書きたい作品によって、自由に選べるようにします。
画用紙はどんどん使われるともったいないので、私に申し出た子にだけ渡せるように別の場所に保管しています。(下書きでは裏紙を使い、清書で画用紙を使うというように意識付けます。)

『作家の時間』(プロジェクト・ワークショップ編,2008,新論評)では、作家ノートを用意する方法が紹介されていますが、購入の手間があるので、私は下書きでノートを使いたい子は国語のノートを後ろから使うように指示しています。(もちろん作家の時間用のノートが使いたい子は自分で持ってきてもらってOKです。)

②子どもたちへの説明

一番最初の授業では、「今まで書いてきたものってどんな種類がありましたか?」と尋ねました。すると、
・行事作文 ・日記 ・紹介文 ・観察カード
・物語 ・詩 ・俳句 ・新聞 ・説明文
このような返答が出ました。
「作家の時間には、自分が書きたいものを書くことができます。」と伝えると喜ぶ子もいれば、何をやったらいいかな…と困惑する子も出てきます。

次にやることは、例示です。過去の作品集や用意した作品例からいくつか読み聞かせし、イメージをもたせます。イメージが湧いてくると、書きたい気持ちが高まってきて、早くやりたい!という声が聞こえてきます。

書くことが見つからない子は、本や作品例を読む時間にしても良いことを伝えます。ただし、書くことの参考になりそうな部分に着目して読むことを意識するように伝えます。

座席は自由にしています。机ごと移動して、好きな場所で書けるようにします。

昨年度同様、学期に1作品仕上げることを課題としました。「仕上げる」というのは、下書き→推敲→校正→清書→表紙付け を行い、クラス内で他の友達に読んでもらう(出版する)ということです。

学級全体で文集を作るという形の出版も考えられますが、去年個人出版の形で行って、良かったので今年度もこのやり方にしています。(昨年度は、3学期のみ全体の文集を作りました。今年も多分そうします。)

③活動の実際

さて、書く時間がスタートすると、黙々と書き始める子、友達と話し合う子、本や作品集などモデルを探す子といろいろです。ゆったりとした気持ちで見守ります。

書く時間がスタートすると、いろいろ質問が出ます。
2人以上で一緒に書いてもいいですか?
→いいですよ。ただ「1人がアイディアを出して、もう1人が書く」だと、アイディアを出しているだけの方はあまり書く力がつかないかもしれないから、アイディアを出し合ったらそれぞれで書くようにしたり、場面を分けて分担したりできたらいいね。
●マンガでもいいですか?
→マンガだと、絵に多くの時間がかけられることになるから、今回はマンガは無しにします。
●パソコンで調べていいですか?
→パソコンよりまずは本で調べてほしいです。パソコンで調べる場合も本で調べる場合もルールがあるから、そのやり方を次回一緒に確認しましょう。今日は、どんなことを調べたいのかリストアップしてみたらどうかな?

質問への回答は、必ずこうしなくてはならないということではありません。マンガもOKにしている先生もいます。子どもの実態によって決めるのが良いと思います。

毎年1回目は、俳句と物語が人気ですが、今年度は最初の作品紹介で説明文を紹介したせいか、調べてまとめる作品を作ってみたいという子も多かったです。また、自分の決めたテーマで新聞を作りたいという子も複数いました。「ポスターを作って応募したい」という子もいて、面白いなぁと思いました。

子どもたちの実態に応じて組み立てていくのが作家の時間の醍醐味です。1時間目の授業をやってみた感じを見て、次回は、
・調べ学習の取り組み方の説明
・ポスターの例示とポスター作りのポイント説明
を必要な子に行うことに決めました。

全体には、作品紹介を行います。普段は目立たない子が黙々と物語を書いて提出してきました。書き出しの工夫やお話の設定作りが上手だったので、お話作りをしている子や何を書こうか迷っている子の参考になりそうです。

何を全体で扱い、何を個別指導するのか悩ましいですが、とにかく書く時間を確保してあげたいので説明は短くするのが大切だと思います。

子どもたちは、教室という同じ空間で作品作りをすることで、互いに共鳴し合います。「ちょっと読んでみて」と見せ合ったり、「どうしようかなー。ねえ、どっちがいいと思う?」など声をかけてヒントを得たりします。

指導者である私は、緩やかに見守りながら、子どもたちの書く力がや人間関係を見つつ、今後のサポートの方法を考えます。
「新聞に使う用紙も複数用意しようかな。」
「ずっと絵を描いてるあの子は、何の文章なら書きたくなるかな。」
「あの子は俳句を書いてるけど、あまり思いつかないみたいだから『子ども歳時記』を渡してみようかな。」

真面目にやっているか監視するのではなく、子どもたちに好意的関心を向けて広い心で見守るのがポイントです。「時間はたっぷりあるのだから、のんびりやろう!」そんな気持ちでやっていると、子どもたちは自分から書き始めます。

終わりに

今回は作家の時間のスタートの仕方について、まとめてきました。始めると「先生、次の作家の時間はいつですか?」「家でやってきてもいいですか?」という子が必ず出てきます。
作家の時間は、一般的な国語授業とは違う大変さもありますが、やるだけの価値はあります。興味がある方はぜひ取り組んでみてほしいです。
最後までお読みいただきありがとうございました。

※こちらの本を参考にしていますが、5年間取り組む中で、かなり自己流にアレンジしています。初めて取り組まれる方は、まずこちらの本を読まれるといいと思います。

※こちらの本を書かれている石川晋さんの実践からもたくさん学ばせていただいています。作家の時間に関する内容は本の一部での取り扱いですが、国語のカリキュラムを考える上でも、新年度に国語授業を考える上でも大変参考になる1冊です。

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