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文章絵本作家の大川久乃さんに聞いてみました。

 ニジノ絵本屋の絵本作家であり、働く女性向けのコラムなどを書いているナカセコエミコさん。『ビーズのおともだち』作者であるおおにしわかと制作チームメンバーに、ナカセコさんが聞き手となってこれまでの道のりや絵本制作秘話を伺います。絵本づくりに携わったそれぞれのオンリーワン・ストーリーをご紹介します。

episode1_大川久乃

 わかちゃんが手作りで制作したオリジナル絵本『ビーズのおともだち』。商業出版をするにあたり、わかちゃんと一緒に文章を作り直したのが絵本作家の大川久乃さんです。
 絵本『ビーズのおともだち』インタビューマガジン1回目は、大川さんのこれまでのヒストリーと『ビーズのおともだち』制作秘話をお聞きします。

ずっと絵本作家を夢見ていた大川さん、創作はいつからされていたのでしょうか?

 小学校2年生ぐらいのころから漫画みたいなものを描いていて、「絵本作家になりたい」って言っていました。妖精や小人が出てくる世界が好きだったんですよ。
 高校生になるとネタ帳を持ち歩くようになって。「何か思いついたら書く」みたいなことをしていました。
学生時代に作家を目指して、本格的に活動をスタート。2002年に友人と組んで作った詩画集『tuck chick borm』がデビュー作となりました。​​​​
​​​​​​ でも、それは子ども向けの出版ではなかったんです。「やっぱり児童書をやりたい」という思いと改めて向きあうきっかけになり、絵本作家としては2012年に出した『キャベツのくすくす』で福音館書店からデビューしました。

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「絵本作家になりたい」と思ったきっかけがあったのでしょうか?

 私、「本の虫」という感じではなかったんですよ。もちろん、大きく影響を受けた作品もあるのですが、決め手は中学生のときのことです。
 当時、『素顔のままで』っていうTVドラマを観たんです。安田成美さん演じる主人公が、最初は図書館司書の仕事をしていて。ストーリーが進んでいくうちに「絵本を作りたい」っていう最初の夢を思い出して作家になるんです。そのドラマを観て、「こういう生き方があるんだ!」って思ったんです。

進路を変えずにずっと絵本作家を目指されたんですね?

 一番ありがたかったのは、両親が全面的に応援してくれたことだと思います。「夢を追いかけられることは幸せなこと。応援してあげるからやれるところまでやってみたら」って言ってくれたんです。
だから、短大の国文科に行った後に、物語作りを学べる専門学校に進むことにしました。
 「働きながら書き続けることもできるんじゃないか」​​という迷いが常にありました。けれども、母が「あなたは両方やるような器用な人じゃない気がする」と言ってくれ​​​​たこともあって、結果的に絵本作家の道一本を追い求めてきた感じです。
 でもアルバイトはいろいろとやりました!そこでの出逢いや経験にもたくさん思い出があります。無駄なことは本当にひとつもありませんね。

大川さんは文章を書く絵本作家ですが、絵ではなく言葉で表現する理由は何でしょうか?

 単純に絵だと続かなかったんです。
 最初は漫画を描いていましたが、同じ登場人物を何回も描くのがどうしても続かなくて。いつのまにか言葉だけを書くようになりました。
 私にとって、言葉の方が自由に表現できたり、考えているものをスムーズに表に出しやすかったのだと思います。でも、ラフは描いていますよ。
 私の作り方として、物語の「おしまい」に着地するまでを言葉で飛ぶ、というイメージです。ページをめくるときの間とか絵の雰囲気を含めて、想像しながらいつも書いています。

順調に絵本作家になったように見えますが、大変だったことはありましたか?

 そう見えますでしょうか?でも、とにかく思い描いていたようには全然進まないように感じていました。
 でも、いつだったか「作家として恥ずかしくない文章を書けるようになろう」って思ったんです。それまでは、若干アーティスト気分だったんですよね。
 「書き直さないとお話ってよくならないんだな」「これを読む相手は誰か」という視点を持って、ひたすら書いて直して。そのうちに2000年半ばになるとコンクールで受賞するようになりました。
 だからといってすぐに出版できるというわけではなく、とにかく書いて書いて、書き直しては出版社に送って……。苦しかったですね。
 安心感や手応えみたいなものを感じるようになったのは、やっとここ1・2年ぐらいです。

創作に対する考え方が変わるきっかけが何かあったのでしょうか?

 今、森のようちえんというところに関わっているのですが、たとえば、今学期を表すような詩を書いておたよりに載せたり。書くことでも、仲間のみんなと繋がる機会をもらっています。

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 それまでは「作家になりたい」という動機で頑張ってきましたが、森のようちえんでの仕事や日々を通して、自分の中に安心感が広がっていきました。誰かと何かを作る喜びを、改めて実感できたからです。
 たとえば編集者さんが何か助言してくれたり、絵描きさんがラフを描いてくれたり。自分が見た夢や描きたい作品の景色を、一緒に見てくれて寄り添ってくれることも同じなのかもしれない。そういう絵本作りという作業は、本当に嬉しいことなんだと思えるようになったんです。
 絵本作家って誰かの夢をみんなで育むことができる。「本当に素敵な仕事なんだ」と、思えるようになったことが転機だったのかもしれません。

大川さんとわかちゃんとの出会いのきっかけを教えてもらえますか?

 かねてから漠然と、「いつか童話教室をやりたい」って思っていたんですよ。
 そして、訪れたコロナ禍。鬱々としていたときにオンラインでフリーの編集者さんが原稿を講評してくれる座談会に申し込んだんです。
 そういう場に参加することは、本当に久々でした。自分の作品を講評してもらうことがありがたかったし、私はこんなにも創作する人とのおしゃべりに飢えてたんだなって思いました。
 そのころ、ちょうど『おはなしごほん』出版記念の原画展がニジノ絵本屋であったので、あやさんに「童話教室をやってみたい」って思いきって伝えたんです。
 後日、わかちゃんのお母さんが『ビーズのおともだち』企画をニジノ絵本屋に持ってこられて。あやさんが「大川さんが言っていた童話づくりを教える企画とコラボレーションできるんじゃないか」ってピンときたそうです。
ニジノ絵本屋の磁場というでしょうか。前向きな思いや希望が集まって、人と人がつながったように思いました。

03 『おはなしごほん』原画展

大川さんから見てわかちゃんはどんな人だと思いますか?

 すごく強い。この絵本づくりは強さがないとできないことだとすごく感じるんです。でも、それを支えているのは本当に深い優しさだと思います。
 YouTubeにFoorin楽団のドキュメント動画があるのですが、わかちゃんがメンバーのりりこちゃんにビーズの説明をしているシーンがあるんですよ。聞いていたりりこちゃんが泣きそうになって思わず口ごもっちゃったときに、わかちゃんが「(質問が)なかったらないでいいよ」って言うんです。「わかちゃんって優しいな」と思いました。世界に対しての優しさとか、愛情の大切さを信じている。病気と闘いながら自分の好きな世界を表現できるということは、本当にすごいことだと思います。

<NHK>2020応援ソング「パプリカ」『Foorin楽団』ドキュメントシリーズ りりこ×わか編 https://youtu.be/DaZTm0SB8xo

わかちゃんと絵本づくりをするうえで、大川さんが心に留めていたことはありますか?

 やっぱり今回の企画は、「わかちゃんが絵本作家になる夢を叶える」っていうところだと思うんです。だから、ただの職業体験にならないようにと思いました。
 ものを作る苦悩や葛藤って大事ですよね。わかちゃんがそれを体験する機会が​​あるとしたら尊重できたらと。わかちゃんのするべきクリエイティブな作業を奪わないようにするという点にすごく気をつけました。
 私は、わかちゃんをこのプロジェクトの仲間だと思っています。わかちゃんの夢を一緒に叶えようとしている仲間。だからこそ、遠慮をしたり説明をはしょったりしないように、絵本作家としての姿勢を伝える。今回、私の使命はたぶんそこだろうって感じたんです。
 実際の進行作業は、きっとあやさんやまりなさんがしてくれる。だから、私は「絵本作家の先輩としてずっと見ているよ」っていう、お姉さんみたいな立ち位置でいたいなと最初からイメージしていました。

わかちゃんが作った作品を出版物としてのクオリティにする作業で大事にしたことはありますか?

 最初にわかちゃんのお母さんからのオーダーとして、「ちゃんとプロが作った絵本として世に出したい」ということがありました。
だから、「この作品で一番言いたいことは何か」「どこが一番魅力になるのか」ということをわかりやすく見えるように心がけました。

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 そういうことって書いた本人は意外とわからないので、くっきり見えるように整理をする。具体的にページ割りを考えて、「この場面が山場ですね」などとストーリーの航海図みたいなものをしっかり提案しました。

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『ビーズのおともだち』を通じて、大川さんが伝えたい人・ことはありますか?

 わかちゃんと出会って「運命だな!」と感じたのは、私も小学生のときに絵本作家になりたいと思っていたことです。そして、わかちゃんが好きなものが妖精で、私も妖精のお話を書きたかった。わかちゃんが私にくれた素敵な機会だなあって思っています。
 この企画が実現したのは、わかちゃんの強い気持ちがあってこそ。だから、いろいろな人が繋がったのだと思います。
 大好きなものって、胸の中を探すと夢見ていた当時のままに出てくることってありませんか?わかちゃんが描いた妖精への愛みたいなものが、私も自分のことのように感じられてすごく元気が出たんです。
 だから、「何かを好きという思い」や「夢」。それは本当に素敵でマジックみたいなものなんだと、年齢を問わずたくさんの方に実感してもらえたらと思います。
 それから、絵本の中にキラちゃんっていう妖精が朗読するシーンがあるんですけど、この部分はわかちゃんや読者の方々へ私からのプレゼントなんです。

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 わかちゃんのお母さんから、「ここは大川さんの言葉を書いてほしい」と言っていただいたので、心を込めて書かせてもらいました。

最後に一言!

 実は、キラちゃんの詩の部分を歌(曲)にしてみました。夫が音楽家なので、メロディを作ってもらったんです。(後日、楽譜と共にアップ予定です!お楽しみに)

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 私自身、音楽を交えた絵本の会を開催していたことがありましたが、読み聞かせと音楽って相性がいい​​ですよね
 いつか、わかちゃんとこの歌を一緒に歌いたいな。私も新たな夢が広がっています!

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大川久乃 絵本童話作家・詩人 / 『ビーズのおともだち』文担当
著書に『おはなしごほん』(あかね書房)『キャベツのくすくす』『はたきがけこうしん』『すごいねじょうずだね』(福音館書店こどものとも)『tuckchickborn』(婦人生活社)などがある。
ミセス童話賞にて「やさしいかさ」角野栄子賞、大阪国際児童文学館主宰ニッサン絵と童話のコンクールにて「星空の手紙」佳作を受賞。
畑とヨガの学びを続けている。
https://linktr.ee/hisanook

▲絵本『ビーズのおともだち』試し読みのできる公式サイトはこちらから

インタビュアー/ナカセコエミコ
(株)FILAGE (フィラージュ)代表。書評家/絵本作家/ブックコーディネーター。
(図書館司書・キャリアカウンセラー・認定コーチ)
女性のキャリア・ライフスタイルを中心とした書評と絵本の執筆、選書を行っています。
「働く女性のための選書サービス」“季節の本屋さん”を運営中です。








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