西脇健三郎(ニーケン)

精神科医/食べ歩き、読書、映画鑑賞/好き本:ちょっとピンぼけ(ロバート・キャパ)、黄昏…

西脇健三郎(ニーケン)

精神科医/食べ歩き、読書、映画鑑賞/好き本:ちょっとピンぼけ(ロバート・キャパ)、黄昏流星群/最悪を覚悟して最善を尽くす/2009年~2014年までブログやっていましたが、古希を過ぎてまた始めます。

最近の記事

水原一平氏とギャンブル依存症

★大谷翔平選手の元通訳水原一平氏について『週刊文春 2024年4月4日号』は次のように伝えている。 ★『機能の全体的評定心理的、社会的、職業的機能を考慮した精神健康度の尺度(Global Assessment of Functioning)』 通称『GAF』を用いて、我々精神科医は、患者(当事者)の精神生活能力の評価を行っている。100から0までに評価ランクが設けられている。そして、慢性期療養病棟における入院処遇、あるいは精神科訪問看護を要する対象患者(当事者)はGAF4

    • 2024年精神保健福祉法改正も、やはり時代遅れ

      2024年精神保健福祉法 改正のポイント(2024.4.1施行) 医療保護入院の見直しとして 「医療保護入院の入院期間は、入院当初3ヶ月で精神科病院機関ごとに入院要件を確認、更新の届け出。・・・」となっている。 では入院から3ヶ月以内ならやりたい放題なのかな? 精神科救急(スーパー救急)病棟からの患者 ここで2012年から私が関わりを続けている患者を紹介したい。 当時、離脱症状が出現した女性のアルコール依存症者が精神科救急入院料病棟に入院となった。入院形態は医療保護入

      • 任意入院は要らない!!

        ★コロナ禍流行当初から、マスク着用は「任意」 しかし瞬く間に一億総マスク着用社会に・・・。そして、2023年3月13日よりマスク着用は「個人の判断」と国は盛んにアナウンスメント。「任意」と「個人の判断」の違いは何ですか? 最近(2024年3月現在)、街を歩いていて、先方がマスク着用のまま声掛け、挨拶をされ、どなたか分からず失礼することがしばしば、コロナ禍以前は全くなかった体験。認知機能低下が進行中の後期高齢者の私が失礼したのではないか、と・・・。 “婆さんは怖くてマスク

        • 精神科救急(スーパー救急)の行方  時代遅れから再生へ

          日本精神科救急学会は、 2023(令和5)年10月16日「~ケア対象に一定の重症であることを求める目的で入院形態を代用する考えは時代遅れである~」とした声明文を出している。 ▲補足「重症であることを求める目的で入院形態」とは、きっと非自発的入院(主に医療保護入院)のこと。 ◎2023年10月16日 令和6年診療報酬改定に関する声明(2) 日本精神科救急学会HP(https://www.jaep.jp/2023seimei_2.html) ◎十年一昔、一時代前の講演会と印

        水原一平氏とギャンブル依存症

          精神科救急(スーパー救急)の不都合な真実

          ★ 精神科救急急性期医療入院料 2002年の診療報酬改定により新たに精神科救急(スーパー救急)病棟が設置された。それは精神障害者の急性期症状への迅速な対応と、入院期間を3ヶ月以内に設定することで長期に及ぶ社会的入院の抑制を図る狙いがあった。よって、その取得基準はハードルが高く、もちろん、そのため入院費は精神科医療の中では最も高額なものとなった。しかもそれは患者の人権に配慮した良質の精神科医療を提供するものとして、権利擁護を唱える団体等に対しても好意的に受け入れられた。そし

          精神科救急(スーパー救急)の不都合な真実

          どうする精神保健指定医 ②

          ★精神保健指定医の役割 精神保健福祉法第20条「精神科病院の管理者は、精神障害者を入院させる場合においては、本人の同意に基づいて入院が行われるように努めなければならない」(以下「・・・任意入院に努める」)と。 この条文は1987年に精神衛生法改正(精神保健法)で新たに定められたものである。それと同時に精神保健指定医が制度化されている。そしてこの制度は有資格者のみ一定の医療行為を業務独占的に行い得る権限を与える専門医制度(例えば、技術的高度性に着目して設けられる制度とは異なる

          どうする精神保健指定医 ②

          どうする精神保健指定医 ①

          ★その成り立ち 1983年、栃木県にある精神科病院、宇都宮病院で起きた不祥事の反省に立って、1987年にそれまでの精神衛生法が改正され、精神保健法が成立(後精神保健福祉法)した。そこで患者の自己決定権を尊重した任意入院を基本とする入院形態の仕組みが設けられた。 その設けられた仕組みの中で、病識欠如等で患者本人から治療の同意が得られず、やむを得ず強制的な入院(措置鑑定による措置入院、医療保護入院等)の判断を要する場合、さらには身体的拘束、隔離といった行動制限を行わざるを得ない

          どうする精神保健指定医 ①

          ウィークネスフォビア(弱者嫌悪)って何?

          ウィークネスフォビア(弱者嫌悪)とは、男性学研究者の内田雅克氏よる造語、つまり和製英語だ。 と定義している。 なるほど、私も過去、依存症、うつ病(双極性感情障害)で「否認」と「プライド」を抱える人たちの回復には、「自分の弱さを弱さとして認める勇気」が大切と指摘。そこで二人の著名人の「自伝」、「手記」の一部を紹介している。(『依存するということ』 西脇健三郎著 幻冬舎新書 2019) クラプトンは、世界のギターの神様として君臨。清原もまた、日本プロ野球界での人気は絶大だっ

          ウィークネスフォビア(弱者嫌悪)って何?

          マイナンバーカードと健康保険証との紐づけは、国民の健康情報の共有化に寄与するのか?

          国は今、薬剤情報の活用(電子処方箋)、カルテ情報の共有化(電子カルテ)を図ることで、国民に良好な医療健康情報を提供できるとマイナンバーカードと健康保険証との紐づけを急いでいる。 だが、私の知るところでは、21世紀初頭より国は医療情報の共有化(標準化)事業のため、別途工程を組んでいたはずだが・・・。 以下、私が知る情報・・・ ●厚生労働省は電子的診療情報事業の普及を図るとして、  2007年 「保健医療情報標準化会議」を開催。取り決めは以下の通り・・・。 ◎電子カルテ情報の共有

          マイナンバーカードと健康保険証との紐づけは、国民の健康情報の共有化に寄与するのか?

          日本の精神科医療、失われた30年

          1987年2月25日の各新聞各社は、「任意入院を原則」、「精神障害者の人権確保へ」、「社会復帰を充実」等々と一面トップ、大きく紙面を割き報じている(資料1)。で、時は流れ、2022年3月22日の西日本新聞(共同通信)には「精神科の強制入院縮小」(資料2)と。この35年間に何があったのか? 既に「一目瞭然」、「氷山の一角」等々で紹介してきたが、強制入院(医療保護入院)増加の元凶は池田小学校事件後に制度化された精神科救急入院制度である。いわゆる「ショック・ドクトリン」(資料3)だ

          日本の精神科医療、失われた30年

          映画『月』をみて

          『月』は、2016年におきた相模原障害者施設殺傷事件をモチーフとした辺見庸の同名小説を石井裕也が脚色、監督で映画化したものである。この上映にあたって様々な意見と議論がなされていると聞く。私、生業は精神科医の立場で私見を述べてみたい。 この相模原障害者施設殺傷事件当初から世論は一貫して殺害された重度障害者への哀悼とその処遇のあり方、そして加害者(植松聖)の心の闇に強い関心が寄せられ今日に至っている。とくにマスメディアはその観点で報じ続けている。 辺見庸の小説『月』は障害者施設

          もう一つの深刻な児童虐待

          今、最大手芸能事務所創業者の長年にわたる数多くの少年に対する性加害(児童虐待)についての報道、情報が連日巷を賑わしている。 そんな中、2023年9月15日、TBS NEWSDIGが『「13歳で精神科に強制入院」少年が問う裁判 母の悔根【news23】』と報じていた。 これは私の過去のブログ、「小さな記事だが氷山の一角」で紹介した同じ出来事である。TBS NEWSDIGは、当時の状況をより詳細に伝えている。その報道内容から、児童相談所、精神科医療機関の対応は明らかに児童虐待だ

          もう一つの深刻な児童虐待

          日本の衰退に精神科医療業界は加担してないか?

          では、傷病手当金を受ける対象の「メンタルヘルスにおける・・・」とは如何なる精神疾患だろうか。 軽んじられてきた「その他の精神疾患」! そこでまず、精神科領域の精神疾患(精神障害)についてだが、精神保健福祉法第五条で精神障害(精神疾患)を次のように定めている。「統合失調症、精神物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者をいう。」と。では、傷病手当金受給者とは、この法第五条が定める精神疾患(精神障害)の全てが対象になるかだが、それは否である

          日本の衰退に精神科医療業界は加担してないか?

          なぜ、(鉄)格子はいけないのですか

          格子はいけないのですか?日本經濟新聞2023年8月17日付『コロナ派生型、米で拡大 感染力強い「エリス」』と報じている。また、記事の内容では〈・・・重症化リスクは低いとされるが、感染力は強い〉。〈世界保健機関(WHO)は9日、エリスを「注目すべき変異ウイルス(VOI)にした。・・・公衆衛生への危険は低い」・・・〉と伝えている。となると、「エリス」は感染力が強いが、弱毒化している、と理解していい。加えて、空気感染は周知されている。なら今の感染対策は換気が大切。特に高齢者を多く処

          なぜ、(鉄)格子はいけないのですか

          「精神科の強制入院の課題」とは、精神科医が任意入院に努め、その腕をみがくこと

          精神科の強制入院の課題(下)毎日新聞2023年7月12日付で、平田豊明・千葉県精神科医療センター名誉院長は、強制入院の一つ「医療保護入院」の患者数を減らすにはとして、四つの条件を上げている。 入院患者の対象の患者を絞り込む あらかじめ入院期間を決める・・・ 入院中に良質な医療を提供する体制に変える・・・ 外部審査機関の強化 おっしゃる通りだが、彼の述べるところと私との違いは、彼は私がこれまでブログ等で語ってきた「精神科疾病構造の変化」図①にふれていないことである。

          「精神科の強制入院の課題」とは、精神科医が任意入院に努め、その腕をみがくこと

          佐世保・高1同級生殺害 9年~いくつもの兆候 凶行防げず~(長崎新聞 2023年7月26日付)

          だが、凶行は防げていたんだ!約2時間にわたる相談が電話で寄せられていた。相談の電話を寄こしたのは、「精神科医(精神保健指定医)」で、相談内容は、「診察している少女が、人を殺しかねないが、精神保健福祉法を適用させる状態、病状ではない。よって、要保護児童対策地域協議会(要対協)で対応してほしい!」といったものであった。 しかし、当時の児童相談所幹部職員は「(精神科)病院から丸投げは受けるな・・・」といった発言。その通報は無視された。 そして、2014年(平成26年)7月26日

          佐世保・高1同級生殺害 9年~いくつもの兆候 凶行防げず~(長崎新聞 2023年7月26日付)