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「働き方改革で見過ごされている“高プロ人材”の依存症」 西脇健三郎・西脇病院理事長・院長

さまざまな業界で活躍し、社会をリードする人物として、高度プロフェッショナル(高プロ)人材が挙げられる。セイラ・アレン・ベントン著「高機能アルコール依存症を理解する」の中では、米国において、高学歴で、高度な仕事をこなす能力があり、社会的にも地位が高い人たち、いわゆる高プロがアルコール依存症に陥る高機能アルコール依存症者としての実態が記されている。その特徴と特性は「見栄えのする成功に固執する。承認欲求が強い。コミュニケーション能力にたけている。エネルギッシュで身体的にタフ。競争心が強い。仕事が几帳面。頼まれると断れない傾向が強い。専門的なスキルや学業をこなす能力が高い」といったものである。

こうした高プロとアルコール依存症とは一見結びつかないように思えるが、診察室ではよくお目にかかるタイプであり、日本の地方都市でも、高機能アルコール依存症者との出会いは珍しくない。特に最近は、アルコールのみならず、薬物依存、そしてギャンブル、万引き、盗撮といった「行為依存」に陥った人も増えている。ベントンの指摘に、日本人患者ならではの特徴・特性を加えるとすれば「協調性、過度の思いやり(気遣い)」と「おもてなし(気配り)」があり、総合的に言えば、高機能依存症とは「模範的で素直でいい子」が陥る、と言っていい。

2019年4月から働き方改革関連法が施行された。これは「模範的に素直ないい子」の働き過ぎに対する仕組みと言っていいだろう。だが、この規制には労働時間を規制対象外とする高プロが含まれている。人手不足が深刻化する中で、現在も「過労死」「心の病」といった用語が巷にあふれ、その対応として心のケアが叫ばれているものの、具体的な対策は皆無に等しい。結果、生産性を高め、新たな日本の活力を生み出すことが期待される有能な高プロ人材が、アルコール依存症など依存症疾患に陥ってもおかしくない。見過ごしていないか。そのためにも働き方改革と依存症対策はどこかでリンクすべきだ。

現在、九州では長崎県佐世保市のハウステンボスへのカジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致活動が行なわれているが、IR推進法の中には特定金融業務という項目があり、簡単に言えばカジノなどでVIPなどを世話する業務で、賭け金の貸し付けも行う。このため高機能依存症者だけでなく、富裕層の依存症者の増加を懸念する声も上がっている。とはいえ、このIR推進で、ギャンブル依存症に対する関心が高まったのは間違いない。すでに、日本は公営ギャンブル、パチンコと合わせるとギャンブル大国であるにもかかわらず、依存症対策は極めて遅れている。そこで、これを機にIR設置を進めると同時に、依存症とは、我々が生活を営むこの社会で誰もが陥る可能性のある病との認識を共有し、その予防から回復支援に至るまでの環境整備をぜひとも実現すべきである。

財界九州2019年8月号掲載

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